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第6話 孤独の空に

 こうして「慣れて」しまうのだろうか。

 慣れたら、薄れていくものだろうか。

 薄れたら、忘れてしまうのだろうか。

 忘れたら楽になるのだろうか。

 そしていつか思い出したときに、ただ懐かしいとだけ思うのだろうか。

 それが涙を枯らす手段なのだろうか。


 いま自分が何をしているか考えるゆとりなんてないのだけれど、半年前からは想像だってできやしない姿だろう。

「奏月刃!」

 身の丈程もある巨大な刃を振りかざしその風圧で刀身内部の結晶石を共振させる。

「砕結晶刃!」

 剣術というものとも違うのだろうが、見様見真似の知識しかない。

 あとはエルドのライブラリから流れてくる「直感」だけが頼りだ。

 反射神経や身体機能が人並みではなくなっているのは理解できる。

 エルドの体内にシンクライドしている間だけではあるけれど。

「3体目!」

 爆煙を浴びる度に結晶石から放たれる音波の奔流で視界を確保するが心の霧は一向に晴れない。


 エルドは「夢」をみる。

 星琉の記憶の断片がエルドのアルメジスティアムに引き継がれ、時折発露するのだ。

 そのきっかけが私自身であることも理解した。

 私の体に蓄積されているアルメジスティアムが無意識に、エルドのアルメジスティアムコアに共振し「夢を共有」してしまうのだろう。

 私が想えば想うほど、あの人の記憶が出てくる。

 だが、星琉が思い出している、というわけではなかった。

 星琉の記憶が引き出されても、今のエルドには他人の記憶だった。

 エルドのボディに星琉の精神が宿ったのなら、それは記憶を失くした星琉であるはずだった。

 たしかに人格は似通ってはいた。

 だが、その心が星琉に戻るわけではない。

「すまないが、わたしの意識は『エルド』なのだ」

 私が求めても、彼を苦しめるだけだろう。

 そしてエルドは私の悲しみを知ってしまっている。

 お互いに不器用な気遣いを続けるしかなかった。


 前よりも一緒にいるのに、あなたは私を知らなくて。でもあなたはあなたでしかない。

 私に都合よく振る舞ってもらう必要なんてない。いまのあなたもこれからのあなたも全部受け止めたいから。

 でもこれも全部私の都合。

 あなたはあなたの望むことを成し遂げてほしい。

 その先で肩を並べるのが私でなくてもいいから。


 いままでずっと待っていた。

 でももう、待つのではない。

 進まなきゃいけないんだ。

 消えた星琉を待つことはない。

 終わりを迎えたお店でお客さんを待つことはない。

 ここからは私が歩いていけばいいんだ。

 星琉がお店に来たように。

 どこに向かうかなんて、わからないけど。




『キノウノキボウ』


 ヒジ ヒザ カカト

 ネイル 毛先 眉 鼻毛?!

 アロマキャンドル 吹き消して

 ツキアカリ 化粧水

 オリオン 三ツ星 見つけたら

 さてさて 今日の偏差値は?

 昨日の理想 叶えましたか?

 明日は 女優に なれますか?

 今日の トキメキ

 明日は 初期装備?

 苦労は 過去形?

 歩数計 消費カロリー

 理想のワタシへ 経験値

 踏み出せ キボウ

 踏み消せ マヨイ

 行先不明の ユメのせて



「これってさ、やばくない?」

 ガーディス1体1体は確かに強くはなかった。

「消耗戦ってやつだよね?」

 もてあそばれているというより、最初から計算されているのだろう。

「こちらとて戦力に余裕はあるが」

 エルドはまだ強気だった。

 そもそもこの勇者は疲労したり、エネルギー補給なんてしないのだろうか。

 たしかに私だってまだ体力は持つ。

 それにしても先が見えなさ過ぎる。

 次第に焦りが生まれた。

「姫の言うとおりだろう、奴らはこちらの『手』を見ようとしている」

「戦力分析?」

「おそらく」

 大技を使えばそれも解析されるってことか。

「いいじゃない、わたし達の力を見せてやれば。とっととラスボスに登場してもらおうよ」

 見えない敵がいる。

 だったら引きずり出せばいいじゃない。


 沈黙が訪れたのは、目の前にいる5体のガーディスを粉砕した後だった。

「来ないね?」

「いや、すでに来ているのだろう」

「こそこそ隠れてるなんて、趣味悪くない?」

「違和感がある、たしかにコッグガーディスの反応なのだが」


 そして現れたそれは、確かに予想外であった。

「クリスタライザー?」

 自分の目から見ても、「それ」はエルドと同質の存在に見えた。

「だが、反応はコッグガーディスだ。おそらく、いや、間違いなく、汚染されている」

 クリスタライザーが乗っ取られたってこと?

