表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
演算の魔女は祈らない 〜The Witch of Calculus Never Prays〜  作者: N


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/72

第一話 最弱の称号と、灰色の瞳

——ラエティア王国 魔法学院 新入生適性検査会場


白い石造りの広間に、百人以上の新入生が並んでいた。

全員が正面の水晶球を見つめ、緊張している。

私——グラウ・ルナ——は最後尾から全員の様子を観察していた。


魔力反応の分布が偏っている。

前列ほど貴族の子弟が多い。

魔力そのものが遺産として機能している世界か。


異世界に転生して三ヶ月。

前世の記憶はある。

数学者だった。

宇宙の存在方程式を求めて生き、答えを得た瞬間に死んだ。


この世界の人間には、魔力が見えない。

感じるだけだ。

でも私には見える。

魔法とは世界に記述された構造式の書き換えだ。詠唱は変数の指定。

魔力はエネルギー項。

前世の物理学とほぼ同型の体系だ。


◆ ◆ ◆


この世界の属性は七つある。

火、水、土、風、光、闇、そして無属性。

最初の六つは自然現象か精神現象の一側面を操作する力だ。

光属性は希少で高貴とされ、闇属性は危険視される。


では無属性は? 理論書には一行だけ書いてあった。

『魔法適性なし。欠陥属性』。


◆ ◆ ◆


試験官「次、グラウ・ルナ。」


水晶球に手を触れる。


沈黙。


球はほとんど光らなかった——かすかに、灰色に、一瞬だけ。


無属性を示す色だ。


試験官「……無属性。魔力反応、測定限界以下。」


貴族の少年「無属性? 生まれて初めて見た。火も水も土も風も光も闇も——何もないってことだろ。欠陥品じゃないか。」


別の生徒「なんで入学できたんだろ。顔色一つ変えてないけど、恥ずかしくないのかな。」


笑い声が聞こえた。

侮蔑の視線が刺さった。

どうでもよかった。


火属性は燃焼反応の一側面しか操れない。

水属性は流体現象だけだ。

光属性でさえ電磁波のごく一部に過ぎない。

——ならば無属性は? 

世界のどの側面にも縛られない属性は、どこに干渉できる?


手を離す寸前、私は水晶球の内部術式を読んでいた。

変数は八つ。

うち三つは冗長な補正項。

最適化すれば七十四パーセント効率が上がる。


欠陥品、か。

——その定義が間違っている可能性を、誰も検証していないだけだ。


◆ ◆ ◆


その夜、寮の自室でルナは灯りもつけずにいた。暗闇の中、指先だけが動く。


無属性の正確な定義:特定の自然現象に属さない。火でも水でも光でもない。では何に属するのか。


前世の記憶が静かに答えを示していた。自然現象の外側にあるもの——それは、自然現象を記述する構造そのものだ。


無属性とは欠陥ではない。

世界の表層ではなく、世界の根本定理に触れる唯一の属性だ。


魔力がない、と言われた。

違う。私の魔力は、演算にすべて使われている。


前世で解いた存在方程式の最後の一行が、今も頭の片隅で輝いている。宇宙は選択によって分岐する。


——ならば、この世界を選んだのは誰だ? 私をここへ送ったのは、何の意志だ?


答えはまだ、ない。

でも問いがある限り、数学者は前に進む。

灰色の瞳が、暗闇の中で静かに光った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