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残恋 後編

 ……コメディ全然なくてごめんなさい。何となくbump of chickenの天体観測に出てきた時間帯に投稿してみました。

 俺は、レイを殺すことにした。

 もちろん証拠の残らないように、病死という結果になるようにしよう。

 ただ……俺のものを、純粋そうな顔をしながら奪い取った少年が許せなかった。

 レイの食事に、毒を混ぜ始めた。一度に大量の毒を混ぜたりしない。そんなことをしたら味が変になってしまうからだ。

「なあ、ノエル。お前はレイのことをどう思っているの?」

「あんな奴、大嫌いよ」

「じゃあ、俺のことは?」

「大好きよ」

 だけど、気が付いてしまった。

 その瞳がまっすぐ俺を見ていないことを。

「そんなの嘘だろう。どうせ俺をからかって遊んでいただけだろう!

 もうお前が何を言っても信じられない。

 お前が本当に好きなのはレイだろう。正直に言えよ」

 俺は言うつもりのなかった言葉まで言ってしまう。

「お前は、娼婦の娘らしいな。だから、人の心を弄ぶのが得意なのだろう。

 俺を騙して嘲笑っていたのだろう!

 ノエルは、ついに泣きそうに眼をうるませてしまった。

「婚約者になったから……私だってあなたを好きになろうと努力したの。偽物の言葉も囁いているうちに、本物になって欲しいと願ったの。

 だけど……恋って理屈じゃないから私はあなたよりもあいつに惹かれていった。

 私、レイが好きなの」

 ノエルは、そう言ったとたん、自分の感情が抑えきれなくなったのか洪水のように語りだした。

「レイは、私にいつだって冷たくて、決して手に入らない存在なの。

 そんなレイがいいの。洋服だってすぐに手に入るものは、覚めてしまうの。

 だけど、手に入らないものは、いつだってキラキラって輝いて見えるのよ。

 私の笑顔に決して見とれることのない彼が欲しいって思ったの。

子供っぽい恋かもしれないけど、私、レイが大好きなの」

 それを聞いた俺はひどく理不尽な気分になった。

「知らないの?レイだってお前のいないところでは、悪口言いまくっていることを。ブスのくせにわがままばっかりでむかつくってレイもあきれていたよ」

 口から出たのは真っ赤なウソ。いつもと違って荒い声で怒鳴った。

 どうしてもノエルを傷つけないと気が済まない気分になっていた。

 自分を止めることができなかった。

「手に入らないものが欲しいだって。ブスのくせにお高くまといすぎだろ、このカス。調子こいているんじゃねぇよ、この雌豚!お前を好きになる奴なんているはずないだろ。お前なんていいところ一つもない最低な女だ」

