彼が彼女を恐れた理由
………(-_-)zzz。
僕は、引きこもりになりがちになった兄のもとに食事を運ぶことにした。
かつて兄さんが僕に運んだものと同じように、毒入りの食事を。
「エリック兄さん、大丈夫?食事を持ってきたよ」
「ああ、ありがとう」
僕は、彼が食べる様子を見ていた。
しかし、一口食べた途端エリックは倒れそのまま目を開けなかった。
ベッドの上の少年はすっかり冷たくなっていた。
エリック・ブラウンは二度と目を開けなかった。
僕とは違い毒に耐性がなかったのかもしれない。
「エリック……。兄さん……」
揺さぶっても反応しなかった。
彼は死んでしまっていたのである。
「僕が……エリックを……殺した……」
すぐに罪悪感に蝕まれ始めた。
死ぬのは僕の方でよかったのに。
そして徐々に恐怖心が芽生えだした。
このことが誰かにばれたら僕は殺される。
第一王子を殺したのだ。このことが露見すれば、疑われるのは弟である僕だ。
恐ろしい考えが浮かび上がってきた。
僕と兄さんは容姿だけならそっくりだ。死んだのは、レイ・ブラウンであることにすればいい。
人気者のエリックよりも死にかけていたレイ・ブラウンが死んだ方が悲しむ人が少ない。
……そんなことおかしい。やめておいた方がいい。
しかし、唐突に銀色の髪の少女を思い出した。
今の僕なら……エリック・ブラウンとしての僕ならノエルは僕を好きになってくれるのではないだろうか。
ずっと気に食わなかった。
エリックには優しくして、僕には冷たくする態度が嫌いだった。
エリックとして接すれば、ノエルは僕を愛し、服従してくれるだろう。
ノエルだけじゃない。兄の持っていたものが欲しかった。
少し早く生まれただけで第一王子になっていることが気に食わなかった。
死にかけていた僕とは違い、母や父の期待、賞賛をあびながら育っているところが羨ましかった。
部下に愛され慕われていた人気者の兄に憧れた。
ひねくれた僕とは違い兄はたくさんの素敵なものに囲まれて育っていた。
欲しかった。欲しくてたまらなかった。
憧れていた。
兄の持っている物全てに。
俺は、誰にも自分のしでかしたことを言えず、エリック・ブラウンとして生きることを選んだ。服さえ代えれば誰にもばれない。あとは血色がよくなるようにすれば何とかなる。死ぬ気で
本物のエリック・ブラウンは、抜け道を使い僕のベッドに運んだ。そうしてレイ・ブラウンとして病死したと診断された。
俺は、死ぬ気で勉強をし、剣の腕もあげた。エリックと同じような賞賛もたくさん受けるようになった。
俺のしでかしたことは誰にもばれなかった。
たった一人の少女を除いて。
ノエルは、かわいらしいヒラヒラの服を着て俺のもとへやってきた。
「大好きよ。エリック」
少女は微笑む。
天使のような笑顔で、レイには一度も向けたことのなかった笑顔を見せる。
「ありがとう」
俺はかつてのエリックと同じようにそう返した。
けれども、少女は首を振りながら呟きだした。
「違う。……違うわ。こんなのエリックではないわ」
心臓がばれだした。嫌な汗が背中から流れた。
「……あなたは本当のエリック・ブラウンじゃないわ」
……どうしてこの少女は気が付いたのだろう。
「レイ・ブラウン。そうでしょう」
もう二度と呼ばれることのないと思っていた名前で呼ばれた。
レイ・ブラウンは、死んだはずだ。そうだろう。
そう返したかったのに、何も言えなかった。
アメジストの瞳が怖かった。
手が恐ろしさのあまり震えた。
「どうしてそう思う?」
「だって私は真実の愛を知っていたから。
だからわかるのよ」
まさか、この少女は本当にエリックを愛していたのだろうか?
だから、僕の正体を見破ったのだろうか。
「でも証拠もないし、あなたならエリックの代わりになれるでしょうね。
あなたをエリックの代用品にしてあげる。
そうよ。あなたはエリック・ブラウン。
レイ・ブラウンは、もういない」
僕は。
こんなことを望んでいたわけじゃない。
ノエルの銀色の髪が風に吹かれて揺れる。
その光景はとても綺麗なのに恐ろしく感じた。
「大好きよ、エリック」
ノエルは、そう兄に向けた笑顔と同じように微笑んだ。
その笑顔が怖かった。
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