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―――――メールを一件、送信しました。  作者: 西園寺 悠里
序章:ハチマキ、作りませんか?―――――メールを一件、受信しました。
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二〇一一年四月二十八日

 この話はフィクションです。

 登場人物や登場組織名、地域名等は架空のものであり、実在する名前、組織名、地域とは一切関係ありません。


 どうぞ、お楽しみください。

酒井さかいさん、尾崎おざきさんのハチマキ、作ってくれないかな?」


 始まりはとある日の放課後。その一言からだった。


   ♥♡♥


 憧れだった第一志望の高校に入学して早三週間。地獄のような校歌・応援歌指導も無事に終えて、部活にも正式に入部した直後のこと。応援団に入ったクラスメートの男子からそう聞かれた。

 そういえば、なんて思い出した。比較的歴史の長いこの高校では、様々な『伝統』が存在する。校歌・応援歌指導を筆頭に、応援団関係の伝統はその中でも顕著だった。

 ハチマキはその伝統の一つだ。よく考えれば、ここ一週間は教室後方の黒板に文章が掲示してあった。


 ―――――香月こうづき祭で応援団のハチマキとタスキを作ってくれる女子を募集する―――――


 この高校では、応援団が使うハチマキを女子の有志が作ることになっている。

 特に今年の三年生は比較的に顔立ちも整っているらしく、女子からの人気があった。最も、そんな三年生達には既に特定の相手がいるらしく、募集は有って無い様なものらしかったが。

「―――尾崎さんって―――えっと。二年生の短髪の方の人、だよね?」

 正直に言って、クラスメートの顔すらまだ危うい。そんな私が、いくら応援団とはいえ先輩の顔なんて覚えているはずもない。

「あぁ、そうだね。―――お願いできるかな。それとも―――部活、忙しい?」

 吹奏楽部だったよね?香月祭で演奏とかあったりする?

 申し訳なさそうに頼んで来るクラスメートの応援団―――――確か佐藤さとう和宏かずひろ君とかいったか―――――に首を振った。

「ううん、大丈夫だよ。一年生は手伝いだけだから。でも、佐藤君達は大丈夫?一年生もハチマキ、あるんでしょう?」

「まぁ、一年生は自分達で頼みに行かなきゃならないからね。でも、大丈夫だよ。僕も鈴木も、既に知り合いに頼んでるからさ」

 何故、私に白羽の矢が立ったのかが分からない、そう伝えると佐藤君は言った。

「酒井さん、裁縫とか得意そうだからね。ハチマキには名前を刺繍しなきゃならないんだ」

 わざわざ、ましてや先輩のハチマキを、下級生である彼が私に頼む理由は分からなかった。だけど、そこまで言われて断れるはずもない。だから私は、それを引き受けることにした。

「別に構わないけれど…。私はどうすれば良いの?」

「そうだね。とりあえず、酒井さんの携帯のアドレスを教えてもらっても良いかな?」

 そう言って、佐藤君はスマホを取り出した。私も鞄の中から携帯を取り出す。

「えっと…。赤外線で良いのかな」

 私の言葉に彼は苦笑した。

「ごめん。僕のスマホ、赤外線機能ついてないんだ。アドレス、自分で打つから見せてもらっても良い?」

 スマホって、赤外線機能ついてないんだなぁ。なんて思いながら携帯のオーナー情報を開く。ちなみに私はガラケーだ。

「これで良いの?」

 私が自身のメールアドレスを見せると、彼はそれを自身のスマホに打ち込んで言った。

「じゃあ、尾崎さんに酒井さんのアドレス教えても良いかな?」

「うん、大丈夫だよ」

 佐藤君はニコリと笑って鞄を持った。

「ありがとう。じゃあ、僕は応援団の練習行くから。お疲れ様」

「うん、お疲れ様」

 私も鞄を持つと音楽室へと向かった。


   ♥♡♥


 その日の夜のこと。

 私は家の自分の部屋で勉強をしていた。

「明日は数学の授業で、黒板に答えを書かなきゃならないから…。ちゃんと予習しなきゃね」

 数学Ⅰの教科書とノートを鞄から出して問題を解き始めた。

 ふと鞄の中から聞こえた音楽。流れてくるのはパッヘルベルのカノン―――――これは私の携帯のメールの着信音だ。

 携帯を開くと、十秒で設定してある音楽はタイミングよく止まった。代わりとでもいうように、黒を基調としたシンプルな画面に白い文字が流れる。


 ―――――メールを一件、受信しました。


 メールの差し出し人は未登録の人。

 誰だろうか。そう思いながら開くと、予想以上の丁寧な文章が並んでいた。


『初めまして。応援団二年の尾崎友人(ゆうと)です。和宏から僕のハチマキを作ってくださると聞きました。詳細は後日になると思いますが、よろしくお願いします』


 ―――尾崎友人さん。

 メールの文面を見る限り、優しそうな人だ。そう思って少し安心した。

「メール、返さなきゃ」


『初めまして。一年理数科の酒井沙織です。こちらこそ、よろしくお願いします』


 何度も自分の打った文章を読み直す。

 相手は先輩。しかも応援団だ。失礼なことをしたら、応援団に入ったクラスメートに迷惑が掛かるかもしれない。

「これで大丈夫だよね…。えいっ」

 言葉と共に送信ボタンを押した。

 黒を基調としたシンプルな画面に白い文字が流れる。


 ―――――メールを一件、送信しました。

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