俺たちは最低だった
うにー。
ノエルは、緑のワンピースを着て立っていた。風に吹かれてひらひらとワンピースの裾が揺れる。長くて美しい髪の毛が、風になびいている。
桜のようにほんのり色づいた頬がかわいらしい。どんな思い出も、景色も叶わないくらい美しい。まるで妖精みたいだ。
「どうして私を殺そうとするのよ?」
「本能かな。いや、欲望かもしれない。真実の愛を知った途端、なぜかお前を殺せという想いにとりつかれた」
メラニーに惚れこんだ俺は、ノエルを殺せという呪いみたいな強い強迫観念に囚われた。これほど人を殺したくなったことは初めてだ。
欲望のままに生きてきた。
だから、欲望に忠実に人を殺すことにしよう。
「まさか、あなたの口から真実の愛という言葉が出るなんて思っていなかったわ」
「そうだな」
そんなことないと思っていた。もしも、惚れるとしてもお前みたいに最低な女しかいないと思っていた。
ノエルは、こんな時でも俺をまっすぐに見ていた。
俺は、今までに女を口説く時に浮かべた時とは違う笑顔を浮かべた。
偽物の甘ったるい笑顔ではなくて、感情の赴くままに浮かべた狂気を帯びた笑顔だった。
ノエルは俺の特別だったよ。
抱いていたものは決して恋と呼べるようなきれいなものではないけれど、夜明けを思わせる紫の瞳に映る最後の人間が、俺であることに喜びを感じてすらいる。
これでノエルが誰のものにもならない。そんな暗い喜びが俺を支配していた。
この想いは、歪んでいて、救いようがなくて、破滅へと導く。
さあ、破滅へのカウントダウンの始まりだ。
俺は殺し文句を口にした。
「愛しているぜ、ノエル」
ここは、『私も愛しているわ、レッド』と返して欲しいものだ。
しかし、ノエルはふくれっ面をしながらこう言った。
「ふん。他にも10人以上の女の子を愛しているくせに」
「嫉妬か、それ。かわいいな」
「からかわないで」
アメジストの瞳で猫のように俺を睨み付けている。
俺は、他人を傷つけ、裏切り、仮面を被りながら生きていた。
声にならない言葉を殺しながら生きてきた。
人を傷つけても、殺しても何とも思わない最低な人間。
傷つけることに、奪うことに慣れてしまった。
そういう生き方しかできなかった。
出来上がったのは人間に成り損なった怪物だった。
友達もいた。彼女もいっぱいいた。
だけど、心に張り付いた自分が汚れているという気持ちは消えなかった。
自分と同じように最悪だった少女と一緒だった時と、女を抱いている時を除いて。
それもメラニーと出会ったことで嘘のように変わってしまったけれども。
なあ、ノエル。
人を殺すことに何のためらいもなかった少年。
人を傷つけることに何のためらいもなかった少女。
……俺たちは最低だったな。
だからこそ俺はノエルの隣が気に入っていたのかもしれない。
俺がずっと思っていたことを話そうか。いや、こんな感情、打ち明けられないな。
俺さ、ノエルがみんなから嫌われていくことが……とてもうれしかった。
嫌いな人が不幸になったことを喜ぶということとは違う。
気に入っている奴だからこそ、みんなに憎まれていくことがうれしくてたまらなかった。
俺はお気に入りのノエルが俺を除いて誰からも好かれることがないように願っていた。
こんな想いは、狂っていると思わないか。
読んでくださりありがとうございます(*´▽`*)
歪んだ想いや、愛、ゾッとするような醜い感情を美しくかけるようになりたいです。