その少女が嫌いだったことを確かに覚えている。
私は、夢を見ていました。
小さい頃から変わらずに。
今の自分では決して届くことのない夢を。
その少女が嫌いだったことを確かに覚えている。
甘やかされて育った性格の悪いわがままな少女。
あいつの代用品として俺を選んだ少女。
俺は……ノエルを嫌いだった。
気持ち悪いとすら感じていた。
そしてノエルにあいつと比べられることを恐れていたのかもしれない。
なあ、勝手なことを思ってもいいか。
俺はずっと死にたかった。
生きていることは地獄だった。
あいつの代わりに、俺が死ねばよかったとずっとそう思っていた。
俺は……あいつの代用品だから立派な王子にならなければいけないと必死だった。
あの日、俺は自分の心を殺すことを選んだ。
もういい。感情は全て駒でいい。周りにいる人間も俺にとっては駒でいい。
誰にも負けない。
自分を殺し、他人を切り捨て、利益になるか不利益になるかで物事を選んでいけばいい。
何もかも冷たい目で見て、過去を切り捨てていけばいい。
感情なんてものに囚われたら狂ってしまう。
だから、ただ上だけを見ていた。
エリック・ブラウンという人間を誰よりも成功作品にしたかったのだ。
この名前を誰よりも優秀な人間として歴史に刻み付けたかった。
それが俺にできる唯一の償いである気がしていた。
ずっとそうやって生きてきた。
それでもノエルのことがどうしても切り捨てられなかった。
こんなにも執着している。こんなのおかしい。
ああ、俺は人間なのか。一時の感情で動こうとし、後悔することを知りながらも 今欲しいものを選んでしまうバカな奴だ。
ふとくだらないことを聞きたくなった。
「なあ、ノエル。お前は……俺のことが憎かったんじゃないか?」
だって俺は……あいつを殺したのだから。
本物にはきっと叶わなかったのだから。
「私は……」
「俺は、ノエルが大嫌いだった。
あいつの身代わりに俺を選んだお前が気持ち悪くてたまらなかった。
その変わらない笑顔すら憎かった」
「私は……確かにあなたのことが好きだったわ。
あなたの見た目という飾りを心から欲していたの」
「今は?」
「あなたの生き方を気持ち悪いと思う」
その言葉はナイフみたいに俺の心を突き刺した。
優しく、いつだって俺の味方をしてくれた少女はもういない。
『大好き』と温かい笑顔とともに告げてきた少女はもういない。
いるのは、ただの冷たい少女だ。
ああ、今の少女なら気持ち悪くないな。
そんなノエルが欲しかった。
あまりにも欲しくて気が狂いそうだった。
どうして欲しいのかとかわからないけれど、ノエルの全てが欲しかった。
プライドなのか、愛なのか、欲望なのか、本能なのか自分でもよくわからない。
感情の一つ一つや、彼女の視線や思考まで全て自分のものにしてしまいたかった。
「ノエルも最低女じゃないか」
あいつの代用品として俺を選んだ少女。
俺を愛したくせにすぐに冷めてしまった少女。
君は残酷で、歪んでいて、気持ち悪い。
もう俺にはまっすぐにそんなノエルを愛することなんてできない。
歪んだ愛し方しかもうできない。
俺を愛してくれない、見てくれない、好きになってくれないノエルなら……。
そんなノエルなら壊れてしまえばいい。
俺の口元に暴力的な笑みが浮かぶ。
ノエルがその顔を見て怯えるように後ろに下がった。
しかし、すぐに壁にぶつかった。
俺はゆっくりした足取りで彼女を追い詰める。
彼女の手をアザができてしまうくらいしっかりと掴む。
「離して」
「嫌だ」
か細い腕を壁に押し付ける。
「何する……」
彼女はその言葉を最後まで言うことができなかった。
俺がノエルにキスをしたからだ。
ノエルの唇の隙間から舌を入れていく。
舌と舌が絡まっていく。
「ん……んん……」
唾液が少女の顎をつたっていく。
そのことに妙にゾクゾクした。
ノエルは必死に逃げようとしているけれども、逃がさない。
逃がしてなどやるものか。
体だけは綺麗で美しかった気高い少女を犯していく。
俺のことだけを考えて、俺のことだけを見ていればいい。
ルークも、レオンも、あいつも忘れてしまえ。
この俺が全てを君から消し去って見せる。
ようやくキスをやめて息をついた。
「死ねえええええええええ!」
そうノエルが叫びながら俺をビンタした。手加減一切なしのビンタだ。
「痛いな。少しぐらいは手加減しろよ」
顔がジンジンする。
「ふん、私が今ナイフを持っていないことに感謝しなさい。この変態、エロ親父!」
「レオンの時は殴らなかったくせに」
「はあ……それは、その……」
「エリック・ブラウン。お願いがある」
その時、地獄からの使者みたいに低く怒りに満ちた声が聞こえた。
俺はノエルから手を離して振り返った。
そこにいたのは、レッド・カレンだった。
赤い瞳に赤い髪。
滑らかな美声で俺に向かって告げる。
「死んでくれない?」
それを見てふと思った。
あの時、俺はきっとあいつに向かってきっとこんな目をしていただろうと。
読んでくださりありがとうございます(*^-^*)