 ノエルは俺を観察するように見てきた。そのアメジストの瞳がさらに俺を不快にさせた。

「お前の目つきって気持ち悪い。性格の悪さがにじみ出ているみたいで鋭くてさすが売女だなって感じ」

 前髪で隠れているけれど、大きな目でいつも人を偉そうに睨みつけてばかりいた。

 さっきから俺ばかりしゃべっていてノエルは一言もしゃべっていないことに気がついた。

「何か言いたいことでもあれば聞くけど?」

 ノエルも僕も黙っている。

 時が止まったかのような静けさ。

「あなたも……私がきらいだったんだ」

 ノエルは、無表情のまま呟いた。

 少女の声は、澄み切った水のようにきれいな声だった。

 次の瞬間、無表情だった彼女が変わる。 

 仮面の下に隠されていたものは……。


「……そんな目でこんな私を見られたくなかった」


 その声に失望の響きはないのに、目には何故か悲しい色があった。

 虚ろな瞳には、確かに僕を映しているのに僕を認識していないような気がした。

 透き通るようにまっすぐとした瞳を見ているうちに今まで自分がノエルをあまり見ていなかった気がした。

 ノエルは、俺を置いて去って行った。

 悲しみと孤独と絶望が閉じ込められていたその目が脳裏から離れなかった。


 夕方になると奴がきた。一部の人間しか知らない秘密の抜け道を利用してレッドは、いつものようにやってきた。

 頼んでおいた暗殺をこなしておいてくれたらしい。

 同時にレイの食事に混ぜる毒薬ももってきてくれた。

「こんな毒薬。誰に使う?」

「秘密」

 さすがにレッドにも弟殺しを企んでいることは話せなかった。

「そういえば、ノエルってかわいいよな。

 エリックって絶対に顔でノエルを選んだだろう」

「さあな」

「どうせ顔だろう。お前は、美少女とか女優とか大好きだよね。特に清純そうな子とか」

「それのどこがいけない?」

「その人たちの〝本当の姿〟って知っているの?」

「わかることは全部調べた」

 そんな俺をあざ笑うかのようにレッドは言った。

「それって、実際に会話をしたこともなく、噂話という他人の尺度を受け取るだけ。

 そういう関係だって自分で認めたようなものでしょ」

 窓の方へ歩きながらしゃべりだすレッド。

「結局、エリックは理想を押し付けているだけ。ノエルは悪い評判だってある。あまり天使すぎるイメージを持っていると痛い目にあうぞ」

 そしてふと振り返った。夕日と赤い瞳が交じり合う美しいのにゾクゾクするほど怖くなるような光景。

 理想か……。

 この世界には天使なんていない。

 いるのは一時だけ美しい少女だけだ。

 そんなことくらいわかっていたけれども……。

 それでも憧れた人間を完璧だと思わずにはいられなかった。

 けれども、現実は残酷だった。

「もう裏切られたよ」

「……エリックはノエルを知らなかった。だけど裏切られた気分になるなんて、バカな男だ」

 いつも明るく弾むような声で会話をするレッドが、ゾッとするように冷たい声で俺を見下すようにつぶやいた。

 その視線を感じていると自分の価値が下がっていくようで不快だった。


 俺の誕生日パーティーにノエルは体調を崩したらしくこなかった。

 代わりに届けられたのは、手編みのマフラーだった。ノエルが俺のために作ったものだったらしい。

 ノエルは、レイに惹かれていった。それでも俺を愛すために努力していたのだろう。

 俺を好きになるためにがんばっていたのだろう。

 それがあの『大好き』という言葉と笑顔だったのだ。

 その日、弟に八つ当たりされた。その時、初めてレイのことを一人の少年だと認識した気分に陥った。弟は俺のせいで死にかけていた。

 不意にその事実が恐ろしくなった。


 プライドが高くて嫌なガキだった。

 人を傷つけることでしか自分を肯定できなかった。

 信じたものを否定し押し下げることでしか、自分を保てなかった。

 俺は、本当は無意識にわかっていたのだろう。今まで好きになってきた人や、女優とか、憧れた人にだっているだって理想を押し付けすぎたことを。自分の相手に押し付けているイメージと本人がいつだって違うことを。

 それでもそれを否定するように理想を押し付けていた。

 勝手に理想を描いて違っていたら幻滅して……。

 俺は最低だ。


 言葉が足りなかった。

 会話がなかった。

 女の子には、自分から話しかけるのはかっこ悪いとか、無視されたくないとか、つまらない意地を張っていないでレイみたいにたくさん話せばよかった。

 かっこつけてないでかっこ悪くなればよかった。

 何度も何度も冷たい態度をとられても話しかけるレイをかっこ悪いとみなしながらもたくさんノエルと話せるレイがうらやましかった。そのことを認めないでああいう風にみんなにからかわれる奴にだけはなりたくないって自分に言い聞かしていた。

 大事だった人たちを傷つけてしまう自分が情けなくてたまらなかった。

 

 あの表情と言葉が焼き付いている。

 もうどんな目で他人を見ればいいかわからない。


 どうしたらいいのかわからなかった。


 残恋のラストは、誰もが青春時代に一度は感じるかもしれない思いで締めくくりました。え……。感じたことがない……?そんなばかな。

 とにかく自分なりには思い入れのあるラストです。

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