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第1章第1話



 ネズミの鳴き声、物が崩れるような音、何かが這うような音、心が不安になりそうな唸り声、そして―――――――――悲鳴。





 生きた人の呼吸する音が聞こえる。それも抑えたような、小さく息をしている。

その小さな息遣いすらも聞かれてはいけない、とでも言いたげにさらに息を殺していく。

無音。何も聞こえず、だがさらに待つ。

待つ。

待つ―――。

「………行ったか」

 通路側にいる男が小さく声を出す。

「はぁー…」

 その男の隣を伺っていた短髪の女が腰を下ろしつつ息を吐く。

さらにその隣にいる杖をついた大柄な男がその様子を見ながら喋る。

「まだ緊張を解くな、警戒を怠るんじゃない」

「そんなこと言ったって、このまま警戒していても体力消耗するだけでしょ?」

 短髪の女は座ったまま腰に下げた袋から小さな茶色い塊のようなものを取り出して言う。

「それにあたしの代わりにレオンがその間に警戒してるからいいっしょー」

「俺も休みたいんだが…」

 通路を警戒し横目に見ながら苦笑する。

「ほれみろ」

 大柄な男は杖を左手に持ち替えながら話す。

「次はお前だ、レオンと代わってやれ」

「座ったばっかりなのにー」

 小さな茶色い塊を口に入れながら軽く悪態を付き、見張りを交代する。

「しっかしさっきのモンスターはなんなんだ?」

「さてな…」

 見張りを交代した男―レオン―と大柄な男が話を交わす。

「魔物だったりして」

 短髪の女は通路を見ながらそう言った。

「お前はもっと周囲を警戒しろ」

「まあまあカール、さっきの奴を気にせず見張りだけをやれって言う方が酷なものだって」

 大柄な男―カール―を諌めながらレオンは喋り続ける。

「それに話しながら見張りをやればいい話じゃないか」

「………」

 カールは不機嫌そうに黙っている。

それを見たレオンは焦ったように話す。

「ここで言い争いしてもしょうがないだろ?そんなことよりもさっき見た、骸骨のモンスターについて話したほうが有意義だろ?な?」

 それを聞いたカールは目を閉じながら息を吐きつつ言葉を出す。

「そうだな」

 レオンはその言葉に笑みを浮かべる。

その笑みを見たカールは苦笑する。

「貸しだからな」

「了解です、カール隊長!」

 右手を心臓に位置するところに手を当てレオンはそう少し大きめに声を出す。

その声に驚いた短髪の女は、レオンをジト目に見ながらこう言った。

「隠れてんだから静かにしてなよ、レオン隊員」





 手元にあったランプに火を着けながらレオンは話しを切り出した。

「それでさっきのモンスターなんだが」

「俺は3年程冒険者をやっているがあんな生き物見たことがない。いや、生き物といっていいのか?アレは」

「あたしもない、ちなみに冒険者歴、あたしは4年」

「…先輩でしたか」

「フッフッフ、敬いたまへ」

 その茶番を聞きながらカールはこう話した。

「私は見たことがある」

 その言葉に漫才をしていた二人は同時にカールの方に向いた。

それを様子を見たカールは少し得意気にこう話す。

「…学院の古い本でだが、あのモンスターに酷似したものが」

「そういえば学院出身だったな、カールは」

「なんて本?」

 短髪の女は興味を引いたのか言葉を投げかけた。

「魔と人と獣」

 カールはさらに得意気に言った。

「知らねー」

「俺も分からないな」

 短髪の女は興味を失ったのか、頭を掻きながら言葉を吐いた。

その様子にカールは少し不快そうな表情になった。

「あー、でさその本にどんな事が書いてあったんだい?カール」

 カールはレオンを横目に見ながら声を出す。

「あのモンスターに酷似していた頁にはこう書かれていた」

 杖を右手に持ち替え、話し始めようとする。

「おーい、長くならないように手短にねー」

と短髪の女は手をひらひらとこちらを見ずにそう言った。

「…分かった、手短に話そう」

 一言だけこう前置きをしつつ話しを始める。

「アンデット、と言うものに聞き覚えはあるか?」

「あんでっと?」

 短髪の女は同じ言葉を繰り返す。

「…リビングデッド、生きる屍だったか、確か」

 呟くようにレオンはそう言った。

「簡単にいえば死者が不完全に蘇った結果で生まれたモンスターだ」

「蘇ったって、リーホ様でも出来ないんじゃ」

 短髪の女は少し驚いた風に話す。

「そう、出来なかった。故に生きる屍、と言うことだ」

 カールはさらに話を続ける。

「過去に死者を蘇らせようとし、この世を我がものにしようと企むものがいた」

「―――魔王、か」

 言葉を吐くように短髪の女はそう言った。

「じゃあさっきのはあの戦争の生き残りのってことか?」

「心配するな、それはない」

 不安そうに言ったレオンに、カールは腰にぶら下げた袋から水の入った皮袋を取り出しつつ、元気づけるようにこう話した。

「力ある魔王の配下は200年も昔に魔王と共に滅びた。今私が言ったのはその戦争に参加できなかった、力のない魔の物。残骸さ」

