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他人の物語では生きられない

 オルゴールの音色って大好き(*'ω'*) 

 自分の物語よりも他人の物語の方がよく見えることはよくある。

他人の物語を真似するだけなら偽物だ。

 他人の物語では生きられない。

 自分の物語じゃないと生きられない。

 自分の言葉がない奴はしゃべる意味がない。

 自分の考えがない奴は生きる価値がない。

 だから、あいつの夢を奪い、名前を奪い、考えを奪った俺は真っ赤な偽物だ。

生きる価値もしゃべる価値もないのだろう。


 遠い昔の話をしようか。

 エリック・ブラウンは、小さい頃から優秀で神童と言われていた。

 そんな彼には、双子の弟がいた。

 だけど、エリックと容姿以外は似ても似つかないような失敗作だった。

 それが僕だ。

 僕は、レイ・ブラウンという死にかけた少年だった。

 金髪碧眼であることはエリックと変わらないが、痩せこけていてゾンビみたいだとノエルには言われた。しかし、もう少し血色をよくし運動して、長い髪を切ればエリックみたいになれる自信はあった。

 けれども、僕は欠陥商品だった。いつもベッドにいて寝てばかりいた少年。一人で本を読みながら、一日の大半を過ごしている。役立たずで、生きているだけでお荷物である少年。こんなのただの失敗作だ。

 僕は、頭がよくて優しい兄に憧れていた。

 そして同時に、僕が欲しいものを何でも持っているエリックに嫉妬していた。


 ノエル・アンショーは、エリックの婚約者だった。

 花のように輝くような笑顔、キラキラとしたアメジストの瞳。

 二人は……見た目だけならお似合いのカップルだった。

 仲良しでいつも楽しそうに過ごしていた。 

 僕とノエルの仲はとても悪かった。僕はエリックみたいな素晴らしい兄にはこんな性格の悪い女はふさわしくないと思っていた。ノエルも、自分とエリックの仲を認めてくれないことに対して忌々しく思っていた。

 顔を会わせるたびに喧嘩ばかりしていた。

「ねえ、レイ。あなたの将来の夢は何?」

「そうだね。小説家にでもなりたいな」

「残念でした。あなたに将来はありません」

 ひどっ。

「嘘よ。レイには才能があるわ。いつかきっと素敵な小説家になるの。

 そしてあなたの本をみんなが好きになるの」

「ノエル……」

 お前、本当はいい奴だったのか。

「それはきっとあなたの夢の中でだけでしょうけど。現実ではきっともうすぐ死ぬでしょう」

「ノエル……」

 やっぱりお前は最低だ。


 8歳になった辺りから、僕は自分がもうすぐ死ぬ気がしていた。

 毎日のように血を吐いたし、握力もすっかりなくなった。食欲も全然なくなった。

 ノエルは、何の嫌がらせが彼岸花を持って僕のお見舞いにやってきた。

「どうして彼岸花?」

「あなたにピッタリだと思って」

 ひどい女だ。僕の代わりに死ねばいい。

「なあ、ノエル。僕はもうすぐ死ぬみたいだ」

「な、何よ。さっさと死んでしまえば。わ、私はあなたが死んでも絶対に悲しんであげないわよ。

 それでもいいの?」

 これから死ぬ人に向かって言うセリフだろうか。

「別に、いいよ」

「そうだわ。あなたは童貞のまま死ぬかわいそうな男の子だから、キスでもしてあげようか?」

「遠慮する」

「何よ、失礼な人ね。優しいエリックと大違いだわ」

 ……エリックと比べられることもひどく不愉快だった。


 もうすぐ死ぬと医者から宣言されたこともあり、エリックに対する嫉妬が募っていった。

 エリックはいつだって優しく接してくれていた。いつも食事を運んでくれた。

 けれども、そんな彼に対する怒りが爆発した。

「なあ、レイ。お前は欲しい物とかあるか?」

「……ある」

 あるに決まっているだろう。そんなこともわからないのか。

「そうか。わがままとか言わないお前が珍しいな。何でも買ってやるよ」

「僕が欲しいのは……未来だよ。僕はまだ死にたくない。

 何でもくれるっていうなら、お前の将来でも僕によこせよ。

このリア充が!」

イライラしていたあまり兄に怒鳴りつけてしまった。

「レイ……」

「僕はお前みたいなリア充が大嫌いだったんだよ!

 かわいい婚約者に愛されて、輝くような未来があって、

「……ごめん」

 エリックは謝った。

 悪いのは僕なのに。

 エリックは何も悪くないのに。

 いつも優しくしてくれたのに。 

「うざいな、消えろ」

 エリックは申し訳なさそうに僕を見てから去って行った。

 あまりにも優しすぎる兄に対しても、ふがいない自分に対しても嫌悪感がこみあげてきた。


 僕の言葉のせいかわからないが、エリックは、暗くなっていった。引きこもりがちになり始め、影ではあんな奴が王になるなんてふさわしくないとまで言われ始めた。

 それに反比例するかのように、僕の病気は治って行った。

 ある日、医者から伝えられた。

「私は長いこと君の病気が自然に発生したと思っていたけれども、どうやら違ったのかもしれない」

「どういうことですか?」

「君の病気は毒によって発生されたものかもしれない。

 証拠に、ここに赤いアザがいくつも浮かび上がってきているだろう。

 毒が接種されなくなると急にこのような症状を引き起こす『マゼカズラ』という植物がある。君の食事にその花粉が混ぜられた可能性が高い」

 僕の食事に毒を混ぜた人物。

 考えられるのは一人だけだった。

 彼は、病気になる前いつも彼は僕の隣で食事をしていた。

 彼はいつも僕に優しくしてくれた。しょっちゅう食事をもってきてくれた。

 そしてあいつは僕が食べる様子をじっと見ていた。


 彼の名前は、エリック・ブラウン。


僕の心に殺意が芽生えた瞬間だった。


 読んでくださりありがとうございます(*´▽`*)

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