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演算の魔女は祈らない 〜The Witch of Calculus Never Prays〜  作者: N


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幕間 断絶

——王都郊外 廃屋 夜明け前


脱獄から半日が経っていた。


工作員が廃屋に連れてきた。


「しばらくここに。」


それだけ言った。


エルネストは廃屋の椅子に座った。


窓から、夜明け前の空が見えた。

暗かった。

でも——少しずつ、明るくなっていた。


◆ ◆ ◆


「もう一つ——お伝えすることがあります。」


工作員が言った。


「何だ。」


「……第一王女殿下のことです。」


エルネストが少し動いた。


「妻が——死んだことは知っている。」


「はい。でも——誰が殺したか、ご存じですか。」


「……調査中だと聞いていた。」


「調査の結果が出ました。」


工作員が静かに言った。


「ジークハルト・ヴァンドール=クロイツ伯爵です。」


◆ ◆ ◆


エルネストは——少し止まった。


「……ジークハルトが。」


「はい。公爵位を得るために。エルネスト閣下が逃亡すれば——次の公爵は自分になる。その前に、第一王女殿下を殺害し、混乱を作った。」


「……証拠は。」


「状況証拠が複数あります。第一王女殿下が亡くなった時刻——ジークハルト伯爵は王城内部に単独でいた。通行記録が残っています。」


沈黙があった。


「……そうか。」


エルネストが言った。


それだけだった。


◆ ◆ ◆


工作員が部屋を出た。


一人になった。


エルネストは窓の外を見た。


夜明け前の空が、少しずつ明るくなっていた。


「ジークハルト。」


呟いた。


「……お前は——両立すると言った。」


馬車の中での言葉を思い出した。


「兄を守ることと、副団長であることを——両立すると。」


「今のところは、と言った。」


「今のところは——か。」


◆ ◆ ◆


考えようとした。


証拠を検討しようとした。


でも——


「妻が。」


言葉が止まった。


感情が——計算より先に来た。


それは珍しいことだった。

エルネストの人生で——感情が計算を追い越したことは、ほとんどなかった。


「……妻が、死んだ。」


「ジークハルトに——殺された。」


「私の弟に。」


◆ ◆ ◆


少し間があった。


エルネストは立ち上がった。


窓の外を見た。


「……信じるか。信じないか。」


そう問いかけた。


でも——今の自分には、否定する材料がなかった。


状況証拠は——全てジークハルトを指している。

動機もある。

機会もあった。


「……両立すると言いながら——その裏で。」


少し間を置いた。


「お前が——本当にやったなら。」


言葉が続かなかった。


◆ ◆ ◆


「ジークハルトを——いずれ、出す。」


脱獄の廊下でそう思った。


でも——今は。


「……出す理由が、消えた。」


その言葉を、声には出さなかった。


でも——確かに、そう思った。


感情が——一つの計算を消した。


◆ ◆ ◆


夜明けの光が、窓から差し込んできた。


エルネストは光を見た。


光属性だった。

光が——手に吸い込まれた。


「光の絶対支配。」


呟いた。


「この力で——守れなかった。」


「妻を。」


「……公爵家を。」


少し間を置いた。


「弟を——信じることも。」


◆ ◆ ◆


工作員が戻ってきた。


「次の移動の準備ができました。」


「分かった。」


エルネストは立ち上がった。


「一つ聞く。」


「何でしょう。」


「ジークハルトは——今、どこにいるか。」


「拘禁室です。処刑が——三日以内に執行されると聞いています。」


「……そうか。」


エルネストが歩き出した。


止まらなかった。


振り返らなかった。


◆ ◆ ◆


廃屋を出た。


夜明けの光の中を歩いた。


「使われる側にはならない。」


以前そう思った。


「でも——」


少し間を置いた。


「今は——それより先に、考えることがある。」


妻が死んだ。

弟が——妻を殺した。

公爵家が奪われた。


「全部——失った。」


でも——


「失ったものを数える暇はない。」


「次に何をするかだ。」


光属性の男が——夜明けの光の中を、歩き続けた。

これまでお読みいただきありがとうございます。

ここまでが第一章と言ったところです。

クロイツの死が多方面に波及しつつ様々な思惑が交錯していますね。


今は第二章を鋭意執筆しています。

書き溜めてから公開していきますので、どうかお待ちください。

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