登場人物、国及び組織一覧
【登場人物一覧】
**グラウ・ルナ**
本作の主人公。十歳。無属性。灰色の髪と灰色の瞳を持つ孤児。後見人は正教会。魔法学院一年生。
前世は三十四歳の数学者であり、存在方程式を研究していた。子どもを庇って命を落とし、転生した。前世の記憶と数学者としての思考を持ちながら、この世界の魔法の構造を論理として捉え直している。「魔法とは論理と知性の牙城である」という格言を信じている。
属性は無属性——「無という属性を持つ唯一の属性」である。魔力量は〇・四単位と測定されているが、これは物心つく前に正教会が施した四重封印の漏出量に過ぎない。首輪・手枷・足枷という構造を持つ封印が、十年間ルナの成長分を全て吸収し続けている。ルナは封印の存在を知らない。封印の内側には十年分の爆発的な魔力成長が蓄積されており、解除された瞬間に放出される量は計算不能である。
思想は徹底した無神論者・自由主義者。「神の印」「教皇候補」という正教会の解釈を、証明されていない命題として保留している。正教会への感謝は認めているが「感謝は服従の根拠にならない」という立場を明確に持つ。戦争を「無益で非生産的極まりない愚行」と定義し、核融合術式と対消滅術式を自主封印している理由もここにある。
根源律変換式の開発・証明・命名者。公証番号〇〇四七の申請者。「無に帰す術式」を第四十話で初めて発動し、クロイツの魔力爆発を超長距離から消滅させた。この発動は自分の魔力量では説明できない規模であり、「自分の中にまだ把握できていない変数がある」という次の問いに繋がっている。
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**エルヴィン・アストラ**
アストラ子爵家の次男。風属性、上位五パーセント以内の魔力量を持つ。クロイツ公爵家とは遠い縁戚関係にある。父はアストラ商会を経営し、王立魔法協会とも取引がある。
ルナが根源律変換式の公証申請を行った際の保証人であり、公証番号〇〇四七の連署者でもある。情報を手元に置き、軽率に流さない節度を持つ人物。ルナの研究の価値を早い段階で理解し、実質的な支援者として機能している。
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**セイン・ノワール**
闇属性。魔力量は上位一パーセント以内という高水準だが、闇属性差別の被害者として孤立した学院生活を送っている。食堂で席に座ると周囲が立ち去るという日常的な差別を受けている。
根源律の存在を感知できるという特殊能力を持つ——位置は不定だが、接続の気配を察知できる。感情ではなく論理を受け取る性格であり、証明に基づいて動く。ルナの研究においては被害事例の収集担当として機能し、重ね合わせ術式の外部観測者を務めている。
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**オルヴァン・クロイツ(故人)**
王立魔法協会特別研究部門主任。神の使徒の実行部門責任者。クロイツ公爵家の腹違いの末弟。土属性出身だったが、実験失敗で右腕・右足が砂になって消えた後、魔核移植によって闇属性を取り込んだ半分人外の存在となった。
幼少期から兄エルネストに徹底的に虐げられてきた。その憎しみが「光ごと消す」術式の研究動機となった。二十三年間エルネストの金で研究を続けながら、その秘密を記録し続けた。最期に「公爵家に絶望あれ」という言葉と共に置き土産を残して絶命した。走馬灯の中で「正しいものは最初から正しかった」という真理を悟った。
第四十話でルナの「無に帰す術式」によって消滅させられた。超長距離・認識外からの介入だったため、ルナの存在を認識できないまま終わった。
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**エルミラ・カルヴァーン**
カルヴァーン王国第一王女。十歳。光属性。魔法学院一年生。高い魔力量を持つ優秀な術者。
父はカルヴァーン王国現王ヴォルフラム・カルヴァーンであり評議会員だが、エルミラ本人はそれを知らない。兄ジークヴァルト・カルヴァーンが光属性九割・人工無属性一割という人工的に作られた歪んだ存在であることも知らない。傀儡国家の王女として育てられながら、その実態を全く知らないまま魔法学院に留学している。
ルナとの関係は対照的——光対無属性、高魔力対極微量、王女対孤児。しかし「立場なしで話せる」という言葉でルナに接触を試みた。「証明を見せてほしい」という純粋な関心を持つ。第四十一話以降、様子が変わっており、原因はまだ不明。
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**フェルト・マイナー**
王立魔法協会一般研究部門所属。風属性。三十代。善意ある研究者として、ルナ・エルヴィン・セインの三人に協力した。公証番号〇〇四七を読み、その意味を正しく理解した数少ない人物の一人。
