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最悪なヒロイン

 Adam's Song が好きすぎて何度も何度も聞いています。

 この曲に溺れているなと思います。

 

「悪い、メラニー」

「え……」

 俺、レオンは、メラニーからナイフを取り上げ床に投げ捨てた。

 そして、抵抗するメラニーをものともせず彼女の手を縛り上げ、柱にくくりつけた。

「どう、して……」

「ああ、悪い。最初からこうするつもりだった」

 メラニーは、鬼のような形相で俺を睨み付けている。

「レオン!よくも裏切ったわね」

「ごめん」

 俺は、予定通りノエルを縛っていたロープをほどき、今度はノエルを守るために立った。

「今すぐ、裏切者を殺しなさい!」

 メラニーは、従者に向かって命令した。

 次から次へと襲ってくるメラニーの従者を次々にやっつけていく。人数は、10人以上はいるな。

 だけど、余裕だ。こんなのエリックに比べれば、ただの雑魚だ。

 

 5分もしないうちに、もう俺に歯向かおうとする奴は誰もいなくなっていた。

 計画通り。

 ノエルは、昔、誘拐されたことがあった。その時、ノエルを助けたのがエリックだった。

 もしかしたら、その時と同じことをすれば記憶が戻るかもしれない。

 そう思いメラニーの計画に乗ることにした。このままルークとノエルが結婚してしまうことが許せなかったという理由もある。

 エリックならノエルの記憶を取り戻すカギになると信じていた。だって……あいつが小さなノエルの王子様だったのだから。エリックのことは大嫌いだけど、誰よりも認めている。

 予定通り、ノエルは、記憶を取り戻した。

 計画では、俺は悪役としてノエルに嫌われることをしでかす。きっとノエルに嫌われるだろう。このことが怖くてたまらなかった。

 だけど、それ以上に手にしたい未来があったから、立ち止まっているわけにはいかなかった。昔の少女の言葉だけが頼りであり、支えであった。

 ここに、俺が謝りたくてたまらなかった少女がいる。

 謝ったら何もかも終わるわけじゃない。ここから新しい未来が待っているから、恐れる必要なんてない。

  

 俺は、一歩、踏み出した。


 けれども、ノエルは、俺なんか視界に入っていないようにボロボロのエリックに駆け寄った。


 近づこうとした足が不意に止まった。


 天使のように美しい血だらけの少年に駆け寄る妖精のようなかわいい少女。

 それは一枚の絵になるように美しい光景だった。

 俺は、その中に入ってはいけない人間である気がした。


 不意に昔の気持ちと重なった。

 考えすぎて言葉につまる。気持ち悪がられることを恐れて行動をためらう。そうしてたくさんのものを失っていった。いつだって誰かに話しかけることが怖かった。

 ああ、そうだ。

 嫌われるくらいなら近づかなければいい。気持ち悪がられるくらいなら挨拶なんてしなければいい。逃げられるくらいなら話しかけなければいい。そうやって人を避けながら、好きな人から逃げながら歩んできた。どんなにかっこよくなっても君の前では自信が持てない。


 俺は、踏み出していた方向とは逆の方向に向かって歩き出した。




   *             *



 ノエルは、これから俺、エリックに抱きついてキスでもしてくれるかもしれない。

 ウエディングドレスのノエルは、天使のように美しかった。そんなノエルから、ご褒美がもらえたらどんなに嬉しいだろうか。

 そんな期待は甘かった。

 ノエルは、俺に向かって天使のような笑顔を浮かべながらずけずけと攻撃してきた。

「あら、エリック。あなた少し髪の毛が薄くなったわね。これは将来、禿げる前兆かもしれない」

 銀色はそう偉そうにおっしゃった。感動の再会を台無しにするひどすぎる言葉だった。

 こんなにひどい言葉は、久しぶりに言われた。

 そして、何とも言えない目をしてきた。

「大丈夫だ。家系的には頭皮は安泰だから。

それより何だよ。そのもうすぐ死ぬ人間を見るような目は?」

「違うわ。私は、もう死んだ人間を見る目をしていたのよ」

「そっちの方がひでぇ」

「あなたがひどい恰好をしているからいけないのよ。私を守るためにそんなに血だらけでボロボロになるなんてその姿は……まるでゴミ捨て場に捨ててある人形のようだわ」

「ひどい言いざまだな。命がけでノエルを守ろうとする血だらけの美少年を見てときめいたりしないのか?」

 ノエルは、やれやれといった態度で肩をすくめながら答えた。

「あまりにもひどい恰好すぎてときめく気にもならないわ。

今のあなたならきっと立派なゾンビになれるわよ」

「目指していないし。大体、命の恩人に向かってその態度はないんじゃないかな」

「……嫌な命の恩人ね。あなたを人間紙飛行機にして今すぐ空に飛ばしたいわ。

 大丈夫。きっと広い世界があなたを待っている。思いっきり羽ばたいておいで」

「最後、いい感じに終わらせているが、言っていることがめちゃくちゃだな。

 感謝のキスとかしてくれないのか?」

 するとノエルは、神秘的なアメジストの瞳を挑発的にきらめかせながら答えた。

「そうね。私は、あなたに感謝してあげるわ。光栄に思いなさい」

「ああ、そうですか。だったら、俺はその感謝をわざわざ受け取ってあげることにするよ。そして、あとで、たっぷり報酬を請求するよ」

「感謝はするけど、お金はあげないわ」

 ノエルは、絶対に転んでもただでは起きないタイプの女だろう。

 ……さすが、俺が認めた女。

「それじゃあ、体で支払ってもらうことにしよう」

「それなら、私の代わりにルークにでも支払ってもらうわ」

 何それ?気持ち悪い。

「全力でお断りする。そういえば、命がけで君を守ろうとしたかっこいい俺に対する感想は?」

「ふっ。イケメンざまあ!もっと絶望に浸ればよかったのに。そして悲しみのあまり自らゴミ箱に飛び込み廃棄処分されるべきだったわ!それがあなたの生まれながらの宿命だったのに」

