彼は代用品でしかなかった
……懐かしい友達に再会した。
叶わなかった初恋、友人関係で失敗した過去、一人きりでいた日々……。
思えば人生いろいろあったなと思い出した。
宿命の敵みたいに睨みあう二人。
……うわあ、何か空気がピリピリしている気がする。
ここから消えてしまいたい。私の間でこんな冷戦を繰り広げないで欲しい。
「死ぬのは君の方じゃないのか、レッド・カレン。ここは、君みたいな下種が足を踏み入れていいような場所じゃない。どうやってここまでたどり着いた?」
「さあ、ご想像にお任せする]
「何のためにここまで来た?」
「聞こえてなかったのか。俺はお前を殺しに来た」
「王族である俺を殺そうだなんて、お前は反逆罪で死にたいのか?」
「反逆罪?それは、お前みたいな偽物のことを言うのだろう」
その途端、エリックの顔からあらゆる表情が消えた。
肉食獣を思わせるような怖い目へと変化した。
「俺を偽物?そんなわけないだろう」
レッドは、冷たい目をしながら語りだした。
「ずっとお前の正体が何者か考えていた。エリック・ブラウン。この国の第一王子にして、次期国王と言われている男。
だけど、ここにいてみんなからエリックと呼ばれている男は偽物だ」
レッドは言ってしまう。
決して言ってはいけない言葉を。
「だって10年前、エリック・ブラウンは死んだはずだろう」
どうして誰もたどり着けなかった真実に、レッドはたどり着いたのだろう?
私は何か言ってしまったのだろうか?
「お前は誰だ?」
エリックは、青ざめた顔をして立っていた。
ここまで追い詰められるなんてかわいそうに……。
しょうがないから、私はエリックを助けてあげることにした。
「何、バカなことを言っているの?
あの時、死んだのはレイのはずよ。エリックは死んでいないわ。
生きている」
「なあ、ノエル。君は分かっていたんじゃないのか?」
レッドは、私を実験台でも見るかのようにじっと見てきた。
「だって、君はいつだってエリックの側にいただろう」
ああ、そうだ。
だから、私は気が付いてしまったのだ。
気が付かなければよかったのに。
だけど、気が付かない振りをしながら生きてきた。
彼をエリックの代用品として選んだのだ。
きっと私たちの関係は偽物だったのだろう。
「君は……エリックのことが嫌いなんじゃないか?」
私は……。
……。
最初の頃、彼は代用品でしかなかった。
そのはずだった。
けれども、エリックのことを好きになった。
代用品だったけれども、本物のように愛したのだ。
そう思っていた。
だけど、本当の自分の気持ちがわからなかった。
……レッドの何もかも見透かすような目が怖かった。
彼は、慣れた手つきで銃を取り出した。
「……時間切れだ。暗殺にはあまり時間をかけない主義だからね。
エリック。いや、エリックに化け続けた偽物とでも言おうか。
最後に言い残した言葉はあるか?」
レッドの赤い目が悪魔の目であるように見える。
彼は……きっとかわいそうな人だ。
頼まれたから殺す。口封じのために殺す。仕事だから殺す。
殺して、殺して、殺して……さらに殺さないと生きていけないのだ。
彼は、人を殺すことに対して何も思えないほど、人を殺すことに慣れてしまっているのだろう。
エリックは、絹のように滑らかな声で彼らしくないことを言った。
「俺はずっと……死にたかった。
ここで死ねるなら、本望だ」
これは、エリックの言葉じゃないな。
きっと、レイの言葉だ。私は、そう気が付いた。
レッドは、引き金に手をかけた。
私は、エリックの前に両手を広げて立った。
そんな私を信じられないとでも言うようにレッドが見てきた。
「ねえ、エリック。あなたが抵抗しなかった理由は私を守るためかしら」
エリックは、知っていた。私とレッドの仲がいいことを。
レッドは、あまり女性を殺したりしないことを。
彼は賭けていたのだろう。自分が死んだ後、私がレッドを上手く説得して生き残れることに対して。
もしも、エリックがレッドに反撃したら流れ弾に二人の間にいる私が当たってしまう可能性が高まる。エリックは自分が生き残れる可能性を捨てて、私に賭けようとしたのだ。
だけど、私はエリックを屍にしてまで生きていたくない。
もう一回エリックが死ぬのは嫌なのだ。
「じゃあ、私が盾になればあなたは勝てるよね」
そう言って私は微笑んだ。
「私を殺して、あなたは生きろ。ずっと全てが駒だったんでしょう。だったら、私も駒にしなさい。
銃を取りなさい、エリック。……いえ、レイ・ブラウン!」
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