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残恋  前編

 ノエルというは、シドニィ シェルダンの『真夜中は別の顔』という作品のヒロインの名前からいただきました。私の中で、『ノエル』といえばやっぱり悪女というイメージです。

 俺、エリック・ブラウンは、小さいころから純粋でかわいい女の子が好きだった。

 例え恋愛感情で好きになれなくても、心が綺麗な奴に憧れていた。

 美人や美少女が素敵な言葉を言っているとそのセリフはこれ以上ない名言に聞こえた。

 小さいころから、俺の口癖はこうだった。

「かわいくて優しい子は正義だ」

 かわいくない女の子達からはちょっとひどいと笑いながら言われたことはあるが、友達はみんなこんな俺を理解してくれていた。

 ブスについては、言葉には出さないが『ブスなんて絶滅してしまえ』くらいに思っていた。

 同じような思考をした友人と好きな芸能人の話をすることが大好きだった。

 社交界や、学校では、中心的存在でいたいからできるだけ多くの人に話しかけていたが、特に親しくする奴はいつだって決めていた。明るくてノリがよく趣味の合う人間といることを選んでいた。他の人間には冷たく接することはなかったが仲よくしようとする態度を見せたことは一度もなかった。

 友達と告白された回数を比べ俺が勝ったとよく比べていた。

 一番もてている自分を誇らしく思っていた。

 女の子と目があったり、話しかけられたりすると自分のことを好きなのかもしれないと思うことはよくあった。

 人の心や感情は目に見えない。

 だけど言葉や距離じゃなくて通じるものがある気がして……よく自分の考えを信じてしまう癖があった。

 俺は、ノエル。アンショーと婚約した。なぜなら、ノエルがこの国で一番かわいかったからだ。理由は、それだけだった。

 ノエルは、いつも俺に向かって『大好き』と言いながら優しい笑顔を浮かべてくれた。

 かわいいノエルは、俺に惚れている。そのことがいつだって俺の自尊心やプライドを満たした。

 たぶん俺はノエルのことを好きではなかったのだろう。ただ美しい少女が隣にいることが自慢だったのだ。そうだ。ノエルは、かっこいい自分をもっと輝かすブランドの服みたいなものだったのだ。

 俺は自分が好きだった。イケメンで、お金持ちで、モテていて、優しくて、完璧な自分を愛し、プライドと自信を持っていた。自分を誰よりも素晴らしい人間だと疑っていなかった。

 そんなプライドの高い俺は、自分から女の子に話しかけたりはしなかった。話しかけて無視されたりするのが嫌だったからだ。ノエルにさえも、話しかけることをためらっていた。ノエルは気まぐれでたまに機嫌が悪かった。そんな彼女に話しかけて冷たい態度を取られることを恐れていたからだ。

 けれども、レイは他に友達がいなかったこともあり、クソ女とかいいつつノエルに話しかけてばかりいた。ノエルはレイに対して冷たかった。『婚約者でもないくせに気安くはないでくれる?』とかいう態度をしていた。冷たい態度をとられてばかりのレイはみんなからバカにされ、からかわれていた。けれども、ノエルは次第にレイと仲良くなっていったように見えた。喧嘩できるほど仲良くなった二人が羨ましかった。

 

 けれども、ある日、本当のノエルを見てしまった。

 え?

 ドアの向こうを見つめた俺は凍り付いた。

 そこには信じられないような光景があった。

 レイは疲れていたのかぐっすりと寝ていた。それだけでは驚かなかっただろう。

 だけど、ノエルだけは違った。

 レイを見つめるノエルの目は……まるで聖女のように優しい色を帯びていた。

 とても儚げで、優しげで、か弱そうで、温かかった。

 世界が止まったかのように美しい光景。春一番のそよ風を思い起こすような柔らかい笑み。風に揺れてサラサラと揺れる由良の長い髪の毛。パラ色に色づいているノエルの頬。サクランボ色の潤うノエルの唇。夜明けの空を溶かして瞳にはめ込んだような美しい紫色の瞳。

 窓からは二人の時を祝福するようにオレンジ色の輝かしい光が降り注いでいた。

 こんなもの知らない。

 見たことがない。

 だけど、初めて本当のノエルを見た気がした。

 今まで幾度となく会話を重ねてきた少女が、偽物であったような錯覚がした。

 ノエルが熱のこもった目で見ていたのは、俺ではなくレイだった。どうして……。ノエルはレイを嫌っていたはずなのに……。

 俺は彼女に騙されていた。

 そんな行き場のない思いで心が埋め尽くされた。

 胸が握りつぶされたように痛かった。

 呼吸の仕方を忘れてしまい、息ができなかった。

 今すぐレイを殺してしまいたいほどの殺意が心を満たした。

 自分がどうしようもない感情に支配されていきそうになった。

 俺は思わずその場から逃げ出した。


 ちくしょう。

 俺に色目を使うアバズレ女が……。

 信じていたのに……。純粋な女の子だって思っていたのに。

 騙された。裏切られた。

 信じてあげていたのに……。


 そのときどんな怪物が生まれたか誰にもわからない。


 読んでくださりありがとうございます(*´▽`*)

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