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Tips~空き缶のゆくえ

作者: blue birds
掲載日:2010/09/06



 あの事と遭遇したのは、秋も終盤を迎えた、そんな季節の変わり目だったと思う。


 夕焼けが広がる川縁を、私はなんの目的もなく歩いていた。ようは、ただの散歩だ。



 私が歩く世界は、赤とんぼが夕焼けの中を舞い踊る、紅の世界。


 耳に響くのは、単調な風の音。


 肌に感じるのは、少しだけ肌寒い、冬の到来を予感させる、そんな、静かな空気だけ。


 


                                                 ◇



 しばらく1人トボトボと歩いた私は、土手に作られた、小さな公園に身を寄せた。



 公園には、私と、何人かの子供達と、そして、ホームレスの人が一人。



 子供達は逃げるところもさしてない公園で、無邪気に鬼ごっこに熱中していた。


そんな子供達の近くで、ホームレスの人が一人、空き缶を拾い集めている。



『いったい、あれで、どれだけのお金になるのか・・・』



そう、思わざるを得なかった。


 今考えると、おかしな話だと思う。基本的に私は、明るい話が好きな人間だ。普通に考えたら、無邪気に走り回る子供達を眺めた方が、心も和む。



 ただ、


大学生だった当時の私には、楽しげに走り回る子供達よりも、空き缶を集める彼の人の方が、より強く興味を引きつけられる存在だった。



『ああは、なりたくないな』



 声に出さないだけで、そう思った。あの様には、なりたくないと。


あんなふうには、なりたくないと。



そんなときだった。




「おかあさん、あのおじさん良い人だね」


声が聞こえたのは。



「空き缶を拾ってくれてる。公園をきれいにしてくれてるんだね」



 わたしは視線を声の方に向けた。


 そこには小さな少女と、買い物袋を下げた母親らしき女性が、公園の入り口に立っていた。



「そうね、ユミちゃんもお母さんも、見習わなきゃね」


「うん!」



・・・そのとき、わたしは言いようもない感覚にとらわれた。


それは、認識の隙間にスッポリとハマッてしまったような、本当に奇妙な感覚だった。



『わたしは、「何」になりたくないと思ったのか』




                                                ◇



 あれから、幾ばくかの時がすぎた。


 私は、今、空き缶を拾い集めたりはしていない。それはもちろん、ボランティアという視点からでもそうだ。



 『あのおじさん良い人だね』



 おそらく・・・いや、まちがいなく、わたしはあの少女に、「良い人」だとは言ってもらえないだろう。


 未だに、私には「なりたくないもの」がはっきりしてないのだと思う。


それが出来るようになるのは、おそらく、もう少し先の話になりそうだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 思わずはっとする、そんな物語ですね。 言葉にしにくい微妙な思いの揺れ動きをとても綺麗に書けていると思います。すばーらしいです( -w- ) 次回にも期待します^^
2010/09/06 21:20 退会済み
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