「そんな宿命嫌だ」

 そんな軽口をたたいていたが、ふと静寂が訪れた。

 その静寂の間、様々な光景が頭を駆け巡る。嫌なことは、避けては通れない。それくらい自分が一番よくわかっている。

「……記憶が全部戻ったのか」

「ええ。全部戻った。あなたが死にかけた私を踏みつけたことも覚えているわ」

「あの時は、俺が悪かった」

 どうしてあんなことをしてしまったのだろうか?

 ……何かが引っかかる。よく考えてみれば、自分の行動が不自然すぎる。まるで、何かに操られているようだった。

「そうよ。万死に値するわ。だから、今度おいしいクロワッサンを私に貢ぎなさい」

「……そんなんでいいのかよ」

「まあ、だってあれは仕方がないことだし」

「……」

 仕方がないこと?どういう意味だ?

 ノエルは、解答を知っているのか?脳裏をノエルの不可解な行動の数々が駆け巡る。

 何かが引っかかる。

「確かあのシーンは、乙女ゲーム……黄昏の夢にあったよな……」

「何か言った?」

「ううん。何でもない」

 ノエルは、慌てたように手を振った。……絶対に何かを隠しているはずだ。

「ノエル。俺は、お前に惚れることにするよ」

「……勝手にすれば」

 ノエルは、ぷいと遠くを見ながらそう答えた。照れ隠しなのだろうか。

 だけど、これで言質は取った。

もう絶対に諦めない。思わず残忍な笑顔が顔に浮かんだ。


 俺は、ノエルを家まで送って行った。

 俺自身のケガもひどいためノエルの家の前で、別れを告げることにした。

「じゃあ、またな。お見舞いにきてくれると嬉しいな」

「ふん。この私がそんなことのために時間をさくわけないでしょう。あなたなんか、一生ろくに動けないままもだえ苦しめばいい。豚には一生働けないで養ってもらうだけの豚小屋に住むような人生がお似合いよ」

「やっぱり最低だな」

 さすがノエル。想像を絶するひどい言葉が返ってきた。

 そろそろ行くか。

 俺は、後ろを向いて歩き出した。


「待って!」


 凛とした澄み渡る小川のような声が響いた。

 振り返るとウエディングドレスが風になびいているノエルが映った。

 温かい夕日がノエルの顔を照らしている。どうしたのだろうか?

「待って。言いたいことがあるの」

 ノエルはしばらく下を向いていた。

 そしてしばらくたった後に唐突に話し出した。

「……ペットに飼い主はたまには散歩に連れ出すし、王様は奴隷にだって腐ったパンくらい与えると思うの」

 ……何が言いたいんだろう。

「やっぱり脳みそが筋肉でできるいるうすのろバカには伝わらないか。

 だから……」

 なぜか俺を天敵でも見るかのように睨み付けながら、舌打ちをしてきた。

 俺は何か悪いことでもしたのだろうか?

「そ、その」

 破壊力抜群の上目遣いで俺を見てくる。

 決意を固めたように拳をしっかり握りしめてから口を開いた。


「あ、ありがとう」


 サクランボ色の唇から、オルゴールのように響くかわいらしい声がこぼれ出た。

 天敵でも見るように睨み付けるように俺を見ている夜明け色の瞳が少し潤んでキラキラと輝いていて、柔らかそうな頬がリンゴのように真っ赤に染まっている。 

 何このかわいい生き物。反則だろう。

「どういたしまして」

 俺は、流れるような動作でノエルに口づけを落とした。

 ほんの少し触れるだけの軽いキスだった。  

 アメジスト色の目をパチクリするノエル。

 ざまあみろ。

 見栄を張った罰だ。

ノエルのせいだ。俺はちゃんと自制していたのに。

 ノエルは、屈辱のあまりか更に真っ赤になって震えだした。

「不意打ちなんてひどい。あなたなんて地獄に落ちてしまえばいいわ」

「そしたら、地獄旅行を楽しんでくるよ」

 地獄土産もノエルにあげたいくらいだ。

「何を言っているの?あなたは地獄に落ちてもう一生帰ってこなくていいわ」

 ひどい奴だ。

 まさに最低な性悪女。

 だけど、そこがかわいいんだよな。

「ところが俺はいつでも君の元に帰ってくるよ」

「ば、バカ」

 ノエルは、真っ赤になって俺を怒鳴りつけた。




 


 レオンは、かなり不憫キャラかも。ごめん、レオン。

 ノエルは、安定の性格の悪さです。

 あと、いつかメラニーを中心とする物語を書けたらいいなと思います。

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