第四十六話 火属性の友人
——魔法学院 正門前 午後
声をかけられたのは——正門の前だった。
「グラウ。」
振り向いた。
フェルト・アシュタルだった。
火属性。
長身。
砂色の髪。
でも——顔が、違った。
「……久しぶりですね。」
私は言った。
「ああ。」
フェルトが——少し間を置いた。
「中に入っていいか。」
「はい。」
◆ ◆ ◆
中庭の隅に移動した。
リーゼが——少し離れた場所に控えた。
フェルトは——しばらく何も言わなかった。
私は待った。
「……連絡が取れなくてすまなかった。」
「理由を聞いていいですか。」
「ある。」
「話せますか。」
「話しに来た。」
◆ ◆ ◆
「評議会と——接触した。」
フェルトが言った。
中庭が静かになった。
「……いつですか。」
「一ヶ月前。」
「どういう経緯で。」
「向こうから来た。」
「あなたに——直接接触してきた。」
「ああ。」
「何を言われましたか。」
フェルトが少し間を置いた。
「お前は——根源律に近い属性を持っていると。」
「火属性だから。」
「それだけじゃない。」
「……続けてください。」
◆ ◆ ◆
「お前と——グラウを引き合わせた者が評議会だと言われた。」
私は少し止まった。
「……私たちが出会ったのは——」
「学院の入学式だ。偶然じゃなかったかもしれない、と言われた。」
「……あなたはどう思いますか。」
「分からない。」
フェルトが静かに言った。
「でも——お前に話さなければならないと思った。」
「なぜ私に。」
「お前が——関係しているからだ。」
「……評議会は——私のことを知っていたのですか。」
「ああ。名前も。根源律変換式も。あの夜のことも。」
「……全部知っていた。」
「全部知っていた。」
◆ ◆ ◆
私はノートを開いた。
「記録していいですか。」
「ああ。」
「評議会が接触してきた時の様子を——詳しく教えてください。」
フェルトが——少し前を向いた。
「夜だった。宿に戻ろうとしていた時——男が声をかけてきた。」
「特徴は。」
「四十代か五十代。黒い装束。目が——深かった。」
「正教騎士団でも魔法協会でもない装束ですか。」
「ああ。見たことのない装束だった。」
「何と言われましたか。」
「「あなたには根源律の素養がある。我々と共に来れば——その力を完全に開花させられる」と。」
「断りましたか。」
「断った。」
「なぜ断れたのですか。」
フェルトが少し止まった。
「……お前のことを思ったからだ。」
◆ ◆ ◆
「私のことを。」
「ああ。」
「どういう意味ですか。」
「お前があの夜——王都で何かをした。それは知っている。正確には分からない。でも——お前が何かと戦っているのは分かった。その相手が評議会なら——評議会に乗る理由がない。」
「……論理的な判断ですね。」
「感情的でもある。」
フェルトが静かに言った。
「お前を——敵にしたくなかった。」
◆ ◆ ◆
私は少し間を置いた。
「評議会の男は——断った後どうしましたか。」
「去った。」
「追ってきましたか。」
「今のところない。でも——監視されている可能性がある。」
「それを承知で学院に来たのですか。」
「ああ。」
「……なぜ。」
「お前に伝える方が——監視されていることより重要だと判断した。」
私は少し考えた。
「フェルト・アシュタル。」
「何だ。」
「あなたは——巻き込まれた可能性があります。」
「知っている。」
「それでも——来た。」
「ああ。」
「……ありがとうございます。」
「礼はいい。」
「受け取ります。」
◆ ◆ ◆
「評議会の男が言っていた——私たちの出会いが偶然ではなかった可能性について。」
私は言った。
「ああ。」
「それについて——私の見解を言っていいですか。」
「言え。」
「偶然であっても偶然でなくても——あなたが今日ここに来たことは、あなたの判断です。評議会が仕組んだとしても——あなたが今日した選択は、あなたのものです。」
フェルトが——少し動いた。
「……そういう考え方をするのか。」
「はい。」
「……お前らしいな。」
「そうですか。」
「ああ。」
◆ ◆ ◆
「一つだけ聞いていいですか。」
私は言った。
「何だ。」
「連絡が途絶えたのは——評議会に接触された後からですか。」
「ああ。」
「どう判断すればいいか分からなくて——お前に連絡できなかった。」
「……そうですか。」
「すまなかった。」
「謝罪は求めていません。」
「でも——」
「でも——と言うのですか。」
「……来てくれてよかった、とは言う。」
フェルトが——少し止まった。
「……ああ。」
静かに言った。
◆ ◆ ◆
「監視の可能性があるなら——しばらく学院に留まってください。」
「……なぜ。」
「学院は正教騎士団が護衛しています。外より安全です。」
「お前の護衛に世話になるのか。」
「あなたの安全のためです。」
「……分かった。」
「それから——」
「まだあるか。」
「あなたが評議会に接触されたという情報を——正教会に共有してもいいですか。」
フェルトが少し止まった。
「……正教会と繋がっているのか。」
「複雑な事情があります。」
「……分かった。共有していい。」
「ありがとうございます。」
◆ ◆ ◆
フェルトが立ち上がった。
「グラウ。」
「はい。」
「お前は——変わったか。」
私は少し考えた。
「……変わっているかもしれません。知らなかったことを知りました。」
「それだけか。」
「今のところは。」
「……そうか。」
フェルトが少し笑った。
久しぶりに——見た笑い方だった。
「変わってないな。」
「そうですか。」
「ああ。」
◆ ◆ ◆
フェルトが学院の宿舎に向かった後——私はノートを開いた。
「フェルト・アシュタル——評議会に直接接触された。一ヶ月前。男・四十代〜五十代・黒い装束。「根源律の素養がある。共に来れば力を開花させられる」と言われた。断った。」
書いた。
「評議会は——フェルトを使ってルナに近づこうとした可能性がある。」
「あるいは——フェルト自身を利用しようとした。」
「どちらの可能性も排除できない。」
一行空けた。
「フェルトは——断った。」
「私のことを思ったから、と言った。」
「……それは——」
少し止まった。
「記録しておく。」
もう一行。
「評議会の直接接触が——学院の外でも始まっている。」
「フェルトは監視されている可能性がある。」
「……変数が——また増えた。」
ノートを閉じた。
中庭の端で——リーゼが静かに立っていた。
灰色の瞳が——静かに、遠くを見ていた。




