EP28 立てば杓子、座れば牡丹
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翌日、辻獅堂のシューズボックスに手紙が入っている。
「またかよ!」
おもわず舌打ちをしながら決闘状でないことを祈る。
白の封筒。ファンシーではないが、白い花柄の刺繡が入っている。
どうやら戦いのお誘いではなさそうだ。
獅堂は心からホッとして、封から中身を取り出す。
〈緑川綾乃です。今日の夜、私の家に来てほしい〉
獅堂の腰はくだけ、思わず両手を
膝についた。
「マジか! 超めんどくせぇ!!」
頭を抱えて髪をかきむしる。
その夜、獅堂は綾乃の豪邸の前を訪ねて、立派な門構えの前でインタフォンを押した。
「綾乃様からうかがっております。どうぞお入りください」
年配の女性の声。
どうやらこの家には使用人までいるらしい。
中に入って石畳を歩いていくと、これまた大きな玄関の前に、綾乃が待っていた。
しっとりとした紺色の和服姿だ。
髪もアップにまとめている。
大きな瞳、白い肌の彼女によく似合っている。
かすかに上品な香りも漂い、心地よく鼻をくすぐる。
綾乃が言う。
「ここまで呼び出してしまって、ごめんなさい」
和服姿で頭を下げる所作も凛として美しい。
獅堂は腕組みしたまま、顔をこわばらせて言う。
「これから君のお父上、緑川グループの会長様に尋問されるのかな?」
綾乃がクスリと笑う。
獅堂はちらりとのぞいた彼女の白い歯を見てはっとした。
綾乃が素直に笑った顔を見るのは初めてかもしれない。
綾乃が言う。
「確かにパパは強引にあなたと話すんだって言ってきたわ。でもそんなことしたら、もうパパとは絶対に口を利かないから、ってやめさせたの」
獅堂は頭を掻く。
綾乃が言う。
「この間はありがとう」
「いや、気にすることはない」
綾乃が顔を赤らめて言う。
「私、男の人から体を触られたのが初めてで、あまりのショックで何も考えられなくなっていたの」
「付き合う相手には気を付けたほうがいいな」
「ごめんなさい」
「しばらくは身の安全に気を配ってくれ」
綾乃は素直にうなずく。
そして言う。
「辻くん、あなたはいったい何者なの?」
「何者って?」
「体はスラリとしてるのに、大きな男の人を一瞬で簡単に倒してしまう。普通の人間じゃない」
「相手が油断してたからだよ」
「それだけじゃないわ。私がさらわれたときも、現場に駆けつけてくれた。まるで何もかもがわかっていたように…」
「全て偶然だ。俺はただの平凡な高校生だ」
綾乃は、ため息をついて、こう言う。
「やっぱり、しらばっくれるのね…」
「いや、本当に…」
「もう、いいわ」
綾乃が目を伏せて言う。
しかしその表情は柔らかかった。
彼女が続ける。
「あなたのおかげで、私は傷ものにならずに済んだわけだし」
獅堂はそれを聞いて腕組みをする。
「そんなに身構えないで。こちら、あなたにお借りしたパーカー」
綾乃は獅堂に手渡す。
きれいに洗濯して畳まれ、新品のように包装されている。
綾乃が続ける。
「それとこちらはお礼の手土産。親には詳しく話したわけじゃなくて、送ってもらっただけだって言ってあるけど、どうしても渡せって聞かなくって。お願いだから持って帰って」
見るとお菓子と乾燥食品の詰め合わせのようだ。
「ありがとう」
獅堂は礼を言う。
綾乃が言う。
「帰りは、私の家の運転手の車で送らせるわ」
「いや、普通に電車で帰るから大丈夫だ」
「でも…」
と残念そうな綾乃。
「気にしないでくれ。そのほうが気楽なんだ」
「わかった」
綾乃は家の門の外まで出て、和服姿で獅堂を見送った。
獅堂は帰り道、何度も肩を回した。
大きく息を吸って、ゆっくりと吐く。
やっと、まともな気分になる。
体の変なところに力が入って、妙に気疲れしたようだ。
引き続きどうぞ、よろしくお願いいたします。




