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ルークとエリック

 さあ、ようやくこの人が登場しました。

 扉を開けると、存在そのものが芸術であるかのように、細かく整っている男が座っていた。

 少し痩せたのだろうか?

 前よりもこいつが人間味を失っているように見えた。僕、ルークがどう話を切り出そうかと迷っていると、エリックから話しかけられた。

「久しぶりだな」

「ああ」

「俺は忙しいから単刀直入に言ってくれ。何の用だ?」

「ノエルの財産所有権は、全て僕にうつった。

 だから、ハルミトン家の後継ぎはこの僕だ。

 もうお前はノエルと結婚しても、権力や財産を手に入れることはできない」

 話しながらエリックの顔は少しも変わらなかった。

 彫刻のような無表情で、僕の話を聞き続けていた。

「だから、ノエルはお前が望んでいるような価値がない」

 その美しさが色あせていなくても、

 エリックみたいな腹黒男が選ぶ人間としては、今の財産を失ったノエルは物足りないのだろう。

 このことを知った時に、エリックという人間はどういう反応をするのだろうか?

 負けず嫌いな彼のことだ。きっと何が何でもノエルを手に入れようとするかもしれない。 

 侮辱されたと思い、挑発的な笑みでも浮かべるかもしれない。

 しかし、彼は僕の予想に反して、ひどく興味のなさそうな顔で一言つぶやいただけだった。

「ああ、そうか」

「……」 

 エリックが何を考えているかさっぱりわからなかった。

 何か計画でも立てているのだろうか?

「ノエルのことを好きだったんじゃないのか?」

 すると、彼は肩をすくめながらあっさりと白状した。

「別に。ただ使える駒だったから、俺のものにしたいと思っていただけだ。

 もう財産も権力も失ったただの少女であるというなら、お前にあげる。

 それに俺は他国のお姫様と結婚することになりそうだ」

「どうして?」

「隣のフレンカ国が周りの国を次々に負かして、かなり力をつけてきた。俺の国だって狙われているだろう。

 俺がフレンカ国のお姫様と結婚すれば、確実な同盟関係が結べるだろう」

「お前はそれでいいのか?」

「それでいいも何も、それが俺の義務だ」

 彼は、機械のようにフラットな声で淡々と答えた。

 こうやってこいつは多くのものを諦めてきたのだろう。

 そして、珍しく疲れたような声でこう言った。

「俺は忙しいから、他に用事がないなら帰ってくれないか?」

「……ああ」 

 この冷たさと腹黒さと計算高さこそがエリックの証であるというのに、彼に裏切られたような気分だ。 

 あれほどノエルに執着していたエリックがここまで変わってしまうなんて思っていなかった。 

 失望したような気分に陥る。

 次第にその失望は、強力なライバル一人を潰せたという満足感に塗りつぶされていった。

 エリックがこうもあっさり抜けてくれることは本当にラッキーだった。

 選択肢は全部ぶっ潰して、僕を選ぶしかない状況を作って見せる。

 僕の口元に歪んだ笑みが浮かんだ。


*               *

 

 結婚のための手続きをするために、私とルークは王宮を訪れた。

 けれども、ルークが用事があったため私は広間で待っている予定だった。

 しかし、壁にある絵があまりにも綺麗でついつい気になって、歩きだしてしまった。

「きゃあ!」

「あ!」

 曲がり角で誰かと衝突してしまった。

 衝撃で床に尻餅をついた。

 ゆっくりと目を開けると、目の前にとても綺麗な人がいた。

 サラサラとした癖一つない黄金色の髪の毛が光を反射してキラキラと輝いている。空を切り取ってはめ込んだようなくすみのない青い瞳。スラリとして無駄な肉一つとしてついていないスラリとした体つき。人間離れするほど美しい顔立ち。

 存在そのものが一つの芸術であるように美しい。

 青い瞳に吸い込まれてしまいそうだった。


 私がぶつかった相手は、元婚約者であるエリック・ブラウンさんだった。


 何という無礼なことをしてしまったのだろうか?この国の第一王子にぶつかるなんて私は、絞首刑にでもなるべきなのかもしれない。

 今すぐスライディング土下座でもするべきだろうか?

 こんな人間に衝突してしまうなんて私は本当についていない。

 青い瞳には私が映っている。

 それを見ながら、今すぐミジンコになりたいと切実に思った。


 読んでくださりありがとうございます。

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