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冬の出会い

 とりあえず剣大会が終わったので、少し別の話です。

 僕には、他の人みたいな名前がなかった。

 12月28日に生まれたから、28と名付けられた。

 誰にも生まれることを望まれていなかった。

 父親が浮気してできた子供だったからだ。

 とても冷たい家庭で育った。

 虐待されながら、カビの生えたパンと腐った牛乳を食べながら生きていた。

 生きている意味がわからないまま、ただ死にたくない、まだ生きていたいと必死に毎日生きていた。

 そして、7歳になる頃、とある画家に売り飛ばされた。


 僕を買った男は、究極の美少女を求めていた。

 名前は、ウォルフ・バトラー。

 人気の画家らしいが、僕には彼の絵にどこに魅力があるのか少しもわからなかった。

 彼は美少女愛好家だった。

 僕は男だったが、女顔だということもあり、カツラをつけさせられ、いつもゴスロリ、ドレス、メイド服……様々な格好をさせられて彼のモデルとなっていた。

 彼のモデルとなるのは大変な作業だった。モデルとして人形みたいに動いてはいけない。

 指一本でも動いたら殴られた。おかげで服の下はいつもアザだらけだった。

 日に日に彼の暴力は増していった。

「何でまばたきをする?動くなといっただろうが!」

 人間だから仕方がないだろうが!

 彼は、僕が男であることが許せなかった。

「どうしてお前は男に生まれてきた?……。女の子に生まれてきたら私も君に優しくしてあげるのに……」

 ……男に生まれてきたから仕方ないだろう。


 そして彼の態度は僕が声変りをしたときに豹変した。

 ウォルフは、女になれなくて大人の男へと近づいていく僕を認められなかったのだろう。

「この失敗作!お前なんて死んでしまえ」

 彼はナイフを持って僕に近づいてきた。

 僕は、窓から飛び降りて逃げ出した。

 全身が血だらけになる。

 今、逃げなければ彼に殺される。必死で逃げた。

 けれども、他国であるブリトリア国へ踏み入れようとした瞬間、門番に捕まった。

「28だな。お前を連行する」 

「どうして……」

「ウォルフ・バトラーの証言によると、お前は彼を殺そうとして家にあった金目のものを奪い逃走したそうだ」

「違います。僕はそんなことをしていないです。信じて下さい」

 必死に訴えた。けれども、現実は残酷だった。

「バカなガキだな。ウォルフに通報された時点でお前がどう証言しようと、俺達役人は有名な画家の言葉を信じるしかないんだよ」

 こんなのおかしい。僕は何もしていないじゃないか。

 こんな理不尽なことを認めたくはない。

 ここで終わりたくはない。

 僕は彼を突き飛ばして逃げ出した。ブリトリア国へと足を踏み入れていく。

   

 血だらけのゴスロリのまま町へ出てみた。

 けれども、そこらに僕の似顔絵が貼られていた。指名手配されている。

 警察も必死になって僕を探している。どこの店にも入ることはできないだろう。

 町を歩く人みんな僕の敵に見えた。

 ああ、もうお腹もすいたし、動けない。

 寒さで凍えそうだ。 

 僕は力尽きて道端に倒れた。

 もう疲れたよ。終わりにしてもいいだろう。

 僕は、何のために生きていたのだろう。

 わからないままに生きて、わからないままに死ぬ。

 本当に、くだらないくそみたいな人生だったな。

 ハハハッ。こんなろくでもない人生を送るとわかっていたなら、生まれてこなければよかったな。

 生まれ変わったら、恋でもしたいな。

 僕は雪の降りかけた空を見ていた。

 その時、かわいらしい声が聞こえた。

「ねえ、お父様。私、あの子が欲しいな。とっても綺麗な顔立ちをしている。人形みたい」

「どうするつもりだ?」

「今雇っている従者や執事を首にしてあの子にしましょう」 

 少女は、僕の方へ近づいてくる。

 そして僕を助けようとするかのように手を差し出した。

 けれども、僕が手を握らないとそのことにムッとしたように僕の手を無理やり握らせた。

 これでいい、世界は自分の思い通りだとでも言うように傲慢に微笑んでから、無邪気そうに話しかけた。

「ねえ、あなたの名前は何?」

 銀色の髪に、アメジストの瞳。

 高そうな宝石、レースがふんだんに使われた服。

 この少女は僕とは全く違う人間なのだろう。

 滑らかで柔らかそうな肌には、傷一つついていない。

 彼女はきっと一度も働いたことのない生活をしていたのだろう。

 お金持ちの家に生まれて、甘やかされて、愛されて育ったのだ。

 僕と違って欲しいものは全て与えられて育ったような子なのだろう。

 好きになれそうにないな。

 彼女の買ってもらったばかりのような汚れ一つない靴さえ忌々しいと思った。

「ねえ、28。どうしてあなたはそんな変な名前をしているの?」

「12月28日に生まれたからです」

 そうだ。

 ただ適当に名づけられた名前だ。

「ふーん。ビジョップ、ナイト、クイーン、キング……。ああ、そうよ。ルーク。ルークがいいわ」

「え?」

「あなたはかわいそうだから、私が名前をあげるわ。これは私がチェスで一番好きな駒よ。

 いい名前でしょう。感謝しなさい」

 よくわからないが傲慢な少女なのだろう。

 少女は言った。

「今日からあなたは私の弟になりなさい」

 ……。

 予想の斜め45度を行くようなとんでもない少女だった。


 読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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