ロイの挫折と痛み
彼についてです。
貧しい家で生まれた私、ロイ・ガードナーは、官僚になることを親から望まれていた。けれども、私は勉強があまりできなかった。
仲良かった友達には、ある日、急に無視された。
そうして永遠だと信じていた友情は終わった。
勉強も極められなかった。
家の仕事もミスして家族に迷惑をかけてばかりだ。
みんなが私のことをいなくなればいいと思っているダメな奴。
もう死にたい。消えたい。
そんな私が自分を肯定する手段は、剣しかないと気が付いた。剣だけは得意だった。
私は剣だけでいい。剣だけ極められればそれでいい。
唯一であり、絶対に自分を肯定する手段。誰にも負けたくなかった。
剣を知って……生き方を知った。初めて自分の生きている意味を見つけられた気がした。
好きでもない勉強を一生懸命やって何になるのか?
手にするものは、金か、名誉か、いい女か?
そんなものくそくらえ!
私は生きる、自分らしく生きる。
一度しかない人生。
何にも縛られずに自由に生きたい。
束縛されレールの上を無理やり歩かされるのはごめんだ。
剣がぶつかり合う音と、呼吸の音と、心臓の音。
全てを狂おしいほど愛している。
こうして私は剣の道に何もかも捨て捧げていた。
そうして誰よりも強くなった。
目の前にいる人形のような美少女が私に剣を構える。
そっちがその気なら、女であろうと容赦しない。
私から攻撃をしかけた。
しかし、ノエルは、私が向けた剣を滑らかな動きで遠ざけ、次に打ち込んだ攻撃も華麗に交わした。美しい金属が当たる音が辺りに響き渡る。
こいつ……強い。私の攻撃をこうも鮮やかに受け止めるなんてすごい。
だけど、これでおしまいだ。
私は、剣を音のように早く右から左へ流した。この技をやるためには、剣を軽く持たなければいけない。よって剣を当てられたら私の手から剣が弾き飛ばされる可能性がある。しかし、当てられなければどんな相手でも殺せる最強の業である。
私の剣がノエルの腹を切り裂く直前の瞬間、少女が私の剣めがけて狙いを定めて彼女の剣を下から上へ振り上げた。
えっ……
剣が手から離れて吹っ飛んでいく。
カツンッ……。
剣は、床へと強くたたきつけられるがやけに大きく感じられた。
ノエル・ハルミトンは、剣先を私の喉元にむけた。
アメジストの瞳に、呆然としている私が映っている。
血も凍りそうなくらい美しい少女。
窓から吹き込んだ風が、少女の長い銀色の髪を揺らす。
黄金色の昼の光が、少女の勝利を祝福するように差し込んだ。
世界の終わりを思わせるような美しい光景だ。
戦女神のように、鋭く冷たい瞳をしながら告げる。
桜色の形のいい唇が告げる。
「あなたの負けだ、ロイ・ガードナー」
鈴の音がなるように美しい調べが響いた。
私はこの少女に敗北した。
私が……負けた……。
本気で戦ったのに。
手加減なんて一切していなかったのに。
誰よりも強くなれたと思っていたのに。
この少女に負けたのだ。
培われたプライドが粉々に砕けた。
どうしようもなくやりきれない気持ちが心に広がっていく。
自分の全てが否定された。
私には剣しかなかったのに。
この痛みはきっと忘れることがないだろう。
痛みと飢えが私を成長させるから。
これからは、痛みを抱いてまた前を向いて進むだけだ。
だけど今は全てが痛みにとらわれている。
涙が頬を流れていく。
読んでくださりありがとうございます(*´ω`*)