第三十八話 時間と場所
——魔法学院 北棟 非常階段 昼休み
フェルトからの情報は、エルヴィンが昼前に受け取った。
「今日は三人で確認したい。」
エルヴィンが踊り場に来て最初に言った。
セインが壁際に座った。
エルヴィンが書類を開いた。
「場所と時期が分かった。」
◆ ◆ ◆
「場所は——協会の特別研究棟ではない。」
エルヴィンが言った。
「王都の外だ。北東に二時間ほどの場所に、協会の旧試験場がある。現在は使われていないとされているが——クロイツが三ヶ月前から単独で使用している記録がある。」
「フェルトはどうやって知ったのか。」
「施設の管理記録だ。クロイツが協会長の承認なしに鍵を借りている。それ自体が規定違反だが——誰も止めなかった。フェルトが管理部門の知人から聞き出した。」
「時期は。」
「三日後の夜だ。」
エルヴィンが言った。
「フェルトが特別研究棟の実験記録を確認した。魔核の制御試験の記録が急増している。昨日の記録に——『最終確認完了』と書かれていた。」
◆ ◆ ◆
三日後。
計算した。
今日が一日目。
準備に使えるのは二日。
三日目の夜——実験が行われる。
「場所と時期が確定した。」
私は言った。
「次の問いは——どう止めるか。」
「止める方法は。」
セインが聞いた。
「選択肢を整理する。」
私はノートを開いた。
「一つ目——実験前に止める。場所を当局に通報し、実験を未然に防ぐ。でも——証拠が揃っているか。規定違反の施設使用だけでは、実験そのものを止める根拠にならない。」
「公証の記録は。」
「公証は『何かがあった』という記録だ。『何かをしようとしている』の証明にはならない。」
「二つ目は。」
「実験中に止める。クロイツが実験を始めた時点で介入する。でも——誰が、どうやって。」
◆ ◆ ◆
「王国騎士団に通報する手はないのか。」
セインが聞いた。
「通報できる。でも——根拠が薄い。旧試験場の無断使用と、我々の推測だけでは動かない可能性がある。」
「協会への通報は。」
「フェルトが動ける。でも——三日後までに手続きが間に合うか。」
エルヴィンが少し止まった。
「……間に合わない可能性が高い。」
「そうだ。」
三人が黙った。
◆ ◆ ◆
「三つ目の選択肢を言う。」
私は言った。
「何だ。」
「実験が始まり、制御不能になった時に——私が介入する。」
エルヴィンが少し動いた。
「お前が。どうやって。」
「根源律を使う。クロイツの実験が魔力爆発を起こした場合——無に帰す術式で消滅させる。」
「消滅させる。」
「有の属性が生み出したエネルギーは、無に帰すことができる。根源律を通せば——超長距離からでも可能だ。」
「なぜそこまでする。」
エルヴィンが聞いた。
「王都が巻き込まれれば——私の研究環境も全て消える。自由に研究できる場所が消える。それは最も非効率な結果だ。だから止める。それだけだ。」
エルヴィンが少し間を置いた。
「……そうか。」
セインが少し前に出た。
「俺も行く。」
「セイン——」
「お前の感知補助ができる。クロイツが制御を失い始めた瞬間を、俺の深層感知で捉えられる可能性がある。」
◆ ◆ ◆
「リスクがある。」
私は言った。
「クロイツの魔核が制御を失えば、闇属性の感知に強い干渉が来る。あなたが巻き込まれる可能性がある。」
「計算した上で言っている。」
「……セインが計算したのか。」
「お前から教わった。今ある変数で、最適解を出す。俺が行った方が——お前の成功確率が上がる。それが最適解だ。」
私は少し間を置いた。
「分かった。」
エルヴィンが少し間を置いた。
「私は。」
「エルヴィンは——この情報の管理と、事後対応を頼む。三日後に何が起きても、記録が残るよう動いてほしい。フェルト経由での協会への通報、王国騎士団への匿名通報も並行して進める。動かなくても——記録には残る。」
「……現場には行かない。」
「そうだ。エルヴィンにしかできない役割がある。」
エルヴィンが少し黙った。
「分かった。」
静かに言った。
「任せてくれ。」
◆ ◆ ◆
「一つ確認しておく。」
セインが言った。
「何だ。」
「お前は——クロイツを止めたいのか。それとも、爆発を止めたいのか。」
「爆発を止めたい。」
私は即答した。
「クロイツがどうなるかは——その結果だ。」
「……冷たいな。」
「冷たくはない。クロイツが爆発を起こさなければ、私は動かない。起こしたから動く。それだけだ。」
セインが少し考えた。
「……分かった。」
◆ ◆ ◆
鐘が鳴った。
三人が立ち上がった。
エルヴィンが書類を折りたたんだ。
「今日から——いつもより速く動く必要がある。」
「そうだ。」
「準備はできているか。」
私はノートを開いた。
「実験場所:王都北東、旧協会試験場。時期:三日後の夜。行動計画:①フェルト経由で協会への通報 ②王国騎士団への匿名通報 ③ルナとセインが現場近くで待機・介入準備。エルヴィンが記録と事後対応を担当。」
一行追加した。
「三日後。タイムリミットが生まれた。今できることを全て、二日で終わらせる。」
ノートを閉じた。
「準備はできている。」
三人が別々の方向へ歩き出した。