「その戦争の生き残りは確かにいたが、それも○○戦争で完全に滅びた」

 そう言って水飲むカールに短髪の女は問いをかけるように言った。

「力のない魔物ね、さっきの骸骨がか」

 水を飲み終えたカールは肩を竦めながらこう言った。

「力がないと言っても今を生きる我々には十分驚異さ。200年前の戦争で魔王は滅ぼせたがこちらもタダではすまなかったようだからね」

 自分が抱いていた疑問をレオンは口にする。

「それにしてもここ一帯に魔物は存在しないってギルドから聞いたんだけど」

「そこはギルドにイチャモンついてガッポリと頂くチャンスだよ」

 短髪の女はニンマリとした顔でそう言った。

それを聞いていたカールは空になった皮袋を元に戻しレオンらに声を掛ける。

「休憩を済んだことだし、そろそろ行くぞ」

「簡単な依頼だって聞いていたんのにねー」

 周りを警戒しながら短髪の女はそう言った。

それを聞いたレオンは苦笑しながら声を掛ける。

「生きてるだけで儲けものさ」

レオン、カールという順番に通路に出る。

「まずは左だ、警戒を怠るな」

カールはそう皆に聞こえるように言った。

「了解」

とレオンは元気に返事をした。

 左手にランプを持ちつつそのまま進んでいく。

「?」

 足音がしない。

「どうしたんだ、早くこのダンジョンから出るんだろ?」

 後ろを振り返りながら二人に言葉を投げかけた。

返答の代わりに何か大きなものが倒れる音がした。

 返事をしないことに疑問を抱き、後ろの方に光を照らす。

大きな塊のようなものが床に置かれているのが見える。

手元にあったランプをその塊を近づける。

大柄な人間の形をしている。

「カール…?」

 さらに奥から水が溢れるような音がする。

 レオンは腰にあった剣を右手に持ち構え、ランプで前が見えるように照らしつつ歩んでいく。

水が滴る音がする。

血の臭いだ。

「そんな馬鹿な…」

 小さく呟くように言った。

「…こんなことって」

 さらに臭いが濃くなる。

人影が見える。

2つだ。2つの人影だ。

1つは小さく項垂れてるかのように首を下げ、もう片方はその影の2倍近くあるように見えた。

 さらに近づく。

臭いがきつくなる。レオンは震える手を抑えながら進んでいく。

その大きな人影が引き抜くような動作をする。

もう1つの人影は支えを失ったかのように音を立てて倒れ伏す。

「あ…あ…」

 倒れた人影に光が当たる。

先程まで会話し、その知恵に助けられ、いつも元気づけられていた。その彼、カール。

同じく先程まで会話を交わし、悪態を付きながら、その楽観的な性格助けられていた。彼女。そして―――レオンの思い人でもあった。

「シェリー!!」

倒れ伏した人影―シェリー―にレオンは声を上げる。

その声を聞き、大きな人影は身じろぎし、こちらを向くように見えた。

その大きな人影の顔に位置する場所には、2つの黄緑色の光が見える。

「っ!」

手に持ったランプをその人影に投げつけ、それと同時にその人影に向かって走り出す。

ランプはそのまま闇へと飛んで消えていく。

が一瞬、左の暗闇の何かに光が当たる。

そこに目がけて、レオンは右足を踏み込み―――それと同時に剣を力強く突き刺す。

「くっ!」

 手応えなし。いやわずかに引っ掛かる感覚がした。

いける、レオンはそう思いつつ周りを警戒する。

 壁に背を向ける。

左側にはさきほど投げたランプの光が見える。

右側は暗闇が広がっている。あそこにはカールがいる。

 そして前のは1メートル程先に壁が見える。

足元にはシェリーとその血が広がっている。

神経を尖らせ、周囲の物音一つ逃がさないようにする。

 さきほど見た光を探そうと、周囲を目で探る。

仲間亡きいま、自分が頼れるモノはこの剣だけ。右手に持つ武器を握り、存在を確かめる。

鉄が落ちる音がした。左からだ。

目を向ける。ランプの近くには先程はまで無かった長い棒状のようなものが見える。

 それはどこかで見覚えのある物だった。

注意深く見ると刃のような薄く尖った形をしていた。

それを見て何か感じたのか、首を下げ右手に持つ剣に視線を合わせる。

「―――え?」

 手に持っていた剣の刃が付け根から先までなくなっている。

「―――――」

 首元で何かすり抜けるような感触がした。

体から力が抜ける。

足元から力が抜ける。

頭から地面へと向かっていく。

自らの体重に叩きつけられ、頭ののどこかにヒビが入る感覚がした。

血の臭いで鼻がうまく効かない。

首元が熱い。

体が暖かくなってくる。

目の前にシェリーが倒れている。

手足に力が入らない。

声を出せない。

意識が遠のいていく。

指先の感覚もなくなっていく。

耳が遠くなっていく。

何も見えない。

 そして最後に意識がなくなる直前、生きるものを挫くような声を聞いた。

「――――――カエドキカ」

とりあえず今日はここまで、次の投稿は今日の夜か明日の零時にします。

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