EP23 夏の足音
こんにちは!
お読みいただきありがとうございます!
1年6組の〈セッション〉はいつものメンバーで再開された。
緑川綾乃を除いて…。
メンバーは裏事情を知る由もないが、綾乃の欠席に触れるものは誰もいなかった。
辻獅堂は暴漢たちの脅しに屈するつもりは毛頭なかった。
帰り道のルートを変える。
スタンガン、防犯ベルを常備する。
これで奴らとは十分戦えるはずだ。
セッションは5月の小テストに向けて順調に仕上がっていった。
そして北本倫也を通じて行った噂話の流布。
その効果はてきめんだった。
華道室に仕掛けた盗聴器には録音された音声データが残されていた。
データを再生する。
緑川綾乃は泣いていた。
「私のことを調べてるというのは本当ですか?」
大泉裕一郎は無言のままだ。
「なぜ黙っているのですか? 嘘だって言ってくださいよ」
しかし返事はない。
綾乃が感情をむき出しにした涙声で聴く。
「私が信じられないのですか?」
大泉が言う。
「君は少し慎重になったほうがいい」
綾乃が金切り声を上げる。
「あなたのことはすべてわかってます!」
「いや…落ち着いてくれ」
「会長はわかっていません!」
すると大泉の大きな声が響く。
「わかっていないのは君の方だ!」
それを聞いた綾乃が、部屋を飛び出していく音。
「ここらあたりが潮時だな」
獅堂は華道室に忍び込み盗聴装置を外した。
もし、これが見つかると刑事事件沙汰になってしまうことだろう。
5月の小テストの朝、夏川美穂が獅堂の机の前にやって来た。
松葉杖が取れている。
白いノースリーブのニットに、オレンジのミニスカートだ。
「普通に歩けるようになったの?」
獅堂が聞くと美穂は、
「うん。まず歩くことからだけど」
と花が咲くような笑顔を浮かべる。
美穂が続ける。
「しっかりリハビリして、夏ごろには全力で走りたいな」
獅堂も笑顔を浮かべる。
「よかったよ。やっぱり走っていないと夏川美穂じゃないからな」
美穂は軽く目頭を抑えた。
だがすぐに、ニッと笑って言う。
「で、今日はスカートをはいてきました。美脚をご堪能ください」
「自分で言うか? でも確かにスラリとしてきれいだな」
美穂は獅堂の目をみつめていう。
「辻くん、本当にありがとう。いろんな世界を見せてくれて。自分一人じゃ、勉強の楽しさも本当の学校の楽しさもわからなかったよ」
「いや、それは夏川が持っていた力だ」
美穂は自分の唇に人差し指を押し当てて言う。
「セッションがみんなのものになって、辻くんを独り占めできなくなったのは残念だけど」
獅堂の顔は赤くなる。
「だって、勉強してただけだろ……」
美穂が指でVサインしながら言う。
「でもいつかは、ひとりじめするチャンス狙ってるからね!」
「えっ!?」
目を丸くする獅堂。
上目遣いの笑顔で、美穂が言う。
「でも今は、超忙しそうだから、迫らないであげる」
獅堂は頭を掻き、うつむいて黙り込む。
また今日、お会いしましょう!
よろしくお願いします。




