EP18 卒業可能性25%
こんにちは。
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二人きりの理科準備室。
担任教師の富樫由美は真顔になって、辻獅堂に話を切り出す。
「実力を隠し持ってた辻くんだから言うけど、この学園の編入生は大変なの」
「どういうことだ?」
「あのね、編入生は卒業可能性が低くて50%を切ってるの。一時は25%とも言われてたらしいし。だから学園はこのところ、めったに編入生をとっていなかったのよ。辻君は久しぶりの編入生っていうわけ」
獅堂はすっかり固まってしまった。
由美が続ける。
「辻君の両親は、その話を聞いてもなお、編入に積極的だったと聞いているから、それでも卒業できると自信を持っていたのね」
獅堂は、さらに言葉を失う。
由美が言う。
「なぜ辻君は6組に入れられたのかな? 編入試験は手を抜いてたの?」
獅堂は言う。
「いえ、ちゃんと回答しました」
「そう。じゃあ、何か他の事情があったのかな?」
「俺にはわかりません」
「そうよね。これも内緒だけど、学園の卒業率じたいも、他の高校に比べるとかなり低いの。内部進学生でも80%程度よ」
「2割が退学になるってことですか?」
「ええ、私も知って驚いたわ。この話、公表されていないから」
「先生もこの学園、今年からでしたっけ?」
「ええ。私も新任教師でピカピカの22歳よ」
笑顔でVサインする由美。
獅堂はとても笑う気になれず、ため息をついて言う。
「退学した生徒は、どこに行くことが多いんですか?」
「それが、わからないのよ」
「えっ!?」
「私も気になって調べようとしたけど、データが全く残っていないの」
「何か、ひっかかりますね…」
「そう。まるで周囲から忽然と姿を消しているみたいなのよ」
「ともあれ、2割が退学になるってことは、6組の生徒が、まるまる姿を消す、ってことじゃないですか」
由美が頭を抱える。
「それだけじゃないの。6組には、表も裏も含めて複雑な事情を抱えた生徒が全てぶち込まれているみたい」
それを聞いて獅堂も頭を抱える。
由美が言う。
「だから私は今、韓国アイドルの推し活だけが生きがいなの。現実逃避しないと生きていけないからね」
獅堂はうなずく。
「そこはお察しするよ」
由美が言う。
「あと1年くらい続けて、さっさと辞めて、普通のOLやろうかな、って思ってるわ」
由美は作り笑顔をやめて、さみしそうな表情を浮かべていた。
「気に入らないな…」
獅堂が言う。
「えっ、そんなこと言わないでよ。私だって辛いんだから」
由美が苦笑いしながら言う。
「違うよ」
「えっ!?」
「先生が気に入らないんじゃない。この学園のやり方が気に入らないんだ」
それを聞いた由美は、
「獅堂くんなら、そう言うと思ってたわ」
と満面の笑顔を浮かべた。
それを聞いた獅堂。
歯ぎしりをして、こう言う。
「お前、俺を乗せやがったな」
「まあ、いいじゃない。それが2つめの話につながってくるの。このクラスの話」
獅堂は黙って由美の顔を見る。
彼女は続ける。
「この前、小テストの結果が出たけど、ご存じの通り6組は断トツの最下位だったの。ポイントも最低ランク。学校側から取扱注意資料として6組生徒の年度末予測が送られてきたわ。開けてみたら、ほとんどの生徒が進級不可ランクに沈んでいる」
獅堂はうなずいて、言う。
「なるほど。あんだがさっき言ったように、6組は底辺と問題児が集められた解体寸前クラスなわけだ」
由美が言う。
「この資料をクラスのみんなに見せるべきかな?」
様子をうかがうように、こちらを見つめる由美。
獅堂は、ため息でもつくように、浮かない声で答える。
「当然、言うべきだろ。むしろ黙ってるほうが残酷だ」
由美は目を伏せて言う。
「でもね、これをそのまま6組のみんなに知らせてしまうと、クラスは荒れる」
「当然だな」
「そこで辻君に協力してもらいたいの」
獅堂は目をそらし、腕組みをして、言う。
「俺は何もできないよ」
由美は獅堂の太ももを叩いて、言う。
「正義の味方になって、って言ってるわけじゃないの」
獅堂は由美を見る。
由美が言う。
「あなた、夏川さんに勉強を教えてあげてるでしょ。そんな目をちょっとでいいからクラス全体に向けてあげてほしいんだなぁ」
獅堂は首を横に振る。
「無理だ」
そして続ける。
「誰にも優しくなんて、俺にはできない」
「まあ、考えてみてよ」
由美は獅堂の頭を撫でる。
顔を赤らめながらその手を振り払う獅堂。
逃げるように立ち上がり理科準備室を去っていく。
次はお昼の予定です。
よろしくお願いします!




