策士ノエル
次はロイ視点です。
私とルークは、とりあえず剣の腕を磨くということで、家で特訓をしていた。
「姉さんは剣の才能がないみたいだ」
「う、うるさいわね。そのうち国一番の騎士として歴史に名前を残して見せるわ」
「無理だよ」
爽やかな顔でルークが否定した。ひどい男だ。ろくな死に方をしないだろう。
「そういえば、攻略対象者たちを戻す方法として他にも思いついた方法がある」
「え、どういう方法?」
ルークが目を輝かせながら聞いてきた。
「ヒロインを殺す」
琥珀色の目の輝きが一瞬でなくなった。
「……姉さんは最低だ」
「いや、だってこの世界はヒロイン中心に回っているんでしょう。そのヒロインがいなくなれば、解決するんじゃないかしら」
ルークは、冷たい目で私を見ていた。
「まあ、もちろん冗談。実際にこんなことしたりしないわよ。他には、ヒロインを国外追放という案があるわ」
「いや、無理だろう」
「無理じゃないわ。気絶させて箱に詰めて郵送すればいいんじゃないかしら」
「姉さんは悪魔だ。人でなしだ」
「冗談よ。私がそんなことをするはずないじゃない」
……まあ、乙女ゲームのノエルはそれを実行するような人だったけど。私には関係ないわ。
そういえば、もう一人、攻略対象者はいるけど、存在感薄いしまあどうでもいいや。
というか、そいつは隠しキャラと言われている。ヒロインと遭遇する可能性すら低いキャラだ。放っておいても問題ない。
突然、ドアが破壊された。
剣で切られたようにドアがバラバラになる。
ドアがあった場所の奥にいたのは、青い髪に紫紺の瞳をした美しい青年だった。私は彼を知っている。だって……攻略本に詳しく載っていたのだから。
彼は私を見て困ったような顔をして告げた。
「申し訳ありません。あなたを殺すことにしました」
丁寧な口調でひどいことを述べる。
ロイ・ガーデン。国で二番目に強いと言われている騎士。
だけど……実際は違う。
ロイは、国で一番強い騎士なのだ。庶民出身のロイは、王族であるエリック相手に勝って周りからの印象が悪化することを恐れて自分の本当の実力を隠していたのだ。
「大丈夫。僕がロイをコテンパンにするよ。この間のリベンジだ」
ルークが太陽のように眩しい笑顔でそう告げた。
……ルークは、知らない。ロイが本当はエリック以上に強い騎士であることを。
私は、やる気満々のルークにそんな絶望的な言葉をかけられなかった。
「すいません。あなたには何の恨みもないけれども、殺すことになりました」
「だったら殺さないでよ!」
ロイは、優しい笑顔を浮かべながら私の頼みをバッサリ切り捨てる。
「残念ながらそれは無理です」
次の瞬間、金属が当たる音が辺りに響いていた。
ルークが、ロイに一撃しかけたらしい。
けれども、ロイは美しい動作でそれを流した。
10秒もしないうちに、ルークがやられてしまった。バタリとルークが倒れる。……何、この実力差……。
「姉さん……。ごめん……」
息も絶え絶えになったルークが謝ってきた。
「大丈夫、私が勝つわ」
私はルークに向かって優しく微笑みかけた。
知っている?私は、ロイには勝てるのよ。
私は、剣はもちろん弱い。だけど、未来を知っている。ロイが剣でノエルを殺す動画はあまりにも美しいからネット上で話題になった。私もその姿に惚れこみ暗記するまで覚えたのだ。
ロイは予想通り、乙女ゲームの動画と同じ動きをした。よし、勝てる。
次にロイはこの動きをするから剣を吹っ飛ばせ。
計画通り。ノエル、大勝利!
しかし、周りは予想外だったみたいだ。
うわあ……ショックのあまりか、ロイが泣き出してしまった。かわいそうに……。私は悪くない。
ルークが、驚きのあまり魂が抜けたような顔をしていた。心臓が止まっていないか心配だ。
ふふふ。これが私の実力よと言いたい気分だ。
まあ、いかさまで勝ったことはしばらく秘密にしておこう。
やがて、ロイは土下座しながら言ってきた。
「私をあなたの師匠にしてください」
「いいわよ。その代わり、試練を与えるわ。
この次、私を殺しにくる人間をやっつけて欲しいの」
「次は、私を雇ったレッド・カレンがあなたを殺しに来ます。あいつは、千年に一人と言われている暗殺の天才です。だけど、私たちならきっと奴を倒せます」
レッドが来るのか……。まあ、でもなんとかなるだろう。
ロイというカードを手に入れた。これで、エリックやレオン、レッドが来ても返り討ちにしてみせる。
策士ノエルの誕生よ。レッド・カレンが来ても返り討ちにしてみせる。
私は、腹黒い笑顔を浮かべた。
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