奇跡
……。
殴られているエリックを見ながら、次々と記憶の断片が溢れてきた。
私の美しさと偽りの褒め言葉を愛してくれる人はたくさんいた。
私は、本当の愛というものは手にすることができなかったのだろう。
本当の自分はドロドロして醜かった。
優しくなんてなれなかった。
それを隠すように、他人に対して媚をうった。
初めて会った時から、純粋で穢れを知らないメラニーが大嫌いだった。私はそんな存在になれない。あんな気持ち悪い物体になれない。あんな風に人とまっすぐと接することなんてできない。あの子に比べたら私は失敗作だ。愛されるのにふさわしい女になれなかった。そんなことはわかっている。私が不幸だからといって誰かを傷つけていい理由にはならない。そんなことはわかっている。この生き方は間違っている。私は悪だ。そんなことは言われなくたってわかっている。
だけど、嫉妬と狂気に取りつかれ、この道から降りることができない。あの眩しさとひた向きさを見るとイライラがこみ上げてきた。汚したくて、傷つけたくて、醜い言葉で刃物のように攻撃し続けた。メラニーが傷ついたり、困ったりするたびに心がスカッとした。ざまあみろ。いい気味だ。そんな暗い愉悦に酔いしれた。乙女ゲームの悪役だからなんて言い訳でしかなかったかもしれない。私は、本当に最低な少女だ。
あのね、レイ。
ずっと昔、欲しかったものがあったの。
私だけにしか興味を持たず
私が正義で、私が一番で、私が絶対唯一で
私のことを一番かわいいと思ってくれて
私の性格を理解し惚れこんでくれて
私がいないと生きていけないと死ぬほど求められ
私の代用品なんていないと囁かれ
私のために死んでくれるくらい愛してくれて
決して裏切ることなく、覚めることなく、欲望が尽きることのない。
そんな愛が欲しかった。
とある少女の話をしようか。
少女は、ずっと虐待をされていました。学校でも苛められていた時期がありました。そんな少女は、誰にも本音を見せる勇気がありませんでした。少女は画面の向こう側の手に届かない少年に出会いました。少年はとてもかっこよくて、少女が欲しがる優しい言葉をいっぱいくれました。やがて少女は、彼に依存しました。たくさん甘えました。彼は実在しなかったので、少女は傷つかず傷つけないままで全てを手に入れました。
けれども、触れることは諦めていました。本当は届くわけないと知っていました。それでもその輝きは消えてくれませんでした。いつだって泣きそうなくらい輝いているくせに全部紛い物だった。
まるで星を望んだのに、得られたのがプラネタリウムのようだった。
けれども、その偽物の光は本物と見分けがつかないほど輝いていた。
プライドなんて捨てて好きと言えるほどかっこよくて、完璧で、些細な欠点すらも愛おしく見えて、神様みたいで。あなたは私にとって理想そのものだった。
心の拠り所であり、ヒーローであり、夢であり、手に届かない存在だった。
ゲーム画面の向こうのあなたは、私の支えだった。
私の居場所がそこにある気がしていた。
だから、本物はいらなかった。
そんなものは望んでいなかった。
だけど、どうしてあなたは私にそれをくれるのよ。
全部投げ捨てて私を守るなんて
何てバカな選択だろうか。
「あなたは本当に昔からバカね」
どうして忘れていたのだろう?
彼は私にとってずっと大事な人だったのに。
彼は私のために全部捨てて死にかけている。
傷だらけのその顔がたまらなく愛おしく見えた。
読んでくださりありがとうございます。