暗殺を押し付けられた彼について
レッド・カレンのレッドと、メラニーは、風と共に去りぬの登場人物からの名前をいただきました。
ロイ・ガーデン。ポニーテールにしてある青く長い髪に、知的に輝いている紫紺色の瞳。遠くから見ると女の子のように見えるが、正真正銘男性である。鷹のように鋭い吊り上がり気味の目つきを見ると獲物を見つけた肉食獣を思わせる。けれども、性格は大人しく歩く真面目と言われている男である。
ロイは、国で二番目に強いと言われている騎士である。庶民出身で貧しいロイは、闇の仕事もしていくようになる。
そんな中、レッド・カレンと知り合った。最初の頃は、暗殺関係の仕事ばかりしていたが、そのうち雑用も押し付けられるようになった。
彼には、何度修羅場の後片付けをさせられたかわからない。つまり、仕事上のパートナーから、パシリへと気が付いたらジョブチェンジしていたのである。
呼び出されて行ってみたら、彼は必死で何かを書いていた。
暗殺の仕事ばかりしているから、いつ死んでもいいように遺言書でも書くことにしたのだろうか?しかし、『恋という名の深い海に溺れさまよい歩く一人の少年』と書いてあるところを見ると彼はラブレターを書いているのだろう。
野性的で、燃えるような赤い目。美しい線を描く鎖骨。セクシーな泣きぼくろ。少し跳ねた赤い髪の毛。危険な香りがするイケメン、レッド・カレン。残念なイケメンとは、彼のために存在する言葉に違いない。
「恋なんてばかばかしい。愛なんてくだらない。
女なんて俺が遊ぶためだけに存在する。愛するためじゃねぇ」
そうかっこつけながら言っていたレッド・カレンがある日、急に変わってしまった。
ああ、人間って変われるのかと驚いた。
きっと何か悪い物でも食べたからに違いないとロイは思った。
「恋愛とは、本当に素晴らしいものだ。俺の世界が輝いて見える。
ああ、メラニー。俺の女神。俺は今すぐ守護霊になっていつもお前の側で見守っていたい」
「……そんな守護霊いたら嫌です」
こんな人間相手にも上司には敬語というスタイルを忘れないロイはくそ真面目と言えるだろう。まあ、ロイは上司以外の大抵の人間にも敬語を使うが。
「ロイは、恋愛というものを理解していないな。メラニーだったら、絶対に泣きながら喜ぶよ」
泣きながら怖がるという間違いじゃないだろうかとロイは思ったが、今のレッドには何を言っても伝わらないことを悟った。
「ちょっとお願いがある。ノエルを暗殺してきてくれないか?
ルークが邪魔になったら、あいつも一緒に殺してしまってかまわない」
一緒にお茶でもしないかという気軽な口調で、レッドは物騒なことを依頼した。
「久ぶりに修羅場の後片付け以外の仕事ですね」
ちなみにレッドが、メラニーに惚れたことでロイはレッドと関係があった13人の女達の後片付けを依頼された。殴られたり、蹴られたり、怒鳴られたりしたため、ロイは女性恐怖症になりかけた。
「どうしてあなたが行かないのですか?」
「俺は、ラブレターを書くので忙しい」
ラブレターには、第一幕から、第二十幕まである。それなのに、さらに続いている。まるで、ラブレターというよりも小説のようだ。
一枚、手に取ってみる。
『俺は、嫉妬している。まるで、体が内側から焼き尽くされていく気分だ。
君はまるで、美しく、気高く、神聖で、唯一の女王蜂。君の周りには、多くの恋に溺れたみすぼらしい虫がその麗しい香りに惹かれて集まっていく。君の美しさには、美の女神アプロディーテーすらも叶わなく、全ての人類がひざまずき湛えるのに値するほどすばらしいというのに、俺は求婚者たちの一人でしかない。けれども、俺には我々が進むべき道が美しい月光の光に照らされて光り輝くように見えている。運命という古からの約束が必ず俺達二人を結びつけるだろう』
……。理解不能である。
ロイは知っていた。メラニーの父親が届けられたラブレターを気持ち悪いと燃やしてしまったことを。けれども、どう伝えればいいかわからなかった。
そうだ。いい考えがある。ロイはラブレターを破り捨てた。もちろん、日ごろの恨みをこめながら破った。
「ロイ……。お前……」
レッドが粉々になったラブレターを見ながらしゃべりだした。
「そうか。もっと素敵なラブレターを書けということか!」
「ポジティブすぎる気がします。大体、あなたはメラニーに避けられています。嫌われているのではないでしょうか?」
「あの子はツンデレだよ。あれは避けているのでなく、俺を意識しているだけだ」
「人間の心とは奥深いものですね」
ロイは、また一つ賢くなったと思った。
「ロイはそんなんだから女の子にもてない童貞のまま生涯を終える運命だ」
「そういうものなのですか?」
「そうだ。ロイも俺みたいに、女心を理解できるようにがんばれ」
しかし、こんなに分厚いラブレターを書いているレッドが女心を理解しているようには思えなかった。レッドは、ロイに向かって真剣な顔でアドバイスしてきた。
「まずは、その服装をどうにかしろ。お前はいつも同じような地味な服を着ている」
「レッドこそ、そんな薄着ばかりしていると風邪をひきますよ」
「ロイにはわからないのか?風がふき、服がめくれるとちらちと見えるのは神々しいほど美しい肉体。これぞエロス。これぞ男の色気。チラリズムは正義だということがわからないなんてかわいそうに」
ロイにはちっともわからなかった。わかるのは、こいつの頭はおかしいということだけだった。
「まあ、とにかく、俺がもう一回ラブレターを書くまでにちょっと暗殺してきてくれ。失敗したら、俺が片づけてやる」
「はい、かしこましました」
こうしてロイはノエルとルークを暗殺することにした。
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