クロイツの死後、一ヶ月以上連絡が途絶えている。
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**セラフィア**
正教会大神官。六十代以上。女性。イレーネ・サンクタ教皇代理の下位にあたる実務担当者。ルナを孤児院から魔法学院に送り出した当事者でもある。
物心つく前のルナに四重封印を施した施術者。首輪・手枷・足枷という構造の封印をルナに課した人物。封印の事実をルナに伝えていない。「時が来るまで制御下に置く」という意図で施術したが、封印の内側でルナが爆発的な成長を続けていることには気づいていなかった。
ルナの「無に帰す術式」の発動をリーゼの報告で知った後、イレーネとの意見の相違が明確になっている。イレーネが「時が来た」と判断し積極的に動こうとするのに対し、セラフィアは「まだ早い、急げば失う」という慎重派の立場を取っている。
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**イレーネ・サンクタ**
正教会教皇代理。女性。二百年以上の教皇不在の間、代理として正教会を守り続けてきた人物。
ルナの「無に帰す術式」の発動をリーゼの報告で知り「神の代行者が現れた」と確信した。二百年間待ち続けてきた者として、誰よりも速く動く必要があると判断している。感謝を切り口として、面会の要請書状をルナに直接送った。セラフィアの慎重な姿勢とは意見が分かれているが、「あなたは慎重に。私は速く。どちらかが間違えた時、もう一方が修正できる」という形で協調している。
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**リーゼ・ハルバー**
正教騎士団員。二十代。女性。ルナへの接触担当として配置されている。根源律の気配を感知できる訓練を受けており、第四十話の「無に帰す術式」発動を唯一目撃した人物。「神の御力を見た」という確信を持ってヴェラ・シュタインに報告した。
直接的で正直な人物。立場上答えられないことは明確に「答えられない」と言う。
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**ヴェラ・シュタイン**
正教騎士団長。四十代。女性。リーゼの上官。「守護の定義」についての内部議論をリーゼと行った人物。
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【登場する国及び組織】
**ラエティア王国**
本作の主要舞台となる王国。魔法学院・王立魔法協会・王宮騎士団が置かれており、光属性至上主義が社会の根底に根付いている。筆頭公爵家であるクロイツ公爵家が「光の絶対支配」という固有魔法を持つことで、光属性の権威が政治的にも維持されてきた。
第四十話以降、クロイツ公爵家の崩壊・エルネストの逃亡・ジークハルトの処刑という連続した激動の中で、王国の権力基盤が急速に揺らいでいる。宰相が評議会員であることも相まって、王城の意思決定が内側から歪められている状態にある。
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**カルヴァーン王国**
ラエティア王国に隣接する独立した主権国家。表向きは友好関係を維持しているが、実態は評議会の傀儡国家である。現王ヴォルフラム・カルヴァーンが評議会員であり、国家権力と評議会の意志が一致した形で動いている。第一王女エルミラが魔法学院に留学しているのも友好関係の象徴とされているが、その背景には評議会の意図が絡んでいる可能性がある。
エルネスト・ヴァンドール=クロイツがこの国に亡命しており、ヴォルフラムと結託してラエティア王国への戦争を画策している。二人は互いを道具と見ながら利益が一致している間だけ協調している。
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**グラスヴェン辺境王国**
評議会員ライナー・ゾルクが在住する辺境の王国。クロイツに魔族を提供した接点があり、評議会の活動と繋がっている。ライナーは光属性と闇属性の二属性を持つ賢者であり、二十代という若さで評議会員の地位にある。
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**王立魔法協会**
ラエティア王国の魔法行政を司る国家機関。術式の先行記録を保管する公証制度を持ち、公証番号〇〇四七・〇〇五二はここに登録されている。内部に「特別研究部門」と「一般研究部門」が存在し、クロイツは前者の主任を務めていた。第四公理に基づく属性至上主義が組織の根底にあり、無属性を欠陥として扱う文化が浸透している。クロイツの死後、特別研究部門の動向は不明。
