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エピローグの始まり

 ……。

 

 目が覚めると、知らない男性が私の手を握っていた。とてもほっそりとして長くて、温かくてきれいな手だった。

 絶対に離さないとでも言うように手はしっかりと握られていた。

 ここはどこだろうとぼんやりとしながら部屋を見ていると、その男性はとても嬉しそうな笑顔をした。目の前に神様が現れて救われたような顔だった。

 とても美しい青年だった。まるで天使が地上に舞い降りたみたいに、整った顔立ちをしていた。本当に人間なのだろうか?どうしてそんな男性が寝ていた私の手を握っていたのだろうか?茶色の目にサラサラとした茶色の髪。とてもその色が温かくて綺麗だと思った。

「すいません。あなたは誰ですか?」

 そう聞くと、とても驚いた顔をした。

「覚えていないのか?」

 び、美声だ。少し低めの男らしい滑らかな声をしていた。美青年は美声と決まっているのか……。人生は何だか不公平だ。

 しかし、そんなことは、今はどうでもいい。私にこんなイケメンの知り合い何ていたかしら。……いや、こんな人知らないな。全く覚えてないです。

 ちょっといろいろと考えてみる。

 私は誰だ?家族は?友達は誰だ?

 ……何もかも真っ白だった。

 そういえば……私には好きな人がいた気がする。

 とっても大事な人だったと思う。

 私は誰を好きだったのだろうか?

「私……自分の名前も忘れているみたいです。

 ここはどこですか?」

 彼は琥珀色の目でじっと観察するように私を見てきた。

 やがてポツリと呟いた。

「ルーク・ハルミトン。それが僕の名前だ」

「ハルミトンさんとお呼びしてもいいでしょうか?」

 そう呼びかけた途端、ものすごく不機嫌そうな顔をされた。恐竜に睨まれた草食動物の気分がよくわかった。

 ひい。目つきが怖い。美形は目力が強いからできるだけ、目を合わせたくないものだ。

 今後、こういう切れやすそうな人とは関わりたくないものだ。心臓に悪い。

「……ハルミトン様とお呼びした方がよろしかったのでしょうか?」

 もしかしたら、とても高貴な人間だったのかもしれない。

 『さん』づけで呼ぶなんてきっと恐れ多いことだったのだ。

「……ルークでいい。ノエルはいつもそう呼んでいた」

「……で、ではルークさんとお呼びします。ノエルさんというのは誰のことですか?」

「お前のことだけど」

 何ですと!私とこのイケメンは名前を呼び合っていたのか。

 記憶をなくす前の私って、とてもメンタルが強そうだな。こんな住む世界が違うような人間を呼び捨てで呼ぶ度胸なんて私にはない。 

 と、とりあえず深呼吸をしよう。

 情報は必要だが、あまりこんな人間を質問攻めにする度胸は私にはない。

 重要そんな質問だけいくつかすることにしよう。

「あの、私とルークさんの関係はどのようなものだったのでしょうか?」

 友達だったのだろうか?しかし、私がこんなリア充そうな人と仲が良かったのだろうか?ま、まさか、家族?いやいや、こんな美形が私の家族なんてありえない。

 うーん。私が倒れた時に助けてくれた通りすがりの人間とか?きっとそうだ。間違いない。こんな天使みたいな人が私と関わりがあったはずがない。

 そう思っていた私にこの人は平然とした顔をしながらとんでもない発言をした。

「婚約者だ」

「こ、こ、婚約者!」

 結婚を前提に約束するあの関係ですと!決闘を前提ではなくて……。

 ていうか、こんな人間と婚約していたら他の女子から嫉妬されまくり状態だったのかもしれない。わあああ。なんか、私なんかが婚約者ですいません。いや、もう生きていてごめんなさい。

「ちなみに、俺たちはキスもセックスももう済ませているラブラブのカップルだった」

 いきなりこんな衝撃的かつエロい発言をするなんて。

「な、な、な……」

 恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になる。気が動転したためか、心臓がバクバクと音を立てる。しばらくは魚のように口をパクパクさせながら、酸素を求めることしかできなかった。

