残光
ラストです。
町をみたいと言った私の頼みをルークさんは聞いてくれて、案内してくれた。彼はとってもいい人だ。いい人過ぎて、詐欺にでもあわないか心配だ。
私は、とても素敵な街に住んでいたことが判明した。
焼き立てパンが食べられる店、何万冊の本がある図書館、思わず見とれてしまうくらい美しい噴水……。
記憶は何もないけれど、この素敵な街で、ここから思い出を積み重ねていきたいと思った。
最後に、協会の付近の丘を案内してもらっていることだった。
一段と強い風が髪の毛を揺らした。
その時、強い視線を感じた気がして振り返った。
サラサラとした金髪のロンゲに、青空のように透明感のある綺麗な目。
スラリとした手足。そこにいたのは、王子様みたいに美しい人間だった。
ん?どうして彼は私の方を見ているのだろうか?
気のせい。気のせい、気のせい。きっと私の思い込みという奴だ。
あんなにかっこいい人が自分の方を見て居るなんてひどい思い込みだ。自意識過剰という奴だ。私なんかが調子に乗ってすいませんと全国のイケメンさんに土下座して謝罪する必要があるくらいだ。
けれども、少し気になってルークさんに小さな声で聞いてみた。
「あの人は誰ですか?とても綺麗な人ですね」
「ああ、あいつはエリックだよ。君の元婚約者で、この国の第一王子だ」
……私って、そんな恐れ多い人と婚約者だったのね。うわあ……何か死にたくなってきた。
彼は、泣きそうな笑顔を浮かべた。昼の太陽というより沈みかけの夕日みたいな笑顔だと思った。涙が流れそうになるくらい痛々しい光景だ。
私は、思わず彼に近づいた。
「大丈夫ですか?泣きたいときは泣いて、涙を拭うべきですよ」
私は、ハンカチを差し出した。
何かあったのだろうか?人は、一人で苦しむべきではない。
「……ああ、ありがとう」
彼は、私からもらったハンカチを大事そうに持った。
「姉さん、そろそろ帰ろう」
「はい」
私はルークさんの手を取って歩き出した。
背後にいるエリックさんがどんな顔をしているかは、わからなかった。
世界を祝福するように輝いていた夕日はもう沈みかけていた。
残された青年を照らしているのは、悲しいくらい美しい残光。
あまり多くは語らないラストにしてみました。
少し救いも残したつもりです。
読んでくださりありがとうございました。