帰ってきた男
いつか絶対に完結させてみせます……たぶん。
レオン・エイブラハムが帰ってくる。
私には地獄からの使者がやってくるようにしか思えなかった。何で戻ってくる?もう一生故郷に何て帰らなければよかったのに。……レオンは、私に復讐するために帰ってくるのかもしれない。
「レオンが帰ってくるとか……。うわあ。もう引きこもりになりたい。誰にも会いたくない」
「姉さんが嫌われているのは自業自得だろ」
そう言って綺麗な琥珀色を目で呆れたように私を見てきた。
ちなみに、ルークは先ほどから腕立て伏せをしている。
サラサラとした涼しげな髪の毛も汗で濡れていた。
ルークは、なぜか最近筋トレにはまっている。
ランニングまで始めたらしい。きっとメラニーにメロメロだからに決まっている。
がんばれ、ルーク。私は応援することにしよう。
しかし、風が吹いておへそがチラリと見えてしまったとき、思わず鍛え抜かれた筋肉にドキドキしてしまう。うう……ちょっと困る。
だけど、ルークは私の義理の弟なのだ。大事な家族だ。恋愛対象として見るわけにはいかない。
ふんっ。ルークに色気があるなんて生意気なのよ。
少しはレオンを見習えばいいのに。
そう。レオン・エイブラハムは、色気の欠片もないブサイクだった。
ぽっちゃりした体系。黒くてボサボサの髪。暗い死んだ魚のような目。
ニキビだらけの頬。コミュニケーション能力障害。
町で一番のブサイクと呼ばれているような人間だった。
私は、ブサイクは苛められて当然みたいに水が上から下へ流れるように自然にこいつを苛めていた。
「あんたみたいなブサイク、産業廃棄物として処理してしまえばいい」
「存在そのものが生理的に気持ち悪い」
などという暴言も吐きまくっていた。
ちなみに、彼に「化け物」というかわいらしさの欠片もないニックネームをつけたのは私である。
レオンのお小遣いを奪い取ったり、本を奪ったり、暇つぶしに彼を見せしめにしたりしていたのだ。ジャイアンもびっくりするような横暴ぶりだった。
最後の別れの時、これからレオンを苛められなくなるなんて嫌だと思いこれからの分まで私はいろいろと苛めた後、二人きりでお気に入りの崖の上で会話をした。
……というより私がストレス発散のために暴言を吐いていただけだった。
「ねえ、レオン。何であなたはこんなにブサイクなの?エリックはあんなにかっこいいのに」
「……ぼ、僕は……」
「かわいそうなレオン。あなたなんて一回死んで生まれ変わってしまえばいいのに」
夏風が二人の間を通り抜ける。
「そうだ、レオン。最後にあなたにキスでもしてあげようか?」
「ほ、ほ、本当に?」
「そんなわけないでしょう。生理的に気持ち悪い」
……静寂が二人の間を通り過ぎた。
「あ、あ、あの……僕は……あなたのことが……好きでした」
「ふーん。じゃあ、お金ちょうだい」
「お、お金はもうないんだ」
だって私が全部奪ったから。レオンに万引きをさせたこともある。
「使えない男ね」
「僕は、は、初めて会ったとき……僕はあなたを天使みたいに思った。
こ、こ、こ、こんなに綺麗な人は初めて見た。
だけど……ノエルは、心まで綺麗じゃなかった」
私は、レオンのつまらない告白にちっとも興味を示さず花の冠を作り出した。
かわいい私には、かわいいものがよく似合うわ。
うふふふふふ。
レオンは言った。
どこか遠くの方を見るような目で、ぼそりと呟いた。
「かわいいノエルに……憧れていた」
とても悲しそうな目をしていた。
その目は今でも覚えている。
「僕はもう君には憧れない。いつか絶対、復讐してやる」
そう捨て台詞を吐いて奴は、次の日、親の都合で他国へと行ってしまった。
レオンが来ると社交界のダンスパーティー。あまり評判のよくない私は壁際でルークとこそこそと会話をしていた。
そこに一人の見知らぬイケメンが足を踏み入れた。
その途端、辺りにざわめきが広がった。レオンとか、エイブラハムとかいう声が聞こえる。
「姉さん……。あの人がレオンらしいよ」
ルークが信じられないことを耳元で囁いた。ちなみに囁くとイケメンボイスの破壊力が半端なくて困る。
「何だ。ただの別人か」
「そうだね」
黒曜石のように美しい瞳。黒くて艶がある美しい夜色の髪。モデルみたいな体系。悪魔を思わせるほど美しい青年がいた。
自身のある足取り。人形みたいに表情がなく、変化しない顔。
黒いスーツが彼のために存在していたかのように似合っている。
黒王子とでも言葉が似あいそうだ。
奴は、ルークやエリックに匹敵するようなイケメンだった。
あんな奴が私の知っているレオンのわけがない。
「きゃあ、素敵なお方。私と踊って下さる?」
かわいい女の子達が花のようにそいつの周りに群がった。
「ブスが気安く話しかけないでくれる?」
吹雪のように冷たい声が辺りに響き渡った。ゾクゾクするようなイケメンボイスなのに、言っていることが残酷すぎる。
ちなみに奴はこのセリフを無表情で言った。
当たりの人間が凍り付いている。
「もう一度言おうか?俺は、君みたいなブスとは関わりたくない」
あんな奴、レオンのわけがない。
何だ、やってきたのは同姓同名の別人じゃないか。
私は、すっかり安心してしまった。
その人が本物のレオンだと知りもしないで。
読んでいただきありがとうございます。
修羅場ももっと書きたいな。
あの人たちの過去のエピソードもいろいろ書いていきたい。