メラニーの決意
さあ、攻めのattitudeでガンガン変化させていきます。
鏡を見ると、いつも向こうには美少女がいる。愛らしい桜色の滝のように流れる髪の毛に、パッチリとした夕日色の目。人形のように整っている顔立ちをしている。
私は、自分がかわいいことを理解していた。
かつて、私は、大人しくて暗くて地味な少女だった。
おしゃれなんてしたことがなく、仕立屋である母の仕事を手伝ってばかりだった。
母親の死がきっかけで、貴族である父親の家に足を踏み入れることが許された。私は、父が浮気してできた子供だったためである。
16歳の誕生日、私は社交界デビューを果たした。
素敵な男性が私の目の前に現れて、私を幸せにしてくれることを夢見ていた。
その夢は鮮やかな現実になった。
そして風のように幸せは一瞬で通り過ぎた。
彼から、淡々とした口調で語られた。
「別れよう」
情熱的な色を秘めていた青色は、とても静かな色を帯びていた。
青い瞳は、もう私のためにきらめかない。
「俺は、他国の王女と政略結婚することになった」
「でも、あなたは私を愛しているんでしょう」
「ごめん、愛が冷めた。メラニー、わかってくれ。
この国のためだ。仕方がない」
……そこまで言われると、諦めるより仕方がない。
「わかったわ」
私は、彼は嘘をついているに違いないと確信していた。
彼はきっとまだ私のことを愛している。これからも私だけを愛し続ける。
政略結婚をすることになったから、仕方がなく愛が冷めた振りをしているだけだ。
少し前に、エリックは、私を好きだと言ってキスをしてくれた。
あの時私は、確かに恋の印を受け取ったのだ。
例えどんなに遠く離れていようとエリックの私への愛は薄れないし、私のエリックへの愛も薄れないだろう。
かわいそうな私、すなわちかわいい私。
不幸に酔いしれながらも、確かに愛されていると実感していた。
悲劇のヒロインにでもなった気分だった。
え?
ドアの向こうを見つめた私は凍り付いた。
そこには信じられないような光景があった。
エリックとノエルは話をしていた。それだけでは驚かなかっただろう。
だけど、エリックだけは違った。
ノエルを見つめるエリックの目は……とても優しい色を帯びていた。
とても儚げで、優しげで、か弱そうで、温かかった。
世界が止まったかのように美しい光景。春一番のそよ風を思い起こすような柔らかい笑み。風に揺れてサラサラと揺れるエリックの長い髪の毛。パラ色に色づいている彼の頬。形の整っている完璧な唇。青い空を溶かして瞳にはめ込んだような美しい瞳。
窓からは二人の時を祝福するようにオレンジ色の輝かしい光が降り注いでいた。
こんなもの知らない。
見たことがない。
だけど、初めて本当のエリックを見た気がした。
今まで幾度となく会話を重ねてきた少年が、偽物であったような錯覚がした。
エリックが熱のこもった目で見ていたのは、私ではなくノエルだった。私の方が彼の味方であったはずなのに……。ノエルなんてただの邪魔者だったのに。
行き場のない思いで心が埋め尽くされた。
胸が握りつぶされたように痛かった。
呼吸の仕方を忘れてしまい、息ができなかった。
自分がどうしようもない感情に支配されていきそうになった。
私の全てが一から作り変えられていくようだ。
私は思わずその場から逃げ出した。
私は、とてもおとなしい子だった。大人しいだけの子……。
だけど、今日は私が私じゃないみたいだ。
今までせき止めていたものが流れ出すように止まらなかった。
「何で私がこんなモブキャラにならないといけないのよ!」
吐き出された言葉は自分らしい気がした。
生きている言葉であると感じた。
嫉妬と憎しみの炎が燃え上がる。
ノエル・ハルミトン。
あの子は私を笑いながら苛めていた。
私よりもあの子の方が、身分が上だからと仕方がないことだと諦めていた。
それなのに、エリックに愛されている。
あの子だけは許すことができない。
愛を失い、夢をなくし、希望すらも踏みにじられた私は一つの決意をする。
「絶対に復讐してやる!」
ノエル・ハルミトンという少女を不幸にしてやる。
幸せな結婚なんて認めない。
地獄へ突き落としてやる。
読んでくださりありがとうございます。