EP22 人の噂を言うは蜜の味
おはようございます!
お読みいただき、まことにありがとうございます。
翌日、ひどい痛みで目が覚めた。
辻獅堂は冷たい玄関の床で横になっていた。
なんとかベッドまで這っていき、布団に潜り込む。
体はそれきり、もう動かない。
そのまま激痛と気絶のような眠りを繰り返す。
そのまま一日が終わった。
携帯電話の音が何度も鳴っていたが、出ることもできない。
二日目、ようやく少し動けるようになった。
のどの乾きがすごい。
水道の蛇口をひねって、そのまま2リットルくらい連続で水を飲んだ。
時計を見ると午前6時15分だった。
獅堂は通学の支度を始める。
鏡を見ると、目の腫れは少し収まったが、顔の至る所に青あざが残っている。
まぶたやほほに切り傷がついている。
そしてほおがげっそりとそげている。
獅堂はマスクをかけて学校に向かった。
学校につくと、獅堂は〈セッション〉メンバーの女子に囲まれた。
「どうしたの」
「心配したのよ」
石橋奈緒が泣き出している。
彼女たちの質問は、マスク越しにもわかる顔の青あざのことに移った。
「どうしたのその傷は?」
獅堂は、自転車に乗っていて転んで、前のめりに倒れた、と説明した。
我ながら苦しい言い訳だった。
しかし身振り、手振りを加えながら説明すると、彼女たちもなんとか収まった。
その目には疑いの影が残ったままだったが…。
続いてやって来たのは北本倫也だった。
倫也に向かってすねる。
「やっぱりオマエにだけ、女の子が寄ってくるんだよな」
獅堂は、
「少しは俺のこと心配しろよ」
と苦笑いする。
だが獅堂はすぐに真顔になり、倫也に耳打ちする。
「実は倫也に頼みがあるんだ」
そして、ささやき声で話し始める。
しばらく黙って聞いていた倫也だが、
「それ面白そう。乗った! さっそくやるよ!!」
と顔を輝かせ、拳を握る。
北本倫也は、獅堂に指示された通り、三好和江の方に向かって行った。
和江は、おしゃべり好きなショートカットの女の子。
いつもクラスの噂話の中心にいる。
フレアスカートが似合う脚のきれいな女の子だ。
倫也は和江に話しかける。
彼女の顔が少し固まる。
ほとんど話したことのない男子生徒からの声掛け。
警戒しているのだろう。
しかし倫也が話始めると、和江の顔が和らぐ。
好奇心に勝てないように、倫也の話に乗っていく。
そして最後は笑顔を交えながら2人で談笑していた。
話が終わると、倫也は和江に手を振って去る。
満面の笑顔で戻ってきた倫也。
興奮が冷めやらぬ様子で、獅堂にまくしたてる。
「すげーよこれ! こんなに女の子と楽しく話せるなんて思わなかった!!」
獅堂が倫也に依頼したのは単純な噂話の流布だった。
噂話の要点は以下の4つ。
「生徒会長の大泉裕一郎が仲間たちにこっそり調査を依頼したらしい」
「その内容は1年6組のクラス委員・緑川綾乃の行動徹底マーク」
「綾乃は大泉に尊敬と好意を抱いているのに…」
「果たしてこれからどうなってしまうのか?」
この内容を、
「これ知ってる?」
をきっかけに、緑川綾乃が行動を共にしている女生徒4人の耳に入れることだ。
もちろん三好和江もその一人。
正直、下世話すぎる依頼。
倫也の感謝も、いずれ憎悪に変わるかもしれない。
しかし背に腹は換えられない。
彼にしか頼めなかった。
しかし今の倫也は無邪気に言う。
「あと3人、すぐに行って来るね~」
獅堂は頭をかく。
しかし賽は投げてしまった。
あとはなるようにしかならない。
やがて取り巻きの女の子を通じて話は広まる。
遠からず綾乃にも届くだろう。
〈大泉裕一郎が綾乃の調査を仲間に依頼している〉と…。
次はお昼の予定です。
よろしくお願いします。




