赤い死神の生贄
……。どうやら私は予想を裏切ることが大好きなひねくれた性格らしいです。
とりあえず、ルークにはいつレッドが来てもいいように戸棚に隠れてもらった。
いつ殺されるかわからない状況ってかなり怖い。
「そういえば、あなたは女性恐怖症だという噂があるけど大丈夫なの?」
私は、ロイに聞いてみた。
「はい。女性は苦手ですが、ノエル様は全く女に見えないので問題ありません」
「ひどい。何よ、私が男にでも見えるわけ?」
ロイのバカ。死ねばいい。
けれども、ロイは紫紺の瞳をきらめかせながらこう答えた。
「いえ、いつか倒すべき敵です」
……うわあ、今すぐ種明かししたい気分。
だめよ、ノエル。本当のことを言ってしまっては。だって、ロイは、役に立つカードだから。
「と、と、とりあえずレッドの能力について教えて」
「彼は天才です。2km先の針の穴でも打てます。15人の暗殺者相手に一人で勝った伝説の男です」
……。チャラ男のくせにやるな。私の背筋に汗が伝った。
「彼に向かって殺気を出したらすぐに場所を悟られます。とある屋敷に入る前に、この屋敷に何人の人がどこらへんにいるか推測しました。ちなみに、彼のこの能力は長年の女性関係の修羅場を経て培われました」
……こうして彼は、女に刺されることなく生きていたのね。
「だけど、彼に向かって殺気さえ出さなければ大丈夫です。場所は悟られたりしません」
なるほど。一応、レッドにも欠点があってよかった。
「一番危険なのは、レッドが冷たい人間だと言うことです。レッド・カレンは決して揺るがないし、情にも流されません。動揺もしません。
殺すことにためらいを一切覚えません。どんな敵が目の前にいてもためらいなく引き金を引ける男です」
「あなたはそんな強いレッドを裏切ってしまっていいの?」
「はい、問題ありません。レッドは私を殺さないだろうし、私がレッドを殺そうとしてもレッドは死なないでしょうから」
その時、銃声がした。
次の瞬間、ロイのポニーテールがはらりとほどけた。
……この髪ゴムを狙って撃ったのか。
コツリ、コツリという足音が私たちに向かって近づいてくる。
私には、姿が見えなくても誰がやってきたのかわかった。
やがて足音はドアの前で止まった。
情熱的に燃えるルビーをはめこんだように綺麗な目。少し跳ねているがかっこよくまとまっている他の色が少しも混ざらない赤い髪の毛。
彼は、いつも会っていた時のように砂糖のように甘ったるい笑顔を浮かべていない。 貼り付けているのは、獲物を見つけ目を輝かせる肉食獣を思わせる凶暴な笑顔。
色気のある甘い声で私を口説くように囁いた。
「会いたかったよ、ノエル。俺がお前を天国へ連れて行ってあげる」
「結構よ」
「大丈夫。初めてでも痛くないようにしてあげるから。俺は経験豊富だからね」
「全然大丈夫じゃないわよ。お断りするわ」
「それじゃあ、無理やりノエルを天国へ連れて行くとしよう。嫌がる女を従わせていくことは結構ゾクゾクするんだぜ」
「悪趣味ね、この外道」
「ああ、そうだ。俺は最低だ」
レッドは、私に向けて銃を数発、撃った。けれども、私の前にいたロイは全ての銃弾を剣に当てて弾き飛ばした。さすがロイ。これなら、この間にルークがレオンに銃を撃てばなんとかなりそうだ。
「帰るのが遅いから様子を見に来たらこんなことになっているとは。ロイ、裏切るなんてひどいね」
「何人もの女の後始末を私に押し付けてきたあなたの方がひどいと思います」
レッドは、銃を一発、窓枠の金属に向けて撃った。それは、金属で反射されロイの腹部に命中した。
ロイが血を流しながら倒れた。
そんなロイに向かってレッドはしゃあしゃあと述べた。
「友達だから、急所を外してやった」
友達だったら撃つなよ。
こんなに早くロイが倒れることは予想外だったが、何とかなるだろうか。
次の瞬間、隠れていたルークがレッドの後ろから彼に向かって銃を撃った。
けれども、その銃弾は彼に当たらなかった。
なぜなら、レッドがその銃弾に、後ろを向いたまま背後に向かって自分が撃ち込んだ銃弾を当てて弾いたからだ。嘘でしょう!こんな神業ができるなんて。
「背後にルークがいたことに、気が付いていたの?」
まるで後ろに目がついているみたいだ。いや、後ろに目があったしてもこんな技できないに違いない。
「殺気をわずかに出していたからね」
それだけで、銃弾の位置までわかるのか!おかしくないか?
レッドは、一つの銃をルークに、一つの銃を私に構えた。
ルークが、必死に銃をレッドに撃つ。私も、2丁の銃を使いレッドに撃ち続けた。
けれども、どの銃弾もレッドが撃ち込んだ銃弾に当てられ全て床に落ちてしまう。
こいつ、チートすぎるだろう。
そして、狙いを定め撃ち、ルークの銃と私の銃に見事に銃弾を当てて銃を破壊した。
「銃はだめになったけれど、どうする?」
ルークは、剣を取った。
もしも、ルークがレッドの3メートル以内に近づければ勝てるかもしれない。
けれども、そんなルークにレッドは冷たい笑顔を浮かべた。
「とりあえずお楽しみを邪魔する者は、消えて」
レッドの撃った銃がルークの胸元に命中した。
「うっ……」
ルークが倒れこんだ。血は流れていなさそうだ。まだ手が動いているところを見ると生きているのだろう。
何て鮮やかな手口だろう。
ロイは倒れた。ルークも倒れた。銃も破壊され、手札も切り札も何もない。
私は、赤い死神の生贄となるだけだ。
レッドは、銃口を私に向けた。
「さあ、ノエル。次は君の番だ」
計画通りとでも言うような人間とは思えないほど美しく、冷たい笑顔。命どころか魂まで奪われそうな狂いかけた笑顔。
一瞬が永遠になる。
私は、まっすぐにレッドの悪魔のような赤い目を見つめた。
読んでくださりありがとうございます。
次はレッド視点です。