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**魔法学院**
ルナ・エルヴィン・セイン・エルミラが在籍する教育機関。王都に位置する。属性による序列意識が学院内にも存在し、無属性や闇属性への差別が日常的に行われている。正教騎士団が学院周辺で観察・監視を続けており、第四十一話以降その密度が高まっている。
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**正教会**
教義の中心は「神の力(根源律)を行使できる者が神の代行者(教皇)である」というものだ。二百年以上にわたって教皇が不在であり、イレーネ・サンクタが教皇代理として守り続けてきた。ルナを「神の印」として認識しており、後見人として魔法学院への入学を手配した。
正教会の内部には「神の代行者が現れた時に備える」という二百年来の使命意識が根付いている。ルナの「無に帰す術式」の発動をその実現と捉えており、セラフィア(慎重派)とイレーネ(積極派)の間で意見が分かれながら動いている。
封印の問題も内包している。物心つく前のルナに施した四重封印は、セラフィアが「外部干渉を防ぐため」として施術したものだが、封印の事実をルナに伝えていない。この秘匿が発覚した際に正教会とルナの間に生じる論理的衝突は、物語の重要な転換点になり得る。
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**正教騎士団**
正教会が持つ秘密の実働部隊。表には出ない隠密行動を主とし、内部に暗殺部隊を持つ。暗殺部隊の対象は神の使徒・評議会——「神の印を持つ者を脅かす存在を排除することが守護だ」という論理で動く。
神の使徒の暗殺部隊との間で「代理戦争」を繰り広げている。表向きは存在すら認められていない組織同士が、水面下で互いの中枢を削り合いながら二百年間戦い続けてきた。教皇候補が現れるたびに神の使徒の暗殺部隊が排除してきた可能性があり、それが二百年間の教皇不在の一因かもしれない。正教側も神の使徒の幹部を暗殺し組織を弱体化させようとしてきた。どちらも決定打を与えられず膠着状態が続いた——その膠着を破った変数がグラウ・ルナだ。
「守護する」と「暗殺する」の間にどこで線を引くか。リーゼとヴェラが幕間八で語り合った「守護の定義」は、この暗殺部隊の存在を踏まえると別の重みを持つ問いになる。
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**神の使徒**
評議会が支配する実働組織。「神に仕える者」ではなく「神の代わりに世界を動かす者」という名を持つ。正教会・王立魔法協会いずれにも公式には認められていない異端の秘密組織であり、少なくとも三十年以上前から存在している。
組織は階層構造を持つ。上層の評議会が意思決定を行い、神の使徒がその実行組織として機能する。さらに末端の構成員は組織の真の目的を知らされておらず、思想的な共鳴だけで繋がっている。クロイツは神の使徒の実行部門責任者だったが、評議会員ではない——評議会の指示を受けて動く立場だった。クロイツの死後、実行部門の後継は未定。
ラエティア王国内部への浸透は二段階で進んでいる。クロイツ公爵家(レオンハルトが新公爵として送り込まれた)という表の権力と、宰相(評議会員)という王城内部の権力を同時に押さえることで、王国は外側と内側から締め付けられている。
正教騎士団の暗殺部隊との間で代理戦争を続けている。正教会の重鎮を標的とする暗殺部隊を持ち、二百年間にわたって教皇候補を排除してきた可能性がある。
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**評議会**
神の使徒の上層部・最高意思決定機関。純粋な学術者・技術者の集団であり、感情的な悪意を持たない。権力欲や個人的な復讐ではなく「根源律への到達」そのものが目的であるため、個人的な憎悪を持つクロイツより危険かもしれない。「必要なら何でもする」という論理が感情的な歯止めなしに機能している。
真の目的は「神の力(根源律)を行使できる者を神として世界を支配すること」であり、その目的のためにラエティア王国の傀儡化を企んでいる。カルヴァーン王国はすでに傀儡化済みであり、次の標的がラエティア王国である。
構成員はライナー・ゾルク(グラスヴェン辺境王国在住・光闇二属性・賢者)、ヴォルフラム・カルヴァーン(カルヴァーン王国現王)、ラエティア王国宰相、その他が確認されている。第四十話以降「計算が追いつかない」という前例のない状況に直面し、ルナへの直接接触方針に切り替えている。
三十年前に無属性者を強制発動させた過去を持つ。当時は暴走・自滅でクレーターが残った——「消せなかった」。今回ルナは「消した」。この差が評議会にとっての「想定を超えた」理由の核心である。




