エンディングのその後
……。
世界の終わりを思わせるような美しい光景。
太陽が沈みかけている。温かい色の光があたりを支配している。これはメラニーの瞳の色だ。
今日は、俺はメラニーの心を手に入れる。
メラニーは言った。
「あなたは、誰とも比べる必要がない。あなたにはあなたの良さがあるわ」
その瞬間、全てがどうでもよくなるほど目の前の少女に夢中になった。
メラニーが俺の全てだ。彼女なしでは生きていけない。
そして同時に彼女を不幸にする存在は徹底的に排除しなければならないと思った。
メラニーはかわいらしく首をかしげながら聞いてきた。
「ねえ、エリック。私のことを好き?」
どうしてそんなことを聞くのだろう?
そんなの当たり前じゃないか?
俺の全てがメラニーを中心に回っているのに。
「大好きだよ」
言った瞬間になぜか心臓が締め付けられるように痛くなった。
どうしてだろう?
俺はこう思うことにも、こう言葉にすることにも何のためらいもなかったのに何か違和感があった。
けれども、何が間違っているのかわからなかった。
「エリックどうしたの?難しい顔をしているよ。もしかして、私のこと本当は好きじゃないの?」
かわいいメラニー。君を不安がらせて本当にすまない。
「好きに決まっている。メラニーは、俺の言うことが信じられないの?」
「ううん。私、きっとエリックの言うことだったら何でも信じるわ。私もエリックが大好きだよ」
メラニーがはにかむようにかわいらしい笑顔を浮かべた。
俺も彼女に心からの笑顔を浮かべた。
彼女の柔らかい唇に自分の唇を押し当てた。
ああ、これでようやくメラニーが俺のものだ……。
けれども、心を満たしたのは喜びや幸せではなかった。
次の瞬間、大量の感情が心を支配した。
悲しみ、後悔、嫉妬、苦しさ……そして絶望。
どうして忘れていたのだろう?
俺が本当に好きだった少女を思い出した。
「ごめん……」
「えっ……」
俺は、メラニーを突き飛ばして走り出した。
早くノエルを助けなければいけない。
俺はいったい何をしていたのだろうか?
どうしてノエルへの思いを全て忘れていたのだろう?
ああ、間違えたと彼は思った。
行動を間違えた。言う言葉を間違えた。
話しかける相手を間違えた。
優しくする相手を間違えた。
笑顔を向ける相手を間違えた。
どうしてこんなに間違えてばかりだったのか……。
その声と手と瞳がすべてだったのに……。
たまたま通りがかった従者に医者を指定した場所に呼ぶように告げた。
そして、俺は死に気で走りだした。
頼む、まだ生きていてくれ。
俺は、ノエルさえいれば他の何もいらないから。
ノエルを生かすためなら、悪魔と契約して魂を売ってもいい。
20分で行ける道が、何百キロにも思えるように感じた。
ようやくたどり着いた。
少女は、まだそこで倒れていた。すぐに駆け寄りしゃがみこんだ。
まだアメジストの瞳は開いていた。
よかった。
夕日に照らされたノエルは、恐ろしいくらい綺麗に見えた。死の淵にいてもこの少女の美しさは少しも損なわれていなかった。
俺は、死にかけたノエルの手を強く握り締める。
「ノエル!」
「…レイ……」
今にも消えてしまいそうなロウソクの火を思わせるような、か細い声だった。
「ごめん……。俺が悪かった」
今すぐ自殺してでも償いたいくらいの罪悪感が押し寄せてきた。
自殺して許されるのであれば、俺は喜んで自殺するだろう。
「ノエル……。俺はお前に恋したことを忘れ、他の女に恋をした。
お前を全てから守りたかったはずなのに、お前を傷つけた。殺そうとした。ノエルの信頼も裏切って、お前を苦しませ、絶望に落とした。
本当にゴミみたいな最低な男だ。救いようがないバカだ。
俺みたいな奴は今すぐ死ねばいいと思う」
きっと、俺はもうノエルに合わせる顔すらない。
謝罪する資格すらない。
愛する資格もない。
しゃべる資格すらない。
視界に入ることさえも罪だ。
なのに、こうして顔を見せて都合よく愛の言葉を語る。
本当に、救いようがないクズだ。
けれども、どうしてもノエルに伝えたいことがある。
「だけど、本当に好きなのはお前しかいない。ノエルを愛している」
ノエルだけが俺の全てだ。
「俺は……お前をずっと好きでいてもいいか?」
許されるのなら、永遠にこの少女のことだけを思い続けていたい。
ノエルは、優しく微笑んだ。
天使のように可憐でかわいらしい笑顔だった。
「だめ、だよ。レイは、ちゃんと、あなたを、愛してくれる人に恋をして、幸せにならないと……」
小さな声で息切れしながらそう言った。
そしてサクランボ色の唇はもう開かなかった。
アメジストの瞳は、ゆっくり閉じていく。
繋がれていた手のぬくもりがなくなっていく。
「ノエルなしで幸せになれるわけないのに……」
そんな俺に幸せになれと言うなんてノエルは、バカだ。
もう愛した人には二度と会えない。
恋することさえも許してもらえなかった。
深く、濃い絶望が押し寄せてきた。
俺は、ただ泣き続けることしかできなかった。
読んでくださりありがとうございます。
まだ続きます。