「こ、こ、婚約者ということはまだ結婚をしていない。

 そんな時にそんなふしだらで破廉恥な行為に及んでいたなんて……。わわわ……」

「これで、確信した。お前は本当に記憶を失っているみたいだな。

 今言ったことは、嘘だ。ちょっと実験をしてみただけだ。

 僕はノエル、君の義理の弟だ」

 なぜか記憶喪失とわかったはずなのにルークさんが琥珀色の目をキラキラと輝かせた。

 まるでおもしろいおもちゃを手に入れた子供みたいだと思った。

「し、心臓に悪いです」

 心臓が止まってしまうかと思った。

 そんな私をじっくりと観察していたルークさんが意地のわるそうな笑顔を浮かべてから恐ろしい発言をした。

「でもね、僕たちが愛し合っていたのは本当だよ」

「え、え……そ、そ、それはありえないと思います」

「どうして?」

 ルークさんの目が獲物をいたぶる猫みたいに鋭くなる。

「わ、私のような平凡な少女がルークさんみたいなかっこいい、魅力にあふれている人とは釣り合うとは思えないからです」

 まだ鏡を見てはいないが、この私の豆腐メンタルから言って思考がネガティブになってしまうほど残念な顔立ちをしているのだろう。

 それに比べて目の前の人は恐ろしいくらい美しい人だ。

「……ノエルがこんな発言をするなんて……」

 驚いたことにルークさんは震えながら笑っていた。何だかわからないけれど、バカにされている気がした。

「しかし記憶を失っているのならしょうがない。

 最初からやり直すことにしよう。まずは僕たちが付き合うところから始めよう」

「あ、いや……その……」

「何か問題でも?」

「あのですね……。お、おそらく私は豆腐メンタルだと思います。

 だから『イケメンと付き合う→ストレスがたまる→うつ病→死』という結果が待ち受けていると思います」

「あはははははっはははははは……。ノ、ノエルが豆腐メンタルだって!

 豆腐メンタルどころか、鋼メンタルといってもいいほどの女なのに……」

 とうとうルークさんは、お腹を抱えて笑い出してしまった。

 よくわからないが、ピエロにでもなった気分だ。

 一通り笑い転げた後、ルークさんは真面目そうな顔に戻って告げた。

「とにかく……お前の隣には僕がいたことは確かだ。

 わからないことがあったら僕を頼れ。いつでも僕が助けてやる」

 まるで情熱的な愛のセリフのようだ。しかし、今の私には英雄に決闘を申し込まれたモブキャラのような気分だ。……うう、前途多難そう。というより、この人の隣にいるだけで気疲れしてしまいそうだ。

「いや、いきなり頼れとか言われてもそんなこと恐れ多いです」

 いきなりルークというイケメンに抱きしめられた。

 優しくじゃない。体が密着するくらい思い切り抱きしめられた。私……こういうことに対して耐性がないからめちゃくちゃ困るんですけど……。

 そうして彼は私の肩に顔をうずめながらうめくようにつぶやいた。

「ごめん。君を守れなかった」

「ちょっと……離してください。息が苦しいです」

 だめだ。この人ビクともしない。きっとこいつの成分は血液とかじゃなくて、鉄や銀に違いない。鋼の男、その名はルーク……ってふざけている場合じゃなくてこの状況をなんとかしないと。

「ノエルが死にかけたから悪い」

 ……。え……じゃあ、今の私って死にぞこないか……。

 な、な、何か猛烈に世界に対して謝りたい気分になってきた。

 うわああ。よくわからないけど、せっかく生きているのに記憶を失っているなんて私ってかなり残念な女かもしれない。

 そんなことを考えている場合ではなく早くこの状況をなんとかしないと。

「と、とにかく、離してください」

「……嫌だ」

 ルークさんは私を離そうとしなかった。


 読んでくださりありがとうございます。

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