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ラブ・イリュージョンが止まらない

 らんらんらん。ルンルンるん。

 今日はお買い物するの。かわいい服に出会えますように。

 サラサラとした癖ひとつもない綺麗にまとまっている太陽みたいに眩しい金髪。

 青い空を写し取ってはめ込んだように美しい目。

 スラリとした長い手足。

 絵本の中の王子様みたいな完璧な容姿。

 彼は歩くと誰もが振り返るようなイケメンだった。神様から愛されたような容姿の男だ。

 ああ、私は悪魔から愛されたような運命をたどっていると言うのになんて世の中は不公平なのだろう。

「……けがは大丈夫か?」

 気のせいかな。こいつの声は私がさっさと死んでくれればよかったのにという響きがある。きっとこいつは私が死んでいたところで不幸な事故として処理するのだろう。むしろ、死んでいなかったことこそ予想外だったのかもしれない。

 こいつの本性は腹黒ヤンデレだ。そう攻略本に書いてあったじゃないか。

「もちろん。大丈夫よ。

 そんなことよりもあなたに言いたいことを言いに来たの」

「何だ?」

 不機嫌そうな声。きっと私に『責任取って今すぐ結婚してね』とでも言われると考えているのかもしれない。

「やっぱりあなたの言った通り婚約を解消するわ」

「……え?誰と誰の?」

「あなたと私に決まっているじゃない」

「え?何だって」

 その言葉は予想外だったらしい。エリックは、ポカンと口を開けた。

「俺に対する愛はどうなった?」

「風に吹かれて飛んでいった」

「何だ……それは……。神風か……。って愛が覚めるのが早すぎだろう」

「それはあなたに魅力がないから」

「さらりとひどいことを言うな。何を企んでいる?

 婚約を解消する振りをして、周りの人間を油断させ、メラニーを毒殺でもさせる気か」

 ……なんてひどい言いがかりだ。

「そんなことしないわ。あなたに飽きた。だから、もういらない。さようなら」

 よしっ。これで死亡フラグともおさらばだ。やったね、万歳。私、よく頑張った。

「待て、何を企んでいるか話せ」

 そう言って睨みながらエリックが近づいてきた。

 私も逃げるように後づさる。しかし、背後には壁が現れた。

 やばい、絶体絶命。

 エリックは私を閉じ込めるように壁ドンしてきた。

「答えてくれるまで帰さない」

 青い目に捉えられる。それくらい澄み切った綺麗な瞳が私をうつしていた。

 しかし、私は常識のある女の子である。こんな犯罪まがいのプレイにウハウハしたりなんてしない。

「振られた男が見苦しいわね。あなたみたいな奴を粘着質のストーカーと言うのよ」

「俺の歯ブラシを集めていた君に言われたくない」

「過去のことを持ち出してネチネチ言うなんてひどい男ね」

 まあ、つい最近のことだけどさ……。

「女の子に壁ドンするなんて犯罪よ。離れなさい」

「いったい何があった?」

 もうこうなったら嘘でもでっちあげよう。

「私、真実の愛に目覚めたの。

 目が覚めたら優しく看病してくれる弟がいた。その途端、ルークに恋したの」

 エリックが傷ついたような顔で私を見てきた。あれ?何で?

 そんなことよりも目の前にある死亡フラグを叩き潰すことが優先だ。

「あなたへの愛は全部真実の愛ではなかった。ただの一時の気の迷いだった。

 それがようやくわかったわ」

 気分は愛を語るジュリエット。見なさい、これがハリウッド級の演技よ。

「婚約は解消しない」

「どうして?」

「俺を愛していない君なら、俺にとって都合のいい駒になる」

 何という腹黒。確かにそうだ。こいつが私と婚約したのは、私の権力、地位が自分に釣り合うものだとみなしていたからだ。

「ひどい。私はルークを愛しているのに。私とルークの仲を引き裂くつもり?」

 ちっとも愛していない人への愛を語るなんて大変だ。

 エリックはそんな風に頑張る私に意地悪そうな笑顔で微笑んだ。

「ああ、そうだよ。君はいい駒だから手放すには惜しいよ。そんなにルークを愛しているなら、ルークを人質にとれば君は俺の思い通りに動いてくれるだろうし。だけど、どうせルークへの愛も一時の気の迷いじゃないか?」

「まあ、何てひどいことを。私は一生ルークを愛し続けるわ」

 頭にカッと血が上って心にもないことを言ってしまった。

「だったら俺は君とルークを引き離す方法を考える」



 な、何だって。

 廊下で二人の話を聞いていた僕は心臓が止まりそうになった。

 姉さんが僕を愛している!あんなに情熱的に愛を語っている!

