監禁されました(笑)
stylipsや田村ゆかりさんの歌声が大好きです。
べ、別に姉さんのことは好きじゃないんだからね。
ただ姉さんが僕のことを好きでたまらないと言っているから、仕方なく少しだけ惚れてあげているんだからね。
……とか思いつつ、姉さんを賭けた勝負のためブリトリア国王剣技祭りに出ている僕はいったい何だろう?
しかも、意外と結構勝ち進んでいる。勝負が始めってすぐに、相手のカツラが風に吹かれて舞い相手がそれを見て剣を捨ててカツラを追いかけだした時は驚いた。この大会の全ての勝利は僕のためにあるに違いない。計画通りっ。
しかし、準決勝で、国で2番目に強いと言われているロイ・ガーデンと当たってしまった。彼は、
大丈夫だ。僕は姉さんに愛されている。愛があれば何でも乗り越えられる。
しかし、喉元に剣を突き刺せられて終わった。
カラスの泣く声を聴きながら、虚しくなった。
競技場でメラニーを見た。
……僕はメラニーが好きだった。たぶん、今でも好きだ。
だけど、姉さんに対するような思いじゃない。どこにでもあり、誰もが抱くような甘く、せつない普通の恋だ。そして時が経てば徐々にときめきは薄れていくような恋だ。
姉さんに対する思いは歪んでいる。
僕は姉さんのことが嫌いだ。姉さんの甘やかされて育った生き様も、自己中心的な性格も、人を見た目だけで好きになるところも、相手が思い通りにならないとすぐに切り捨てることも嫌いだ。
だけど、ずっと姉さんと二人だけなら僕は何もいらないし、この世界の全ての楽しみ、喜びも僕は姉さんがいなければ味わうことはできないだろう。彼女だけが僕の全てであり、僕を人間にしてくれる。姉さんがいなければ僕はルークという人間に欠片ほどもなれないのだ。
もしも、メラニーかノエルのどちらかが殺されるとしたら、僕はためらうことなくメラニーが殺されることを選ぶのだ。ノエルは、百人のメラニーが束になっても叶わないほど大事な存在なのだ。
球技体で今日の僕がかっこよかったか聞いてみよう。
そう思い家へ帰って、姉さんの帰宅を待ち続けた。けれども、日が沈んでも帰ってこない。
これって……まさか、噂の朝帰り……。
姉さんがそんなことをするなんて……。
……。
あ、これって誘拐じゃね。行方不明、犯罪、死亡、監禁……。不吉な単語が脳内でグルグルとまわりだした。
ルークが家でノエルを待っている頃、私……ノエル・ハルミトンは、壁を殴っていた。
頭がおかしくなったからではない。
壁を破壊するためだ!
気が付いたら、鍵のかかった部屋にいた。
ドアを回してもガチャガチャという音を立てるだけだ。
レオンと話して、それから家へ帰ろうとして変な匂いがして倒れた。
……そこから全く意識がない。
窓から飛び降りようと思ったが、鉄格子がはめられている。
サラサラとした金髪。サファイアのようにきれいな青い目。
スラリとした長い手足。町で歩くと誰もが振り返るようなイケメン。
エリック・ブラウンがそこにいた。
私は仁王立ちをしながらそいつを睨み付けた。
「あなたが私を誘拐したのね、このエセ紳士!」
「俺を誰だと思っている?次期国王にして、国一番のお金持ちだ。
誘拐なんてするわけないだろう」
確かに私を誘拐してお金を得るなんておかしな発想だ。
奴は私を誘拐したわけではないのだろう。
じゃあ、単に嫌がらせで私を閉じ込めただけか……。
「そうね。あたなが私を誘拐するわけない」
「ああ、そうだ。俺は君を監禁した」
「……」
何、このお天気の話でもするような爽やかな笑顔。
何か問題でもとでもいうようなこの爽やかな笑顔は何なの?
