表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
演算の魔女は祈らない 〜The Witch of Calculus Never Prays〜  作者: N


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/72

第三十二話 半分の男

——魔法学院 北棟 非常階段 放課後


「右腕と右足に魔核が移植されていた。」


踊り場に着いた瞬間に言った。

二人とも黙った。


「……魔核。」

セインが繰り返した。


「暗紫色の魔力が滲んでいた。魔族由来だ。歩き方と関節の動きが人間のものではなかった。」


「いつ目撃した。」

エルヴィンが聞いた。


「今日の放課後。廊下ですれ違った。気づかれなかった。」


◆ ◆ ◆


セインが少し黙った。


「……感知できるか、試してみる。」


「今は必要ない。」

私は言った。

「クロイツがこの場にいない状態で試しても、意味がない。問題は——クロイツが魔核由来の闇属性を持つ今、あなたがクロイツの感知に引っかかる可能性が変わったことだ。」


「引っかかる、というのは。」


「以前のクロイツは土属性だった。あなたの闇属性の深層感知とは、感知の回路が違う。でも今のクロイツは魔核由来の闇属性を持っている。同じ系統の魔力だ。相互感知の可能性がある。」


セインが少し考えた。


「……つまり、俺がクロイツを感知できる可能性が上がった。でも同時に——クロイツが俺を感知できる可能性も上がった。」


「そうだ。」


◆ ◆ ◆


「一つ確認したい。」

エルヴィンが言った。


「どうぞ。」


「クロイツが魔核を移植した——それは何らかの実験が失敗したということだ。どんな実験か、推測はあるか。」


「まだ分からない。右腕と右足を失う実験だったということは分かる。でも目的は——不明だ。」


「失敗しても止まらないということは——」


「実験は続く。」


エルヴィンが書類を手の中で揃えた。

「魔核を持つ研究者が協会の特別研究部門にいる。これは——協会内部でも問題になる可能性がある。父の商会とクロイツの取引が続いているなら、父に伝えるべき情報だ。」


「伝えることを止めない。ただし——魔核の事実をどこまで正確に伝えるかは判断が必要だ。」


「なぜ。」


「魔核移植の事実が表に出れば、クロイツが動きを変える可能性がある。今の段階では、こちらが情報を持っていることを悟らせない方がいい。」


◆ ◆ ◆


セインが窓の外を見ていた。


少し間があった。


「……魔核を移植した男が、闇属性の感知能力を研究していた。」


「そうだ。」


「それは——俺たちの属性に近づこうとしているということか。」


私は少し考えた。


「感知能力のためではないと思う。魔核は機能の補填だ。失った腕と足を取り戻すためだ。闇属性は——移植の結果として付随したものだろう。」


「でも——」

セインが続けた。

「闇属性の魔力を持つ者が、俺たちの魔力を集めていた。それで実験した。失敗して、今度は魔族を捕まえて魔核を移植した。」


「そうだ。」


「全部繋がっている。」


「そうだ。」


セインが壁に背を預けた。

何も言わなかった。

でも——何かを整理しているのが分かった。


◆ ◆ ◆


「次の手を決める。」

私は言った。


「セインはクロイツとの距離を今より広げる。相互感知の可能性がある以上、近づきすぎるのはリスクだ。エルヴィンは父への情報開示を進める。ただし魔核の詳細は今は伏せる。」


「私は。」

エルヴィンが聞いた。


「商会の取引記録に変化がないか引き続き確認してほしい。クロイツの実験が変わったなら、発注する材料も変わるはずだ。」


「分かった。」


セインが少し動いた。


「一つだけ聞いていいか。」


「どうぞ。」


「クロイツは——これからどこへ向かうと思う。」


私はノートを開いた。


「分からない。でも——止まらないことだけは分かる。右腕と右足を失っても書類を抱えて学院に来た。次の実験を考えている。それが何かは——まだ計算できない変数だ。」


「計算できない変数を、どう扱う。」


「注視する。動いた時に素早く対応できるよう、今できることを全て済ませておく。」


セインが頷いた。


「……分かった。」


◆ ◆ ◆


鐘が鳴った。


三人が立ち上がった。


エルヴィンが最後に言った。

「盾が二枚ある。でも——クロイツが次に何をするかで、盾の意味が変わる可能性がある。」


「そうだ。」


「剣に変える条件を、早く見つける必要がある。」


「そうだ。」


エルヴィンが階段を下りた。


セインが後に続いた。

一度だけ振り返って言った。


「全部繋がっている、と言ったが——」


「ああ。」


「繋がっているなら、ほぐす糸口がどこかにある。」


「そうだ。」


「まだ見つかっていないだけだ。」


「そうだ。」


セインが歩き出した。


ノートに書いた。


「クロイツの変化を三人で共有完了。セインの安全確保・エルヴィンの父への開示・取引記録の監視継続。クロイツの次の手は未知数。注視する。」


一行追加した。


「セインは『繋がっているなら、ほぐす糸口がどこかにある』と言った。正しい。でも——まだ見つかっていない。」


踊り場に一人残った。


夕暮れの光が、窓から静かに差し込んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