Tips~空き缶のゆくえ
あの事と遭遇したのは、秋も終盤を迎えた、そんな季節の変わり目だったと思う。
夕焼けが広がる川縁を、私はなんの目的もなく歩いていた。ようは、ただの散歩だ。
私が歩く世界は、赤とんぼが夕焼けの中を舞い踊る、紅の世界。
耳に響くのは、単調な風の音。
肌に感じるのは、少しだけ肌寒い、冬の到来を予感させる、そんな、静かな空気だけ。
◇
しばらく1人トボトボと歩いた私は、土手に作られた、小さな公園に身を寄せた。
公園には、私と、何人かの子供達と、そして、ホームレスの人が一人。
子供達は逃げるところもさしてない公園で、無邪気に鬼ごっこに熱中していた。
そんな子供達の近くで、ホームレスの人が一人、空き缶を拾い集めている。
『いったい、あれで、どれだけのお金になるのか・・・』
そう、思わざるを得なかった。
今考えると、おかしな話だと思う。基本的に私は、明るい話が好きな人間だ。普通に考えたら、無邪気に走り回る子供達を眺めた方が、心も和む。
ただ、
大学生だった当時の私には、楽しげに走り回る子供達よりも、空き缶を集める彼の人の方が、より強く興味を引きつけられる存在だった。
『ああは、なりたくないな』
声に出さないだけで、そう思った。あの様には、なりたくないと。
あんなふうには、なりたくないと。
そんなときだった。
「おかあさん、あのおじさん良い人だね」
声が聞こえたのは。
「空き缶を拾ってくれてる。公園をきれいにしてくれてるんだね」
わたしは視線を声の方に向けた。
そこには小さな少女と、買い物袋を下げた母親らしき女性が、公園の入り口に立っていた。
「そうね、ユミちゃんもお母さんも、見習わなきゃね」
「うん!」
・・・そのとき、わたしは言いようもない感覚にとらわれた。
それは、認識の隙間にスッポリとハマッてしまったような、本当に奇妙な感覚だった。
『わたしは、「何」になりたくないと思ったのか』
◇
あれから、幾ばくかの時がすぎた。
私は、今、空き缶を拾い集めたりはしていない。それはもちろん、ボランティアという視点からでもそうだ。
『あのおじさん良い人だね』
おそらく・・・いや、まちがいなく、わたしはあの少女に、「良い人」だとは言ってもらえないだろう。
未だに、私には「なりたくないもの」がはっきりしてないのだと思う。
それが出来るようになるのは、おそらく、もう少し先の話になりそうだ。




