EP19 爆弾発表
こんにちは。
お読みいただいて、まことにありがとうございます!
翌日の朝のホームルーム、担任教師の富樫由美は黒板にチョークで
「35/40」
と記載した。
辻獅堂は目を閉じうつむき、額を右手で抑え、ゆっくりと首を数回振る。
「この間の小テスト、お疲れ様でした」
いつもの笑顔で由美がクラスに語り掛ける。
そしてこう続ける。
「クラスの平均点は学年最下位、残念でしたね」
生徒たちがうなだれる。
「で、学校から、重要な資料が届きました。今回の小テストから予測された、皆さんの進級可能性です」
由美は黒板を指さした。
「ここに書いた数字は、進級不可と判定された6組生徒の数です」
クラスの全体から、どよめきが起きた。
それが落ち着くのを待って、由美が続ける。
「これから個人判定結果をお渡しします。名前を呼ぶので、取りに来てください」
封筒に入った資料を、生徒たちが緊張した面持ちで受け取っていく。
誰もが机に戻るなり、周りに見えないように顔を近づけて中身を確認する。
やがて、机を叩く音、すすり泣く声、さまざまな反応が聞こえてきた。
ただし口を開くものはいない。
押しつぶされそうな重圧がクラスじゅうを包んでいた。
そのとき椅子が動き、立ち上がる音がした。
クラス委員の緑川綾乃だ。
「諦めちゃダメ! みんなで進級しましょう」
クラス全員の視線が彼女に集まる。
「まだ高校生活は始まったばかりじゃない。頑張ればテストの点は上がります!!」
しかし生徒たちから声は上がらない。
重苦しい沈黙がクラスを包む。
するともう一人、生徒が立ち上がった。
タカさんこと、小寺孝雄だ。
温厚で穏やかな彼の突然の行動に、生徒たちが目を丸くする。
「緑川さんの言う通りだ!」
小寺はクラスに語りかけるように切り出すと、こう続ける。
「ボクも実は赤点なんだ。でも心配することないよ。ひとつひとつサボらず積み上げていけば学年平均点に近づいていける。挽回は可能なんだ。みんなで頑張ろうよ!」
クラス中から拍手が起きた。
小寺は頭を軽くかきながら、クラス中の全方向に頭を下げつつ、着席していく。
隣や前の男子生徒たちからは、髪の毛をくしゃくしゃにされている。
由美は満足そうに微笑んでいる。
獅堂はかすかに舌打ちして、蚊の鳴くような声でつぶやく。
「面倒なこと仕掛けやがって…」
翌日の昼休み、美穂に勉強を教えていると、女生徒が声をかけて来た。
テニス部で友達が多くて明るい石橋奈緒。
色白で大きく優しい目、いつも笑顔のエクボ、ふくよかなバストが印象的だ。
「お邪魔してごめんなさい。私も勉強を教えてほしいの。ダメかな?」
顔を見合わせる美穂と獅堂。
これはもともと美穂のためのものだ。
それを他の女生徒のために広げてよいのか。
しかし獅堂が問いかける前に、美穂が口を開いた。
「辻くんが大丈夫なら、私はかまわないよ」
獅堂は自分に言い聞かせるように言った。
「…で、あれば大丈夫。一緒に勉強しようか」
美穂の顔は少し翳ったようにも見えるが、きっと気のせいだろう。
石橋奈緒が椅子をこちらに持ってきて、3人での勉強が始まった。
それぞれに合った科目と問題を与えて、それを解かせていく。
詰まったら獅堂が解決法を教える。
石橋奈緒はもともと数学が得意な女生徒だった。
獅堂は彼女の数学を伸ばすのが最も効率的だと判断した。
どんなテストもポイントがアップするよう、解き方のバリエーションを与え続けた。
奈緒は面白がってそれに乗った。
獅堂は言った。
「今度のテストでは数学で学年1位を狙っていけよ」
「え~、無理~!」
と言いながら奈緒は楽しそうだ。
女の子の友達が多い奈緒は、獅堂のことをみんなにも話した。
「辻くんの教え方、すごく上手いの」
それを聞いて女生徒がどんどん、獅堂のもとに集まって来た。
獅堂の勉強会は常に3人から8人が集まる大所帯になってきた。
獅堂はその中でも原石を見つけていた。
国語系は白石久美。
英語系は近藤亜紀。
得意科目で突出している。
この2人であれば、それぞれ科目別で1位を狙えるかもしれない。
奈緒が言う。
「この会、セッションって名前にしない」
白石久美も同意する。
「いいね。堅苦しくなくて、みんなでワイワイやってるって感じで」
全員の拍手が響き、この集まりは〈セッション〉と名付けられた。
今日また、お会いしましょう!




