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第3話


 魔王。それは200前に突如として世界に現れ、この世界に絶望を撒き散らしてた。

その時に魔王がその存在を世に送り出したモノ、魔物。

それは魔王のために生まれ、魔王のために殺し、魔王のために世界と生きる者を破壊し、魔王のために蹂躙し尽くすためだけの存在。

 現代では過去の文献はほとんど残っておらず、そういった驚異もすでに過去へと流され人々の記憶から消えていった。

それ故に魔物に対抗出来る術はなくなり、現代に存在する力無き魔物にさえ手を焼かされている。

悪いことばかりではない。魔物に対する恐怖も消え、今を生きる者たちはたくましく生き、明日へと希望を持てるのだ。


―――そう、過去の魔物のような存在が現れない限りは。





 暗闇の中から足音が聞こえる。

その足音の主は2メートル程の大きな人影。

光が当たる場所に出て、その容姿が見える。

右手には真っ黒な槍を持ち、下半身は布で覆われている。

全身からは靄のようなものが湧き出し、その全貌はつかめない。

僅かに顔の輪郭が見えた。それは肉のついてない骨格のみ、つまり髑髏であった。

その目に位置する場所には黄緑色の光が、2つ、はめ込むように存在した。

その死神のような風貌をしているモノは、立ち止まり、動きを止める。

今まで動いていたことが幻であったかのように。いや、動いてない方が生き物として正しいのだ。

 そのまま動きひとつ見せずただじっとしている。

「―――」

 どれ程たったのだろうか、呟くような声がした。

「――――――」

「――――――」

「――――――」

「――――――マヨッタ」





 ジャオー王国。このクッビ大陸の中央に位置する場所にある。

その国は金には困らず、資源が潤い、力もある。

皆がこの国の王を讃え、詩人は歌にし、子供たちはその歌を聴き、王に仕える騎士として夢を見て育っていく。

 そんな国の主であり、この大陸の覇者でもある王。その王が顔を険しくし、小さく唸っていた。

ここは王の仕事部屋、机にはもちろん王が座り、目を鋭くし、前を見ていた。その王の視線の先には2人の男が膝を付きこちらに頭を下げて黙っている。

「…それで」

 王は顔をそのままに声を相手に投げかける。

「お前たちはここで何をやっているのだ?」

 そう話すと王は黙った。

「恐れながら」

 膝を付け、頭を下げている短髪の男は一言そう言い、話を続けた。

「我々に王女をお迎えに上がる命令をお与えください」

「娘を見す見すと見過ごす者に行けと命令をしろと?」

 その言葉に王は被せるようは言った。

短髪の男は力強く話す。

「我々では不足と仰るのならば、他のものに命令を与え、我々も同行をさせてください」

 その言葉に王は片方の眉を上げる。

「娘の責任についてはどうするつもりなのだ?」

 そう聞くと短髪の男はさらに力強く返事をした。

「はっ、そのご命令を完遂した後に、騎士としての任を解く所存であります」

「―――」

 ここで初めて王の顔つきが大きく変化した。

「…なるほど、それほどまでの覚悟ならば命令をしないわけにはいかないな」

 王はため息と共にそう呟いた。

2人は膝を付き頭を下げ動かない。

そんな2人を見ながらこう言った。

「ユリアーネ王女を無傷で連れて帰り見事任務を完遂させるのだ」

「「御意」」

 その言葉を聞き、膝を付き頭を下げたまま返事をした。

「行け」

 もう一言だけ王はそう言って言葉を出した。

「「はっ!」」

 2人は立ち上がり、後ろの扉に行き、頭を下げ、出ていった。

それを見送った王は一言だけ言葉を吐くようにいった。

「…手を煩わせ寄って、面倒な娘だ」





 城下町の一角にある酒場。酒と煙が漂い、喧騒が絶えない、賑やかな場所。

その中の1つのテーブルに短髪の男と顔が傷だらけの男が酒を飲み、話しを交わしている。

 傷だらけの男は酒を手に取り、こう言った。

「お前のせいで俺まで任を解くことになっちまったじゃねーか」

 酒を呷りながら短髪の男を睨みつける。

それを見た短髪の男は軽く笑い、こう言った。

「すまない」

「お前、これポッチも罪悪感ねえだろ!」

 酒の底をテーブルに叩きつけ、左手の人差し指と親指で小さな隙間を作る。

「一応謝る気はあるさ、形だけだがね」

 傷だらけの男が持つ酒を指差し、こう続けた。

「酒、今日は私の奢りだからな」

「毎日俺が奢っている、俺の立場は!?」

 傷だらけの男は両腕を左右に広げ、叫んだ。

それを聞いた短髪の男はそのままの表情でこう言った。

「あれはフランツが賭けに負けているせいだろう」

 それを聞き、傷だらけの男―フランツ―は両手を下ろし、目をそらしてこう言った。

「あれはてめーの運がおかしいだけだっての」

 フランツはブツブツとつぶやき続ける。

「第1なんだよ、20連続ロイヤルストレートフラッシュなんて、訳わかんねーぞ…」

「運も実力、内だよ」

「お前の運は狂ってる」

 短髪の男の言葉に続けるよう、フランツはそう言葉を吐いた。

