会いたい
イメージは、涙そうそうです。
急にメラニーに対しての愛が覚めてしまった。さすがレッドと周りから皮肉を言われ、俺が純粋で一途な人間だということは誰も信じてくれなかった。
ノエルへの罪悪感が芽生えた俺は、百本のバラを抱えて俺はノエルに会いにいくことにした。
女の機嫌が悪い時は、何か贈り物をするといいというのは、男の常識だ。
ノエルは、俺に対して怒っているはずだ。だけど、花でもプレゼントすれば、すぐに怒りも忘れるだろう。女とは、そういう生き物だ。
ドアを開けると、読書をしていたノエルは顔をあげた。
そして俺を見て警戒するように後ろに下がった。
「あ、あなたは誰ですか?」
「さすが、ノエル。そこにしびれる、憧れる。俺を忘れた振りをするとは、想像以上の性格の悪さだな」
「ひっ……い、いえ、私は本当に記憶喪失です」
「あくまでも嘘をつくのか。それから、これはお前にやるよ。だから、俺がお前にしたことをちゃらにしてくれ」
「こ、こんなすばらしいものを私に……。ありがとうございます」
ノエルは、目を輝かせながら花束を受け取った。
ふっ。計画通り。女なんてチョロイ生き物だ
「あ、あの、それで、あなたの名前は何ですか?」
……こいつは、全然チョロくなかった。
「ノエル、俺が悪かった。許してくれ。
もうお前を殺したりしないから、安心してもいいぜ」
「ええ!あなたは私を殺しかけたんですか!」
目の前にいる少女が、一気に青ざめる。
「え……」
ノエルは、あたふたしながらも聞いてきた。
「ど、ど、どうして私を殺そうとしたのですか?」
……まさか、ノエルは本当に記憶喪失になったのか。
とりあえず、俺がノエルを殺そうとしたことは適当に誤魔化すことにしよう。
「たいした理由じゃない。ただ、男女のすれ違いという奴だ。まあ大人にはよくあることだ」
「男女……すれ違い……大人の関係……」
信じられない言葉を聞いたように、目をパチクリしながら呟くノエル。
これはこれでかわいいな。
ちょっとからかってみるか。
「ノエル……。俺はお前を傷物にした。責任をとりたいから結婚しよう」
「え、ええ!そ、そんなこと言われても……。べ、別に気にしないでください。私も全く覚えていないので」
何だ?ただの天使か。
ノエルがこんなことを言うわけがない。
「……。嘘だ、こんなのノエルじゃない。ノエルの顔をした別の生命体だ」
「え……そんなこと言われても、私がノエルという人らしいです。とても気が強い性格をしていたことが信じられないですけれども……」
ノエルは、不安そうな顔をした。
こんなか弱い儚げな美少女みたいな顔は今まで見たことがなかった。
「本当の自分をすっかり忘れてしまったらしいね。じゃあ、今夜、思い出させてあげる、その体に」
とにかく今なら、ノエルが簡単に手に入るチャンスかもしれない。一度ノエルと寝ることが夢だったんだよな。まあ、夢はたくさんあるけれども……。
「い、いえ、遠慮しておきます」
ひきつった笑顔で、ノエルはそう答えた。
「大丈夫、とても気持ちよくなれるから」
「お、お、お、お断りします。記憶喪失を機に、私は心を入れ替えて清く、正しく、真面目に生きようと思ったのです」
手を必死に振りながら少女は拒絶した。
……心どころか魂まで入れ替えている気がする。
少しは、昔の悪魔ノエルを見習ってほしいものだ。
ノエルとはとりとめもない話をして別れた。
死んでいなかった少女を思い出す。
「殺せなくてよかった……」
そんなこと一度も思ったことがなかった。
それほど失敗すること、情を覚える自分になることを恐れていた。
人を殺したことを、ちゃんと人間らしく後悔したかった。
ノエルを殺そうとして殺せなくて、小さい頃に捨てた人間らしい感情を取り戻せた気がした。
ノエルが生きていてうれしかった。うれしくてたまらなかった。
けれども、会いたかったのはこの少女ではないと思った。
自分に似た最低の少女はそこにはいなかった。
いるのは、悪魔の面影がない天使のような少女だった。
寂しさと恋しさをふと感じた。
もう一度、あの最低最悪なノエルに会いたかった。
あのノエルに会えるなら俺は死んだっていい。
会いたくてたまらなかった。
この人のくせに、昔のノエルに純愛をささげている感じですね。
一番ちゃらいのに……。そんなちゃら男こそこういう感情を抱いているところを書きたかったです。
読んでくださりありがとうございます。
次がラストです。投稿は21時です。