めちゃくちゃ殴りたい。もうボコボコにしてやりたいわね。
「……」
「……かん、きん。換金、官金……監禁。
何のために?」
「何となく」
「何となくで監禁なんてされてたまるか!大体、ここにはお手洗いとかないじゃない。どうしろと言うの?」
エリックは、私に紙袋を2重にしたものを差し出した。
つい受け取ってしまう。
え……まさか、これが答え?
私は、紙袋を思いっきり床に叩きつけた。
「そんなことできるかっ。大体、監禁なら、どうしてあなたがここにいるのよ。仕事でもしていれば」
「ノエルが寂しいだろからね、今晩一緒に過ごしてあげようと思って」
そういえばウサギはさみしいと死んじゃうと聞いたことがある。
って何を考えているのよ、私。
「私はウサギじゃないし、別に寂しくないもん」
しかし、エリックはまだ爽やかな笑顔で続ける。
「それから世の中には、既成事実という言葉があるからね」
「……え?」
既成事実。若い男女が密室で二人きりで過ごす。そうすると結婚しなければいけなくなる。
これを回避するべき方法は何か?
ベストアンサー。それは、私がエリックを殺害すればいい!
あら、やだ。私って天才じゃないかしら。
「というわけで、エリック。死んでね」
「よくわからないけど、めちゃくちゃ失礼なことを考えただろう。俺は死なない。ルークやレオンのお墓を踏みつけられるくらい長生きしてやろうと思っている」
「何てひどい性格をしているのかしら。大体、あなた、ルール違反よ。あんだけ立派に宣言しておいて、優勝できなかったじゃない」
「俺は王子だ。次期国王だ。俺は法律すらも変えられる存在だ。
そんなくだらない約束なんて忘れた」
何このジャイアニスト……。
「別に俺でもいいだろう。君だって俺の顔は大好きだったんだろう?」
やけに色気のあるイケメンボイスで、耳元にそう囁かれた。そして私の髪を弄ばされる。
そして、悪魔のように意地悪く微笑まれた。
ドクリ。思わず心臓が跳ねる。
くそっ。こんなイケメンに負けてたまるか。
「それは若かりし日のあなたのことよ。もうすっかり老けてしまったあなたには興味がないわね」
「まだ18歳だけど……。まったくノエルは性格が悪いな」
「そういうエリックの方が私よりずっと性格が悪いわ」
「そんなことない。俺は優しい人間だよ。今日はノエルのためにおいしい夜ご飯を作ってきたし」
「お前は私のお母ちゃんか!」
思わず突っ込んでしまった。王国の王子様が一体何をやっている!
「正式な婚約者ですが、何か?」
堂々としながらエリックは答えた。
「私のためにわざわざ作ってくれたの?」
「べ、別にノエルのために作っているわけじゃないから。
将来のために料理の腕を磨いておこうと思って」
……こいつ、無駄に女子力高い。専業主婦でも目指しているのか?
次期国王のはずじゃなかったっけ?
絶対に、ギャップ萌えなんてしてあげないからね。
「食べられないなら口移しでもしてあげようか?」
夏風みたいに爽やかな笑顔でそう告げられた。
「お断りします」
私は吹雪みたいに冷たい笑顔でそう返した。
「まあ、だけど……せっかくだし、食べてもいいと言うか、ご飯を粗末にするなんてもったいないし……」
……お腹ペコペコです。すごく食べたいです。
こいつ、私を餌付けさせる気か……。ううっ……。
「しょうがないな。はい、あーん」
「何をしているのかしら。早く、スプーンをよこしなさい」
「嫌だ」
くそ……。スプーンにおいしそうなパエリアがのっている。私は食欲に負けてスプーンに飛びついてしまった。
「何これ……。めちゃくちゃおいしい」
思わず声に出してしまった。
口を押えてももう遅い。
エリックは、満足したように笑いながら私を見ていた。
そのあどけない少年のような笑顔に、少しだけ……ときめいてしまった。
次回はエリック視点の予定です。
読んでくださりありがとうございます(*´ω`*)