 大きくため息を吐くと、フランツはこう話を切り出した。

「で、こんなところで悠長に酒飲んでてもいいのか?騎士団長殿」

「今の私は王から命令を受けた一介の騎士さ」

 手元にあった酒を手に取り、短髪の男はそう話を続けた。

「それもこの任が終わればそれもなくなる、後ろ盾は何もない只の一般人になる」

 そう言って酒を口に付ける。

「王がお前を手放すとは思えんがな」

 近くを通った店員に注文をし、フランツはそう話した。

「王がなんと言おうとも責任は取らねばならん」

 はっきりとした口調で短髪の男はそう言った。

「相変わらずだな、アレクさん」

と隣のテーブルでパイプを吸っていた男がそう声をかけた。

 フランツは不審そうにその男を見ながら言った。

「アレク、知り合いか」

 短髪の男―アレク―は小さく頷いてその男に声をかける。

「久しぶりだな、トニー」

 人差し指を軽く振りながらこう言った。

「今の名前はヤンだ」

 にやりとヤンは顔を歪めながら話しを続ける。

「姫様の情報欲しくはないかい?」

 それを聞いたアレクは表情を変えずにこう聞き返した。

「いくらだ」

「………」

 フランツはいつでも動けるように僅かに腰を上げて黙っている。

そのアレクの返事を聞いて、顔をさらに歪ませて、話を続ける。

「さっすがアレクさんだ、話が早い」

 ヤンは右手を広げ、こう言った。

「金貨5枚」

 その言葉にフランツは僅かに動いたが、それに動じないアレクを横目に見て動きを止めた。

アレクは無言で懐に手を入れて、それをヤンに投げやった。

ヤンは慌てて投げられた金貨を取りる。

「イヒヒヒヒ、毎度あり」

と顔を歪ませたまま笑い、懐に大事そうに直した。

「それで?」

 テーブルに肘を付きながらアレクは聞いた。

「へい、西のトナミってとこのギルドで、その姫様に似たお方とその付き人らしい者を見たらしいぜ」

「聖女の聖域か」

 それ聞き、アレクは手に顎をやり、呟いた。

「それともう1つ」

 ヤンは人差し指を立ててこう続けた

「最近、あの街は何かきな臭い、注意して姫様の情報を探りな」

「きな臭い?」

 アレクは眉を顰めて聞いた。

「冒険者が次々に死んでいっている」

 声を潜め、ヤンはそう話を続ける。

「どうもギルドの連中が噛んでいるって話しだ」

 さらに声を落とし、こう言う。

「噂じゃ、街の近くに厄介なモンスターが出たんだと」

「………」

 フランツはじっと話を聞き、黙り続けている。

懐からもう1枚金貨を出してながら

「助かった、また何か情報が入ったら頼むよ」

 そう言い、アレクはコインを指で弾き、ヤンのいる方向に飛ばした。

「イヒヒ、ではまた御贔屓を」

 それを受け取りながら立ち上がり、そう言って立ち去った。





「それでさっきの情報は正しいのか?」

 フランツは酒場の入口を横目に見つつ、そうアレクに問うた。

「トニーの―――いや、ヤンの情報は正確さがウリだよ、少し値が張るがね」

 フランツの問いに軽く笑いながら、そう返答をした。

「………少しってお前なぁ」

 アレクを指差しながらフランツは力が抜けた風にこう続けた。

「金貨1枚で家が建つんだぞ」

「王女様の情報が手に入ったんだ、安いものだ」

 軽く目を閉じ、アレクはそう答えた。

「冒険者が死んでるってのは不安だが、場所は分かったんだ。急いで行けば、間に合うな」

 肘を付き顎を手に乗せてフランツはそう結論を出した。

「しかし付き人ってのは、姫様の護衛だろ?なんて言ったっけ……」

「プリンセスガード」

 呟くようにアレクは言った。

「そうそれ、女だけで構成されている部隊。王が姫様のご機嫌取りのために作ったとか何とか」

 フランツは目を上に向けて話しを続ける。

「確か全員美少女だって話しだしな。こりゃお近づきになっておいしい思い出来るかもな!」

 腕をグッと前に出し、満面の笑みを浮かべている。

「戦力になるのか?」

 アレクは目を開き、フランツに問うた。

それを聞いて頭を掻きながら答える。

「あー、護身程度にってのは聞いたな」

「元々護衛役じゃなくて、姫様の遊び相手だからな。期待はしないほうがいい」

 両腕を左右に広げ、そう返した。

「肉壁ぐらいにならばいいが…」

 顎に指を置き、そう呟いた。

「そんな物騒なこと言ってんじゃねえよ、タコ」

「元々はどうあれ、主に剣を捧げているのだ。そのくらいは当然だろう」

 それを聞いたフランツは頭を掻きながら話す。

「そういう奴だったな、お前は」

「騎士として当然のことをしているまでだ」

 アレクは厳然としてはっきりとそう言った。

 フランツは肩をすくめ、酒を手にとった。

「見解の違いってやつだな。そろそろお開きにしようぜ」

 そう言ったフランツの姿に、アレクは力が抜けたのか緩い笑顔を見せながら酒を持ち、返事をする。

「そうだな」

その言葉と同時に2人は酒を呷った。

次の投稿は、今日同じく、明日の夜8時~10時に行います。

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