復讐の章 前編
ほら、君の後ろに誰かがいる。
そいつは邪悪だ。特異点と言うのか。私の力が及ばない。
-0-
憎い。憎い。
僕が自身をコントロール出来なくなる前の前兆。
憎い。憎い。憎い。
僕の目は変わる。
もうここから虚だ。
ほらね。僕は止めたんだ。だから悪くないんだよ。そう思う、そう思うでしょ?ね。ははぁ。
ほらね、かなわないでしょう『それ』はとても強い。ねえ。
へえ、まだ息があるんだね。さっきのおじさんは即死だったけど、おばさんしぶといね。よしもう一回さしておこう。あれ何かが近づいてくるな。
もういいか。
小学生、年長さん。仲がいいね。ああ、年長さんの方がそうか。でも、僕には気づかない。優劣ってよりはベクトルの向き?君の能力も悪くないよ。
須藤佑磨の両親殺害時。犯人視点。
-1-
「佑磨!」
ガバッと布団が捲られる。俺の嫁さんは、膨れっ面だ。
「何だよ」頭をクシャクシャと掻く。「休みの日ぐらい……寝かせろよ……」
「せっかくの休みなのに!」
「……」
「出掛けるの!」
「……」大きくアクビをしたのち。「わかったよ」
「やった」ぴょんと飛び跳ねる。
やれやれ。
2Lの愛の巣は近時か手狭になる。愛の結晶が生まれるからだ。
エコー写真を眺めていると幸せが実感出来た。
「ちょっと大きくなってきたかなあ」
服を捲り腹を出す。
愛おしく腹を撫でる。
幸せってどういう形かわからないけれどおそらく『今』だよね。比奈がいて、お互いにやけて……。
-3-
「須藤君。『私』はもう出てこないようにしようと思う」
「なんで。なんでだよ!」
「君は比奈が高校卒業するのを待ってプロポーズするつもりだね?わかるだろ。君の事は嫌いではない。でも友人としてだ」
「……」
「一応、意識は『男』なんだよ」
「まあ、比奈の脳を間借りしてたようなもんだ。契約更新しなかった、そう思ってくれ」
「……」
「ありがとう。……。陳腐だな。でもそれしかないんだ」
……。
「意識を残してよかったよ。
ここで幕引きは想定していた。予定通りだ。
楽しかったのはある意味ハプニングだよ。君のおかげだ」
ヒナは右手を差し出す。
俺はそっと右手で握る。
「元気でな」
『目』が戻る。
にっこり微笑む比奈。
「お兄ちゃんさよなら」
比奈は自分に言った。その1度。
あとから聞いたら覚えてないとの事。
ラスト1話。
私は1度だけ君を助けよう。あまり出てくるのも野暮だからな。
実態がないので、その存在を『邪悪』と呼ぶが、奴には構うな。
君の手におえない。そして、『私』の力も及ばない。
忠告はした。
後は君次第だ。両親を殺された感情は『私』にはわからないからな。