 そんなこと天地がひっくり返ってもあり得ないと思っていたのに、本当にあるなんて。

 頬がある熱い。心臓がうるさいくらいに暴れていた。

 そうか、姉さんの性格が変わったのは真実の愛による力なのか!

 これが真実の愛の力……恐ろしいくらいにすごい。

 今までたくさんの女の子達から告白されてきた。

 気になっていたメラニーにも優しくされた嬉しかった。

 その度にうれしいと喜んでいた。

 でも、そんな喜びが吹き飛んでしまうくらい僕はうれしくてたまらなかった。

 どうしてこんなにうれしいのか?僕は、姉さんなんて大嫌いだったはずじゃないか。ギャップ萌えの効果なのか。

 まさか……僕も姉さんが好きなのか……。

 これは恋なのか……。

 わからない。

 けれども、心臓の音がその答えを明確に告げている気がした。

 帰りの馬車で思い切って聞いてみた。

「ね、姉さんは僕のことを好きなの?」

「あなたのことなんて好きなわけない」

 ルークの頭の中でこのセリフは、『べ、別にあなたのことなんて好きじゃないんだからね』というツンデレ語に変換された。

 姉さんはツンデレだったのだ。どうして僕は今まで気が付かなかったのだろう。

 僕みたいな奴を鈍感というのだ。ああ、なんて僕は罪深い男だったのだろう。

 エリックへ嘘の愛を語りながら、いつだって彼女の心は僕だけのものだったのだ。

 ……ルークの頭の中では、ノエルは最初からルークに惚れていたという設定になっていた。

 

 次の日、僕のもとへエリックがやってきた。ノエルに振られてしまうなんてかわいそうに。

 顔がかっこいいのは認めよう。だが、ノエルが選んだのはこの僕なのだ。

 ルーク大勝利!ルーク万歳!世界は僕を中心に回っているに違いない。

 ハハハハハ。今なら逆立ちをしながら、世界一周ができそうな気分だ。

 こんなイケメン、恐れるに足りない。

「ルーク・ハルミトン。話がある」

 僕の足が震えだした。大丈夫、僕は美少年だ。

「ルーク。単刀直入に聞く。君はノエルが好きか?」

 ……挑発的な目を見ていると、思わずこう答えてしまった。

「好きだ」

 目の前のエリックがライオンを思わせるような獰猛な目をした。

 ……こんな奴怖くない。

「そうか。しかし、ノエルの家柄はとても魅力的だ。

 彼女は俺にとって便利な駒だ。

 だから、お前はノエルを諦めてくれ」

「嫌だ。ノエルは僕のものだ」

 それを聞いたエリックが僕に向かって手袋を投げつけた。

 ん……。これはどこかで聞いたことがあるような。

「……決闘を申し込む。俺が勝ったらノエルを諦めてくれ。そしてもう二度と彼女に近づくな。

 君が勝ったら俺はノエルを諦めよう」

 姉さんは僕を愛している。

 そのことが僕を強くする。

 愛があれば何でも乗り越えられるんだ。

 若く勇敢な美少年はそう信じて疑わなかった。誰かがルークの思考を読んでいれば、『少しは疑えよ』と突っ込んでいたところだろう。

「受けて立つ」

 ルークの茶色のサラサラとした髪が春風に吹かれて揺れる様子が、エリックの青い瞳に映っていた。


 ルークは少しも気が付いていなかった。……彼の姉がルークをちっとも愛していないことに。




 読んでくださりありがとうございます。

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