第四話 証明された禁忌
——魔法学院 図書館 深夜 入学から半年後
閉館時刻を無視して三日間、私は禁忌術式の理論書を読み続けた。
きっかけはあの蒼白い炎だった。
ダークエネルギーを変換して熱を生む——なら核反応は?
核融合は、軽い原子核が融合する際の質量欠損をエネルギーに変える反応だ。
E=mc²。毎秒四百万トンの質量を燃やして輝く太陽の原理。
ダークエネルギー変換式と組み合わせたら——
三日後の深夜十一時。
最後の変数が、定まった。
```
Ψ_fusion = Φ(x,t) · ∫∫ n(r₁)n(r₂) · σ(E) · v_rel · dV₁dV₂
```
鉛筆を置いた。三十秒、動かなかった。
◆ ◆ ◆
検証した。最小出力、一秒間の術式展開。放出エネルギー——
```
E = Δm · c² ≈ 4.2 × 10¹⁴ [J] / sec
```
広島型原爆の約六・七倍。毎秒。無限持続。起動に必要な魔力は〇・〇一単位。
感情は、なかった。恐怖も興奮も達成感も。あったのは——計算の続きだけだ。
王都の外縁で発動した場合、半径二キロの地表が溶融。
熱波は五十キロ。隣国まで余波が届く。
戦争で使えば、一撃で国が消える。
◆ ◆ ◆
次の計算もした。
対消滅。
物質と反物質が接触した時、全質量がエネルギーに変換される。
核融合の百倍以上の効率。
理論式はすでに頭の中にあった。
三日前から、並行して走っていた。
紙に書いた。
頭の中にある式を、一度だけ外に出す。見るためだ。
自分が何を作ったのかを、正確に確認するために。
完成した。
二枚を並べて見た。
どちらも美しかった。
数学的に、完璧に美しかった。
だからこそ——使ってはいけない。
◆ ◆ ◆
感情的な結論ではない。
論理的な帰結だ。
この式の存在を知った人間は、いつか使おうとする。
強制されるか、追い詰められるか、好奇心で。人の意思決定は感情に依存する。
感情は状況に依存する。
状況は——制御できない。
唯一の安全な選択は:この式が私の外に出ないこと。
指先に蒼白い炎を呼んだ。
二枚の紙が燃えた。数式が光になって消えた。
式は頭の中にある。
紙を燃やしても消えない。
これは封印ではなく、儀式だ。
自分に言い聞かせるための。
私はこれを、使わない。
どんな状況でも。どんな敵が現れても。
なぜなら——計算したから。
使った先に、守れるものは何もないと。
灰が床に落ちた。最弱の少女は、世界で最も危険な術式を、自分の手で葬った。




