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かわいそうな勝者

 昔、ルークみたいな容姿をメインヒーローにした小説を書いたことがあります。

 だから、ルークにはけっこう思い入れがあります。

 死神が私に近づいてくる。

 そんな気持ちになった。

「さよなら、ノエル」

 そう言って、エリックは剣を振り下ろした。

 ああ、終わりだな。

 そう思った。

 けれども、エリックが切ったのは私ではなかった。

 床に血がポタポタと落ちていく。 

 辺りが生臭い血の匂いで満ち溢れる。

 ああ、存在したじゃないか。

 一人だけこの場にいた。エリックの攻撃を止められる人が。 

 それは……エリック自身だった、

 エリックは、剣で自分の左手を受け止めていた。

 彼の手から、真っ赤な血が流れおちた。

 光り輝いていた剣も毒々しい赤色に染まる。

 彼の剣を持つ手は、震えていた。殺意とそれに反する思いを封じ込めているように。

 彼の声から弱弱しい声がこぼれた。

「ノエル……。逃げて。

 俺は……」

 エリックは、母親に捨てられた子供のような目をしていた。

 魂が引き裂かれたように痛々しい、悲しそうな顔をしながらも、確かに告げた。

「お前を殺したくない」

 おい、言っていることとやっていることが矛盾しすぎだろう。こいつバカじゃないか?

 けれども、彼の本当の言葉を聞いた気がした。

 なぜか、ルークとの勝負に勝ったはずのエリックこそ、敗北者のように見えた。

 救いようがないくらい悲劇のヒーロー。

 運命に操られるかわいそうな男。

「早く行け……。ルークと一緒に逃げろ。急いで……。俺は、お前を殺したい気持ちに支配されそうだ」

 今の狂いかけたエリックを助けることは私にはできない。

 私は、倒れたルークに肩をかし歩き出した。

 振り返ったその瞬間に見えたのは、とても痛々しい姿だった。

 絶望の淵にいるような暗い瞳。

 孤独に取りつかれたまま、助けてと叫んでいる。

 私には、どうすることもできなかった。

 

 

 帰りの馬車で、ボロボロのルークは横たわっていた。

 血だらけの美少年。……ぜ、全然、素敵じゃないもん。

 べ、別にルークにときめいたりしていなかったし。

 そうよ、あんなのただのイリュージョンだわ。

 そんなことよりもエリックだ。次に会った時は、完全に殺意に支配された状態になっている可能性が高い。

「私もエリックを倒せるように、剣を習おうかな」

 そうしてエリックの剣をぶっ飛ばせるようにするんだ。

「姉さんには無理、不可能。諦めな」

 ルークは、即答だった。

「ひどい。ひどすぎる。なんて冷たい弟なの!」

「人間には限界がある。どんなに努力しても敵わない目標だってある」

「だからと言って、無限の可能性を否定するなんて冷たすぎる」

「え?姉さんがエリックに剣で勝つ可能性なんてゼロでしょう」

「ひでぇ」

 黄金色の夕日が私たちを照らした。

 ふと、唐突にあるイメージが浮かび上がってきた。夕日を背景にキスをするヒロインと攻略者。そして画面に浮かぶ『END』という文字。

 ああ、そうだわ。どうして気が付かなかったのだろう。

「ねえ、ルーク。一つ、思いついた考えがあるの。エンディングを迎えればみんなが呪縛から解放される可能性はあるわ」

「エンディング?」

「ヒロインがヒーローの誰かとキスするの。でも、ヒロインとお互いに両想いでないといけないの」

「それがどうして呪縛解放に繋がるの?」

「だってエンディングの続きは乙女ゲームにはないから。

 もしも、ここが乙女ゲームの世界だというなら、エンディング後はもうプログラミングされた恋心も、誰かが書いた運命も、筋書も存在しないはずよ。だったら、誰もが本当の自分を取り戻せる。もうここはきっとヒロインを中心に回っている世界ではなくなるはず」

 ただし、私はその前に必ず死亡する運命だけど……どうなるのだろう?

 ルークは、ベルベットのように滑らかな声で言った。


「じゃあ、エンディングを目指そう」


 その前にどうか私が死亡しませんように。

 ルークがこれ以上ケガしませんように。

 そう願いながら、私たちはエンディングを目指すことにした。


 読んでくださりありがとうございます(;´∀`)

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