プリティの章
不幸がその隣にあっても大概の人は認識出来ない。
日曜の朝、
眠い目をこすりながら、俺がリビングに行くと比奈がいた。
「ゆーくん、プリティ5」
テレビでは、比奈が好きな『プリティ5』と言う。
ざっくり言うと、『低年齢向けの
主人公の可愛い女の子達が戦う番組』比奈は幼稚園の年長だから、対象年齢だ。
「あれ、うちの親は?」
「うーん、わかんない」
「そう」
俺は冷蔵庫を開ける。
プリティ5のコップと、普通のコップを取り。オレンジジュースを注ぐ。
手渡すと比奈はにっこり笑った。
番組が終わりテレビを消す。
「ゆーくん、公園行こうよ」
「いいけど」
俺は身支度を整え玄関の鍵を閉めた。しかし、うちの親達何処に行ったんだ?
ガレージを見ると車がある。歩き?……。考えがまとまらないまま、比奈に手を引かれた。
「あ、しょー君」
公園に着くと、小学校のクラスメートの昌吉がいた。
サッカーボールでリフティングをしている。俺の姿を確認すると、ボールをパスしてきた。胸でトラップし、足裏でキープ。
「あ、ひなちゃん」
昌吉は妹と来ていたんだな。
「ゆきちゃん。『プリティ5』見た?」
「うん、みたみた」
「今日の話ってさ……」
俺から、比奈が離れて行く。
昌吉が近づいてきた。
「佑磨、早起きだね」
「お互い様だろ?」
「だね。ゆき がうるさくて……」
「それもお互い様だ」
「だね」
俺らは、ボールを蹴りながらお互いの距離を空けて行く。適当な距離になったので、つま先で強く蹴る。
ボン!とボールはアーチを描き昌吉の足元へ。
「コントロールいいね」
「マグレだ」
「よし、いくぞ」
昌吉の放ったボールは、公園の奥に……。
「ごめん!」
俺は公園の奥へ……。
ああ、あった。
「須藤君」
振り返ると比奈が立っていた。『目』が違う。
「誰だ?」
「比奈だよ。そう言う認識でいい」
「それより、須藤君。急いで帰らないと間に合わないぞ」
比奈は、足元のボールを拾う。両手で抱えたのち、スローインの要領で昌吉に投げる。
それは、足元でシュゥという摩擦音と共に、ピッタリと止まる。
「うお」
昌吉の驚きの声が聞こえた。
「すまないが、我々は帰る。またな!」
「わかった、じゃあね。ひなちゃん」
ひなは手を引き、走る。
「まて、なん……なんだよ」
走る比奈に俺はついて行くだけで精一杯だ。
家が見えてきた。
玄関。
……。
「須藤君、救急車は呼んである。
慌てず、ゆっくりとお別れをするんだ。
君の事を本当に愛していた2人だ。
そして、今も君の事を心配している。
いいかい。ゆっくりと言葉をかけるんだ。
人間慌てるとうまく喋れない」
なんの事だ。
俺の背中がポンと押される。
玄関に入りリビングの扉を開けた。
「佑磨!逃げて!」
仰向けで腹部から血を流す。母親。
「須藤君。最後だ、思い残すなよ」
「母さん、母さん……」
比奈は残酷だよ。こんな時話す言葉なんてないよ。目の前が涙で歪む。
「比奈ぁ……母さん、助からないの?」
「……ああ」
なにか考えがあった訳じゃない、逃げて、と連呼する母さんをただ抱きしめた。救急車が到着する頃には……。
でも、まだ暖かかったよ。
救急車に乗っている時、
病院で死亡認定されるその瞬間まで、俺は何も喋れない。
そして、父親は庭先で殺害されて……。
比奈、わかっていたの。助けたれたの? どうして、どうして、殺されたの?
火葬場のゴーッという。焼く音で、俺は死を悟ったんだ。それまでは『夢』としか思えなくて……。
【当日『プリティ5』開始30分前。】
『私』は目を開ける。
佑磨の両親に今日は家に戻るなと伝える。
家に上がる。(空いている窓があったからな、なければ別の方法を考えたさ)
佑磨が起きる音量を計算しボリュームを上げる。
ここで計算外。『プリティ5』をかけてしまう。
比奈と入れ替わる。
気づけば公園だ。
……。佑磨は無事だ。それでも不完全な能力を悔いた。
バットエンドでは人が死ぬ。
けれど、万人が不幸な訳ではない。
ある意味、『私』の都合だ。




