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第7話 月灯りのクレス

 月森市の月鯨遺跡もまた、霧月市のそれと同じように郊外にあり公園として存在していた。

 ただ、函月のイサナ灯台のように遺跡本体が露出しているのは好都合だった。

 もう、追手は来ないのだろうか。

 来るにしても時間はありそうだ。

 いまの私になら扱える。

 全身が痛んだが気にしている余裕は無かった。

 気持ちはくじけそうではあるが絶望している暇はない。

 あきらめるわけにはいかないんだ。


 月のハモニカを握りしめた。

 今できることはこれだけだ。


 目を閉じ、心を落ち着けようとした。

 エルドは戦っている。

 彼は希望を捨てていない。

 私はひとりじゃない。

 月のハモニカのリードが私の気持ちに共振して静かに光を放っていた。

 いま、ありったけの希望の旋律を投げかける。



『日めくりカレンダー』


 大きなブロック 気づけば半分

 減っていくほど 近づく 記念日

 減っていくほど 募る キミへの想い

 見えているのは 今日という数字

 見えているのは 今のキモチ

 でもね 知ってる

 明日 想うのも キミのこと

 毎日 捨てた わけじゃない

 毎日 めくって めぐる ソラ

 自転 公転 暦 読み

 彩れ 四季の 惑星軌道

 キミとボクの 日めくりカレンダー




 本当に驚いてしまった。

 旋律が重なったのだ。

 こんなところで協演だなんて。

 気配に振り返るとひとりの少女がはにかんでいた。

 その少女はまるで真昼の月灯りのように密やかに、だが確かにそこに存在していた。

 その少女の吹くそれは、月鯨石でできたフルートだった。

「すみません、お邪魔しちゃって」

 少女はこちらに微笑みかけた。

 私よりはるかに若いその少女は落ち着いた様子だった。

 別に公園で楽器を奏でていても違和感はない。

 だが手にしているそれがあきらかにこの事態に直結していることはわかった。


「素敵なメロディですね」

 少女は鈴音のハモニカに興味を示した。

「わかる人にしかわからないですもんね」

 少女も私のハモニカが月鯨石でできていることを知っているのだろう。

 クレス・フィンと名乗ったその少女は月森の遺跡の壁面に触れた。

「待ち合わせのつもりだったんですけど、当てが外れちゃって。待っているだけって、寂しいですよね」

「信じていれば、来るよ。でも、本当に会いたければ、自分から逢いに行ってもいいんじゃないかな」

 何を言っているんだろう私は。

「お姉さんも、待っていたんですよね?会いに行かないんですか?」

「私は、置いて行かれたから」

「一緒に、行きません?」

「うん、そうだね」

 クレスに微笑みかけた。

 なんだろう、この子に感じる寂しさは。

 でも私とは違う。

 あきらめていないんだ。

 挫けていないんだ。

 そうか、私は立ち向かうふりをしながらも無意識に負けを覚悟していたんだ。

「ねぇ、クレス、力を貸して!」


 クレスはシフォンとメレを見るなりすぐに手を貸してくれた。

「大丈夫です、すぐ飛べますよ」

 やはりそうだった。この子も『職人』だ。

「工具はないわ、 いえ、ここにあるか」

「はい、ここにも」

 ハモニカとフルート。そして月森の遺跡。

 あとは旋律があれば月鯨石は再起動できる。

 二人の奏でた旋律に、シフォンとメレが息を吹き返した。



「巻き込むつもりはないのだけれど」

 舞い降りてきた真昼の闇にクレスは怯えた。

 目の前のガーディスが放つその闇は二人の周囲を包み込んだ。

 二人とも修復に夢中だったのでそれを察知できなかった。

「大丈夫です、闇なら慣れていますから」

「ごめんね、事情を説明する暇もない」

 メレのフィールドで守られてはいるものの、二人に逃げ場はなかった。

 ガーディスがメレのフィールドを破るのも時間の問題だろう。

 この子をこれ以上巻き込んでしまうわけにはいかない。

「シフォン、飛べるよね。私があいつに切りかかったら、クレス連れてすぐに飛び立って」

 クレスが袖を引っ張った。

「そういうの、いけませんよ、鈴音さん!」

 そうだけど、……そうか。

 エルドと同じことをしている自分が滑稽だった。

 いまは、一人じゃないことが力なんだ。

「二人でいることを最大限に生かしましょう」

「そうね、二人ならできるか」

「はい!」

 この子の笑顔はなんて力強いのだろう。

 こんな状況なのに。

 それに比べて私はどうだろう?

