EP15 深い河は静かに流れる
おはようございます。
お読みいただきありがとうございます!
辻獅堂が教室に戻ってくると、机の中に変な手触りがあった。
また手紙だ。
「なんだ、またかよ」
舌打ちをしながら、封筒を取り出す。
それはファンシーな花柄の封筒だった。
決闘状には見えない。
開けてみると、夏川美穂からだった。
「2人で話したい MIHO」
とだけ書いてあった。
隣の席で美穂はほほをピンクに染めながら、目線をそらしている。
獅堂は席を立つと、隣の席の美穂に近づく。
そして手のひらを、美穂のピンクの髪にそっと乗せた。
そして言う。
「隣に座ってるんだから、直接、言えばいいだろ」
「だって…」
と、まだ目をそらしながら答える美穂。
獅堂が言う。
「明日のお昼、弁当を作ってきてやるから、一緒に昼メシ食べようぜ」
驚いて、獅堂の顔を見る美穂。
獅堂が、ニッと笑いながら、
「それでいいか?」
と聞く。
美穂は、
「うん!」
ようやく笑顔になって答えた。
その日の放課後。
獅堂が教室を出て廊下を歩いていると、足音を忍ばせるように歩いている男女がいた。
獅堂は瞬時に柱の影に隠れた。
2人は周囲に誰もいないのを確認すると、足早に「華道室」に入っていった。
放課後は、めったに使われることのない部屋だ。
獅堂はその顔を確認した。
ひとりは、先ほどの獅堂への襲撃を隠れて見ていたクラス委員の緑川綾乃だ。
そしてもう一人。
入学式で挨拶をしていたロン毛の生徒会長、スーパー裕一郎こと大泉裕一郎だ。
獅堂はドアに忍び寄って聞き耳をたてる。
全ては聞き取れないが、かすかに声が伝わってくる。
どうやら綾乃と裕一郎は1年6組について話していたようだ。
そして綾乃は、クラスでマークすべき人物の報告を行っている。
だが、なぜか獅堂の名前は挙がっていなかった。
獅堂が襲撃された様子を、影で見ていたはずなのだが…。
大泉裕一郎が言う。
「綾乃、あの件は頼んだぞ。何か状況が変わったら、すぐに報告をくれ」
「謹んでうけたまわりました。すぐにご報告いたします」
綾乃は緊張した声で答える。
2人の話が終わりそうだ。
密室のツーショットを見られたくない両者は別々に出てくるはずだ。
綾乃は1年教室の東側へ、大泉は3年教室の西側へ。
獅堂は中庭に通じる渡り廊下へ走り、華道室のドアが見える位置で待機する。
どちらも渡り廊下には来ないだろう。
先に出てきたのは綾乃だった。
廊下に誰もいない状況を確認すると中の大泉に伝える。
そして1年の教室の東方向に向かう。
続いて大泉が出てくる。
廊下を歩く足音。
大泉は獅堂の予想を裏切り、渡り廊下に向かって来た。
獅堂はとっさに腕組みして壁にもたれ、誰かを待っている振りをする。
大泉はこちらを直視しながら歩いてくる。
端正な目が、鋭く獅堂の姿をとらえている。
獅堂は顔をそむけつつ、間接視野で大泉をとらえている。
3メートルまで近づいたところで、獅堂は相手にようやく視線を向ける。
大泉の目線と獅堂の目線が衝突した。
一秒、二秒、三秒。
大泉は視線を外さないまま歩き続ける。
そして獅堂の真横を過ぎたところで、大泉は視線を前に戻した。
〈男と熱く見つめ合うなんて最悪の気分だ…〉
獅堂は強く願った。
今後、この男とは一切、関わり合いにならないことを。
次回は夕方の予定です。
引き続きよろしくお願いします!