 エルドが白磁の騎士ならば、目の前に現れたそれは黒曜の武士だ。

 今のエルドのように、この黒曜の武士も「自我」を持つのか。

 それとも、エルドがボディとライブラリを残して星琉の意識を取り込んだように、何者かが残されたボディに融合したのだろうか。

「レイドタイプ、戦闘特化体だ」

 立ちふさがるように現れたそれは、戦うでもなくこちらを見据えていた。

「エルドのお知り合い? あなた達って戦わない種族じゃないの? なんにしても航海石が目的なんだよね。話し合いは無理そう?」

 黒い霧をまとい、全身に赤いヒビを走らせた黒曜の武士は静かに動いた。

 その違和感から警戒心を解くことはなかった。

 いつでも来なさいよ。こっちだって戦闘態勢だ。



「姫! しっかりしろ!」

 呼吸さえ厳しかった。

 何が起こったのかはわかる。

 油断しているつもりもなかった。

 ただ、たったその一撃で、行動できなくなるほどのダメージを受けるとは思ってもいなかった。

「自分の心配もしたらどうなの……」

 私がこれだけのダメージを受けたなら、エルドはもっと厳しい状態だろう。

 正直、ひるんでしまった。 勝機が見えない。

 また、黒曜の武士が腕を振りかざした。

 エルドに余力があるとは思えなかった。

 負ける。

 それが意味することを考えたくもなかった。

「むしろ好都合かもしれぬ、レイドタイプにコッグガーディスが寄生しているなら」

 何を考えているの?

「2体分のアルメジスティアムコアならコッグガーディスの汚染を緩和できよう」

 何を言ってるの?

「姫、頼みがある。ヴェルの航海石を開放してほしい」

 私の周囲にずらりと月鯨石のアクセサリーが現れる。

 すべて私が創ったものだ。

 エルドの力になるかもと思い持ち出していたのだ。

「あなたがあれを取り込もうっての? だめだよ!耐えられるわけないじゃない!」

 戦闘でダメージを受けているうえに、あの黒曜の武士のように汚染されてしまったら……。

「シフォン、メレ、姫を頼む」

「だめだ! エルド!」


 リンクが切られてしまった。

 不意にエルドの外に放り出された。

 私を包んでいた温かさが失われる。

 覚えのある喪失感が私を奈落へ落とそうとする。

 絶望が思考を止めようとしていた。

 また闇にのまれる!


 シフォンの背が落ち行く私を柔らかく受け止めた。

 黒い霧に呑まれる前にメレがフィールドを張る。

「エルド! だめだ! エルド! 言うことを聞け!」

 だめだ! 離れるな!

 黒い霧に隠され、エルドと黒曜の武士が組み合っている姿が見えなくなった。

「二度も一人にしないで! 星琉!!」




 空に黒い霧が浮かんでいるのは、明らかに異様ではあったが、気にしなければ鳥か航空機程度にしか見えないだろう。

 真昼の空に動かないその点を、月森市の人々は誰一人として気にも留めなかった。



 放たれた『追手』から私を守るためにシフォンもメレも痛手を負った。

 地上にたどり着いた後、二人とも私の手の中で光を失ってしまった。


 私一人しかいない。

 私の創った月鯨石のアクセサリーたちも、色を失っていた。

 このアクセサリー達も私を守っていてくれたんだ。


 全身の痛みよりも、孤独感で足が動かなかった。


 エルドのリンクも切れてしまっている。

 彼の声は聞こえない。

 いつも下げているペンダントはない。

 それを握りしめ、温かさを得ていたのに。

 今はそれが欲しいのに。



「いいかげんにしなさいよ!」

 振り返り、迫りくるガーディスを見据えた。

 もう、誰もいない。

 手にかざした月のハモニカを大きく振った。

 風切り音がハモニカの月鯨石を共振させ空気の刃を作り出す。

 生身の身体で、世界で最も鋭く、世界で最も弱い刃を振るった。



『絶望ワルツ』


 はじめようか、血染めドレスの姫君と

 はじめようか、虚構の鎧を纏う勇者と

 はじめようか、絶望の輝き照らすステージで

 不死身の夢を携えて

 悪夢の森に迷い込んだ小鹿のように

 迷い 苦しみ カエレナイ

 希望踏みにじる 漆黒のシナリオめくり

 釣り上げられた幕は斬首台

 こまねく恐怖どもを蹴散らしてやる

 奈落に消えてスタンドオベーションを浴びるまで



◇第6話 孤独の空に・おわり◇

第7話に続きます

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