 いつも泣き叫んでいた。

 温かい仲間に支えられていたのに。

「ここの石、きれいに保存されていますよね」

「ほんとだね。イサナ灯台を思い出す」

「鈴音さんの奏でる旋律、素敵です。でもすこし寂しいかなって」

「うん、いっつも自分勝手に悲しんでいたからね」

 ちひろさんにしてもらったように、クレスの頭を抱いた。

 まずはこの遺跡の力を借りる。

「クレス、いくよ」セッションを始めた。

 二人の旋律を受けて、月森の遺跡が共振した。

 振動波を制御できる。

 圧縮し指向性を持たせた振動波を、ガーディスに向けて放った。


 さすがに数が多かった。

 1体2体は破壊することができる。

 だが向こうだって、そういう目的を受けているのなら手加減しないだろう。

「打開策が欲しいよね」

 クレスは私の手を握った。いくら二人でいたって怖いに決まっているだろう。

 状況は改善しない。反撃というよりは小さな抵抗でしかなかった。


 ふと、落雷のような大音響とともに霧が払われた。

 一瞬で青空が戻る。

 何が起きたの?

 遺跡の共振?

 誰かが霧を吹き飛ばしたのか。


 一台の大きな黒い車両が私達とガーディスの間に割り込んで急停車した。

 そこから降りた人物が、手にした何かからガーディスに振動波を放った。

 間違いない、月鯨石の振動波だ。

 ガーディスは動きを止めた。

「霧を払った! コアを撃て!」

「は、はい! クレス!できる?」

「はい!」

 二人で旋律を放った。

 遺跡に届いた旋律は空気を振動させ圧縮し一点に集中される。

 プリズムのように光を反射させ矢となりガーディスを射抜いた。

 そしてそれは完全に停止した。


 車両のドアが開いた。

「お待たせしました! 函月市まで2名様ご案内でーす!」

「ちひろさん!?」



 状況を把握するのに時間はかからなかったが、気持ちの方が追いつかなかった。

「鈴音が何かしてることくらいはわかっていたけどね、こちらの黒羽さんから事情を聞いて思い当たったの」

 ちひろさんは私が月鯨遺跡を廻っていることを知っていたのだ。

 車両を運転している黒羽と呼ばれるその青年、さっき私たちを助けてくれたその人は黙ったままだった。

「葵交易さんとこの関係者らしいよ」

 おじいちゃんの?!

「俺はまだ信用していないぞ! してないぞ! だから鈴音ちゃんを苦しめるやつを見張ってやるんだ!」

 同乗している山城さんは鼻息荒くふんぞり返った。

「わたしも初めて聞いたけど、KAGUYAって組織、月鯨石の管理法案に乗じて組織されたみたいなんだけど」

 この大型車両と言い、黒羽さんの装備と言い、その物々しさはまるで映画なんかの特殊部隊みたいではある。

 月鯨石をそういう事に使おうとしていたの?

