乙女ゲームをなめていました。
これからしばらくバイト漬け。
が、頑張ります。うう……。
乙女ゲームをなめていました。
運命をなめていました。
私が甘かった。
前世で読んだ小説みたいに悪役でも愛される可能性があるんだわというのは、甘すぎる考えでした。
まずはレッド・カレンについて語ることにしよう。
……彼は、一番と言ってもいいほどぶっ壊れてしまった。
彼は不良にからまれているヒロインを助けたらしい。その瞬間、彼は恋に落ちたらしい。
それまでチャラ男だった彼は、必死にヒロインを口説き出した。
今までの女の子と全て縁を切ったという噂がある。
彼はもともと女の子に対して甘いセリフを囁き落としていったが、メラニーに対しては情熱的になりすぎているらしい。
「恋という海に溺れる俺は哀れな道化師。俺の魂が君の黄金色に輝く魂と交わりたいと叫び出す。ああ、肉体は二人の精神が混ざり合うにはこんなにも邪魔な存在だったのか。俺は君の森の中にある透明で清らかな小川のような心をこんなにも欲しているというのに。
古からの定まりで君の貴き高値の花のような精神を俺のものにすることができないというなら笑顔を望む。
メラニー。俺の全てを捧げるべき女神。どうか崖の上に咲く一輪の花のような微笑みを哀れな子羊である俺にください」
お前は詩人か!殺人者じゃなかったのか!キャラが崩壊しすぎだろう。
ちなみに、メラニーはドン引きしているらしい。
こんな中二病のような言葉に感動する女の子なんてこの世に存在するとは思えない。
エリックは、私を家まで送る時に私を強く抱きしめてこう言った。
「俺は、ノエルが好きだ。
もうお前以外なんて考えられない」
まるで情熱的な愛のセリフだと思った。
そして次の日、たまたま出会ったエリックは冷たい目をしながらこう言った。
「ノエル。俺はメラニーに惚れた。もうあいつ以外なんて考えられない」
「はあああ。私への愛はどうなったの?」
「風に吹かれて飛んでいった」
「おいっ」
「もう俺は、メラニー以外恋愛対象としてできない。俺はあいつの全てだ。あいつが俺の全てだ。会えないだけで、気が狂いそうになる。
あいつなしでは生きられない」
本当はレイ・ブラウンであるエリックは、本当の自分になれるメラニーに惹かれていく。そういう運命の男だった。そういう設定の男でしかなかった。
「ということで婚約を解消してくれないか?くれないかというよりも、これは命令だ。逆らったら殺す」
ここまで言われたら何も反論できない。
「喜んで婚約解消します」
こうして私は、あっさりと婚約を解消した。
エリックが私を見捨てるなんて。
明智光秀に裏切られた織田信長の気持ちがよくわかった。
その日、本屋に行くとレオンにも会った。
黒い髪に黒曜石のような美しい瞳。黒い王子様オーラは相変わらずだ。
レオンは私に近づいてきて言った。
「このブス。俺に二度と近づくな、気持ち悪い」
近づいてきたのってあなたじゃん。
あ、このキャラ、ゲームに出ていたレオン・エイブラハムだ。
いつも無表情で毒舌ばかり吐いている。こんな感じで女の子をブス呼ばわりしてばかりいる俺様男だったな。でもね、こいつはヒロインにだけは違う顔をする男だ。
「……何かあったの?」
「べ、別にメラニーの下着なんて見てねぇし。
それよりもう二度とメラニーに近づくな。あいつを苛めたら、お前をぶっ殺す」
……私は、去っていくレオンを唖然として見ながら乙女ゲームのことを思い出した。
おそらくレオンは、パンツイベントをやってしまったのだ。確か、攻略本には書いてあった。
メラニーのパンツを見たことにより、レオンはヒロインに対して責任をとって結婚しなければいけないという無駄な責任感を抱く。それは恋心へと発展していくのである。
一つ言いたいことがある。
『もっとましなイベントを考えろ、製作者!何このイベントアホじゃないの?』
……だってどう考えてもひどすぎるイベントだろう。
まあ、とにかく乙女ゲーム通りに進んでいるのならレオンはメラニーに惚れたのだろう。
そういえば、パンツを見るより恥ずかしいキスをしているくせにレオンの思考回路はどうなっているのよ、バカ。
そしてメラニーにすっかり夢中になったレオンは、メラニーをいじめるノエルを殺そうとし出すはずだ。
レオンにまで裏切られるなんて……。
『ブルータス、お前もか』と言いながら死んだカエサルの気持ちがわかった。
メインヒーローは、こうして乙女ゲームの流れに沿った行動と気持ちを示していった。
運命って怖いね。
こういうのをプログラミングされた恋とでもいうのかもしれない。
あ、そういえば、私は死亡するキャラクターだったな。
じゃあ、私って殺される運命決定かもしれない。
……運命だから仕方ないな。
もう諦めるべきかもしれない。
読んでくださりありがとうございます(*´▽`*)




