踏みにじられた自分を肯定する方法
『これは、恋よ。グレゴリオ
暗い夜の淵ではあなたなしではもう歩けやしないよ
微笑んで、グレゴリオ。雲が流れたんだよ、ねえ』
古川本舗さんの曲が大好きです。
では、物語はクライマックスへと近づいていきます。
どうぞ最後までお楽しみください。
ノエルは、レッドに殺されそうだった。
少女ばかり見ているレッドは、俺がいることには気が付かなかったみたいだ。
ノエルは、一瞬だけ俺を見たが気が付かない振りをしてくれた。
次の瞬間、俺、レオン・エイブラハムは、レッドの右手の銃を長い足で蹴り飛ばした。銃は空中を飛び床に叩きつけられた。
俺は、更にレッドを床に殴りつけた。
レッドが赤い血を吐きながら、床に叩きつけられた。
そして素早く両手を縄で縛りつける。
ノエルは驚いた顔をしながら、聞いてきた。
「どうしてあなたがここにいるの?」
「……この間、ひどいことを言ったから、謝りにきた。そしたら、ノエルが殺されそうになっていたから驚いた。
ごめん……。自分でも何であんなことを言ったのかわからない。ノエルに対してブスというなんて、俺はどうかしていた」
「まあ、私もかつてあなたにひどいことを言ったし、それくらい別にいいのよ、気にすることじゃない。それよりも、ルークとロイの怪我を何とかしないと」
「そうか。腕のいいお医者さんを知っている。ちょっと一緒に来てくれないか。すぐ近くにいる。
俺が頼んでも断れられるだろうけれども、ノエルみたいにかわいい女の子が頼めばきっと承諾してくれるはずだ」
「ええ、わかったわ」
俺は、ノエルをとある古い建物に案内した。そして中へ入った。
「本当にこんなところにその人がいるの?」
「ああ、もちろん。こっちだ、来てくれ」
俺達……いや、僕たちは、階段を上っていく。
ノエルにとっては、地獄へと続く階段だ。
階段を上りながら、昔の感情を一つずつ思い出していく。
みんなが醜い僕を嫌っていた。みんなが僕を視界に入ることさえも嫌がった。
誇れるものなんて何一つなかった。
自分を好きなところなんて何一つなかった。
他人以下の自分。
僕は自分が大嫌いだった。
ああ、そうだ。
僕はさ、君に愛されない自分が嫌いだった。
……大嫌いでたまらなかったよ。
人と話すことは怖かった。
家族でさえも怖かった。
自分に向けられる視線を恐れた。
人と会っても目を反らしてばかり。
知り合いと会っても下を向いてばかり。
人を関わる時間を苦痛に思うようになった。いつしか僕は人を遠ざけるようになった。
人と関わることが嫌いでした。人が嫌いでした。
誰も信じることなく、誰からも信じられることなく、必要とされることなく、必要とすることもない……そんな世界で生きたかったです。
けれども、君がいたせいで僕はそんな世界で生きられなかった。
僕は君が嫌いだった。僕の世界を恐し、エリックを選んだ君が大嫌いだった。憎んですらいた。それと同時に君を愛した。だから、君の全てを許していた。
ある日、突然ノエルへの愛は覚めた。
もう昔のように綺麗な気持ちは抱けなかった。
愛で隠れていた殺意が露わになった。
ノエルを殺せ、復讐しろ……そんな声が聞こえた。
憎しみとプライドと痛みで心が染まる。
踏みにじられた自分の存在を肯定してければ、僕を傷つけた少女を殺すしかない。
屋上へたどり着く手前。泣いている少年を見た。
手を伸ばしかけたら、その少年は消えてしまった。
ああ、これはあの時の自分だと思った。
ノエルを殺すことで、かわいそうな昔の自分を今救ってあげるのだ。
もう後戻りできない。
僕がメラニーを愛すると決めた瞬間から、この少女は破滅する運命だったのだ。
僕はドアを開けた。
眩しい青空が広がっているのが見えた。
「誰もいないじゃない。私、帰る」
そう言いかけたノエルの手首を強くつかみ、無理やり引っ張っていく。
「ちょっと……やめて」
その時、ノエルは僕の顔を見て後ろに下がった。
きっと僕は血に飢えた獣のような顔をしていたのだろう。
「レオン、あなたまさか、私をここから突き落とすつもりでここに連れてきたの?レッドから助けたのも私を自分の手で殺すためだったの?」
「ああ、そうだ。今頃気が付くなんてバカな女だ」
僕がノエルを助けたのは、自分の手で君を殺すためだけだ。
殺気を感じることに長けていたレッドは、レッドに対しては殺気を抱いていなかった僕には気が付けなかったようだ。
屋上の淵まで引っ張り、手を離す。
「ずっと大嫌いだった。死ね」
不意に背中が押されノエルはバランスを崩した。
「キャッ……」
少女は、落ちていく。
桜の花びらと共に落ちていく。
少女が伸ばした手は空を掴んだ。
彼女の死を望んでいたはずなのに、胸にぽっかり穴が開いた気がした。
何かが壊れる音がした。
Thank you very much for reading.(+_+)