 クレスが手を握ってきた。

「大丈夫、みんな信用できる人たちだよ」

 クレスが頷いた。

「あの、まだ、帰れないんです」

 ちひろさんがわたしとクレスの頭を抱いた。

「抱え込むなって言ったでしょ? まず、今できることを整理しようか」


 人気の無い郊外で車両を止めて、空に浮かぶ黒い一点を見上げた。

「クレス、ごめんね、さっきのセッションであなたの声が聞こえたよ。あなたの待っている相手って」

「はい」

 クレスと共に旋律を奏でたときに、彼女の想いが解放されていた。

 旋律は言葉を超え想いを共振させる。

 鈴音はそれを聴いた。

「レイドは私を守ってコッグガーディスに感染しました」


 語られたのは遠い昔のクリスタライン達の戦いの記憶だった。

「って、君!うちゅーじんなの!?」

「槐多さん、お約束リアクションはいいから!黙って聞く!」


 戦いが拡大するのを恐れたクリスタライン達は太陽系を去った。

「最後の仲間が旅立つまで、レイドは戦い続けました」

「彼が君を逃がさなかったのは運命共同体だからか?」

 黒羽さんが初めてクレスに話しかけた。

「いえ、私は隠れて残って最後までヴェルを調整していたんです。でもそれが」

 クレスは言いかけて曇った。

 私はクレスの手を握る。

 クレスは握り返した。

「相打ちでした。レイドは感染してしまったんです」

 だが手段はあった。クレスはあきらめてはいなかった。

 大破し月に不時着したヴェルの中で、彼女はレイドを守り続けた。

「時間が必要でした」

 クリスタライン達は去ってしまったが、地球には多数のヴェルが残されていた。

 ヴェルは地球の生命と共にあり続ける。

 地球の生命活動がヴェルを活性化させていれば、ヴェルから放たれた振動波がエネルギーとなり、月のヴェルに届く、そしてそれがワクチンになる。

 だがそれには気の遠くなる時間が必要だった。

「レイドは自らを封印しました。私は……」

 彼を見守るために残ったのか。

 長い時間、たった一人で。

 どんなに寂しかったろうか。

 クレスを抱きしめた。

 彼女の強さに畏敬の念すら覚えた。

 山城さんは号泣している。


「悪いが、冷静に見て今、戦力的に勝機はない」

 黒羽さんが言い放った。

 エルドとレイドの戦いを観測していたのだ。

「おい!てめぇ!」

「槐多さん落ち着いて」

 ちひろさんが山城さんを宥める。

「月鯨石は、本当に歴史から無視されたわけじゃない。彼女のような『職人』がいるように」

 黒羽さんは言いながら車両の後部ハッチを開けた。

 月鯨石が機械に接続されていた。

「力併せりゃなんとでもなるってことでしょ!」

 ちひろさんが私とクレスの手を取って振り上げた。


 なんて心強いのだろう。

 一人じゃなかったんだ、私は、最初から。

「もう大丈夫だよ、クレス」

「はい」



 そうしてまた、それは降りて来た。

 エルドがどれだけ『汚染』を抑え込めるかわからないが、残された時間は長くはないだろう。

 ガーディスの集団はすでにこちらを認識している。

「一度に降りてくる数が決まっているだけマシだな」

 黒羽さんの提案で月森の遺跡に折り返した。

 戦うならあの場所のほうがいいだろう。

 それにさっきのセッションで月森遺跡の航海石に灯が入った可能性がある。

 ガーディスは航海石を目指して降りてくる。

 そして何より私たちは月鯨石を使える。

 覚悟は決まった。


「憎まれ役を買って出ているわけだが、言わせてもらう。君たちのような女子供に戦わせるのは本意じゃない。だが戦力的にはそれが最善の手段だ。俺はそこまで石を扱えない」

 車に積んでいた装備を降ろしながら黒羽さんは言った。

 月鯨石で造られた武装なのだろう。

「君達にとって大切な石をこう使うのは悪趣味と思うだろうが、役に立たないって程じゃないと思う」

 遺跡の横に置かれた大きなコンテナを開けた。

 黒羽さんが『組織』に手配したらしい。

 ドローン?

 月鯨石でできたそれは小型ヘリほどの大きさの乗り物のようであった。

 ちひろさんと山城さんはただただ茫然としている。

「人のやる事を規制しといて、こんなの作ってたんだ」

「あの法案、彼女のような純粋な職人を守るためのものなのだそうだが。こっちが専門家になりゃ、職人は物騒なモノ作るのに駆り出されないだろ? まあ、誰も宇宙人対策なんて想定してないだろうがな」


「クレス、一緒に行こうか」

「はい」

 シフォンとメレがくるくると私たちの周りを飛び回った。

 私達二人の放つ旋律と、シフォンとメレが遺跡からダウンロードしたプログラムが融合し、その機体に変化を与える。


 シフォンとメレがそれに融合した。

「月晶機リィンクレスティア、私たちの翼」

 再構成されたそれに二人で乗り込んだ。

 目指すは空に黒く浮かぶ一点だ。


 待っているだけでは何も変わらない。

 自分たちから行かなければいけないんだ。

 私とクレスは手を取り合った。



 ◇第7話 月灯りのクレス・おわり◇

第8話に続きます


 〜〜〜


★登場人物★


☆クレス・フィン 12歳

月の結晶遺跡に眠っていたクリスタライン。

過去に太陽系に飛来したクリスタライン一団の一人でレイドと共に眠りについていた。

「敵」コッグガーディスによりクリスタラインは分断され太陽系を去ったが、その際にレイドと共に取り残された。



☆クリスタライザーレイド

クレス・フィンに仕える結晶勇者クリスタライザー

過去に太陽系に飛来しクリスタラインと共にテラフォーミング活動したクリスタライザー。

コッグガーディスの襲来によりクリスタラインたちは分断されてしまい太陽系を去ることになった。

その時にクレス・フィンを守ることを命じられている。



黒羽(くろは) 清輝(せいき) 男・25歳

月鯨石の加工が可能になったことで兵器転用されることが懸念され、管理するため実態調査の目的で設立された組織・KAGUYAの一員。

鈴音の祖父・葵家とも通じており、鈴音の動向を見守っていた。

超法規処置で加工された月鯨石の装備を持つ。

音波バズーカは厚さ10センチのコンクリートを打ち抜く。(メーカーマニュアルより抜粋)

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