EP33 無人ビルの一室
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翌日の朝の教室。
夏川美穂が辻獅堂のそばに寄ってきた。
そっと耳打ちする。
「行きも帰りも、つけられているみたいなの」
獅堂が聞く。
「いつからだ?」
「昨日の帰りからかな。後ろから小さな足跡がしたり、振り向くと怪しい人影が急いで逃げていく」
「姿や顔は見たか?」
「マスクとサングラスと帽子やフードで顔を隠してて、服も黒っぽい格好だった」
「人数は?」
「たぶん、1人か2人だと思うけど」
「わかった。教えてくれてありがとう」
「私、どうしたら?」
うつむいて目を伏せる美穂。
「しばらく身を隠せ、と言いたいが、そんなことしてたら相手の思うツボだ」
「……」
黙り込む美穂。
獅堂が続ける。
「このまま、普通の生活を続けよう」
美穂はうつむき、自分の体を抱きしめるように体の前で腕を交差する。
そして小さな声で言う。
「わかった」
獅堂は右手を顎に当てながら美穂に言う。
「俺も夏川を守るため、周りをしっかりと警戒する」
美穂は黙ったまま、うなずいた。
不安の色が目に浮かんでいる。
美穂は獅堂に言われた通り、その日も通常通り、部活に向かった。
その帰り道。
今日はもう、学校の前に尾行の男はいなかった。
美穂はほっとして最寄り駅の元大橋駅を降りる。
家までの道を足早に進む。
駅前の商店街を抜けて、工場と住宅街、駐車場が混在したエリアに入る。
後ろから人影が忍び寄る。
美穂の短い悲鳴が響く。
しかし行きかう車の音で誰も気づかない。
彼女の体が崩れ落ちる。
もう一人、男が現れ、2人がかりで近くの黒塗りの車に運び込む。
車は急発進した。
この間、わずか10秒の早業だった。
美穂を襲ったのはスタンガンだった。
強い電撃を腿裏の筋肉に加えられて一時的に体の自由を失った。
そのまま車の中で後手、両足首を縛られてしまう。
口にはさるぐつわ、しゃべることもできない。
車の中の男たちは運転手を含めて3人。
フェイスマスクに黒づくめの服装だ。
車はそのまま都心に向かっていく。
そして港区の外れ、あまり人気のないエリアで停車した。
連れ込まれたのは、港区の雑居ビルの2階だった。
半年後の建て替えが決まっており、入居テナントは実質いない。
その間、このビルは無人となる。
しかし裏では密かに稼働している。
そして、そのほとんどが、表に出せないような用途なのである。
美穂は両手両脚を縛られたまま、木製の椅子にかけさせられる。
そのまま椅子のアームと台座に腕と脚を括り付けられた。
美穂の目の前には大きなソファーが置かれている。
そこへ部屋の奥からもう一人、男が歩いてきた。
筋肉質で身長180cmほど、サングラスに紫の縦縞スーツだ。
男は大きな体をソファにあずける。
音が部屋中に響く。
続いて脚を大袈裟に振り上げるようにして組む。
そして指をパチンと鳴らした。
するとフェイスマスクの男が二人、美穂に寄ってきてさるぐつわを外した。
サングラスのスーツ男はニヤつきながら話しかける。
「夏川美穂、君には今すぐここで、退学届を書いて郵送してもらおう」
引き続きどうぞ、よろしくお願いいたします。




