第7話 鬼の城
「君の頭は存在している」
目の前の鬼人種はそう言った。
俺の頭があるだって? いきなりこいつは何を言ってるんだ。
そもそもあったとして、何故こいつがそれを知っている?
「ヴァルさ~ん。置いてっちゃうよ~」
遠くからルサの声がする。気が付くと、三人はかなり遠くまで歩いていた。
俺は謎の鬼人種に頭について聞こうとしたが、再び振り返ったときにはその姿はなかった。
先ほどまでそれが立っていた場所には、黒い羽根が一枚落ちているだけだった。
今起こったことを全て理解できていないが、これは謎への手掛かりになるかもしれない。
俺はその羽根を拾いあげ、三人のもとへと向かう。
「すまんすまん! 今行くよ」
子供たちに追いつき、再び並んで宿へと歩きだした。
相変わらず今日の夜ご飯について話している。
俺はそれよりもっと大きな謎が生まれちゃったよ、とは言えないので静かに後ろを歩く。
俺の頭があるとして、それを探しに行くべきなのか?
別に今の時点で困っていることはないし……いや、頭があれば食事が出来るかもしれない。
気が向いたら探してみるか。
ぐるぐると思考を巡らせていると、宿が見えてきた。
女将さんが建物の外を掃除しているのが見え、子供たちが一斉に走り出す。
のんびり歩いて宿にたどり着き、入ってすぐの場所へワイルドボアの毛皮を置き、女将さんを探そうとした。
その時、階段から足音が聞こえ、キビが二階から降りてきた。
「おや、戻ってきたんですね。おかえりなさい」
「キビ、用事は済んだのか? 」
「終わったとは言えません……が、ちょうどそのことであなたを探していたのです」
俺を探していたってことはついにあれか。
続けてキビが話し出す。
「私たちの王、モモ様に会いに来ます。ついてきてください」
宿から再び市場の方へと歩く。
俺は周りをきょろきょろ見回したが、先ほど現れた怪しい人物は見当たらなかった。
そんな俺を見て、隣を歩くキビが話しかけてきた。
「なにか気になるお店でもありましたか?」
「いや、見ていただけだよ」
「今朝は子供たちのお手伝いをしてもらったそうで、ありがとうございます。」
「お手伝いなんて大したことはしてないよ。こんな俺でも怖がらずに話してくれるなんて嬉しかった」
「あの三人は特に好奇心旺盛ですからね。他の子たちを先導してくれて、とても助かっています」
子供たちの話をしているキビはとても楽しそうで、あの子たちを好きな気持ちが伝わってくる。
そんなキビが立ち止まり、少し真剣な表情でこちらを向いた。
「王に会う前に知っておいてほしいことがあります。この世界で起こった戦いの話です」
「戦い? 」
「この世界ではいくつもの種族が争っています。この魔族領ではかつて多くの種族が土地を奪い合い、戦争を続けていました。そして今、人間との戦争が南の大地で続いています」
人間……この世界は魔族だけの世界ではないということ。そして人間と魔族は敵対関係にある。
元人間で現魔族である俺にとって複雑な環境だ。
「あの子たちは皆、人間との戦争で親を失っています」
「そうだったのか……それであの孤児院に」
「ええ、実は私もあの孤児院出身なんですよ。もっとも、私の場合は生まれたときから親がいませんでしたが」
さらっと言うなよ、それを茶化せるほどひどい人間じゃないぞ俺は。
人間と魔族、敵対しているのはよくある話だ。そしてどの物語でも人間が善で魔族が悪として描かれている。ただ、人間に殺された魔族の立場を知ることになるとは思わなかった。
ふと、気になったことをキビに聞いてみた。
「この話をしたってことは、魔物の暴走も人間が関わっているってことか? 」
「それは分かりません。不死王と呼ばれる人物が前線を押し上げ、現在こちらの領土に人間が入ってきているという話は聞いていません。しかし……」
「? 」
「暴れていた魔物から異常な魔力を感じました。そしてそれは――」
キビが立ち止まり、鋭い顔で俺のことを見た。
「――明らかに人間の魔力が混ざっていました」
街の大通りへ歩くと、開けた視界に黒鉄の城塞が現れた。
どこか既視感のあるお城……ってこれ日本のお城そのものじゃないか。
修学旅行でこんなお城を見に行ったような記憶が、脳内の片隅から顔をのぞかせているような気がした。
これもはっきり思い出せないな……
キビが城を見上げ、後ろを歩く俺に声をかける。
「あれが鬼人種を統べる王の居城、『鬼ノ城』です」
キビの表情が少し暗くなる。どうした、王様に会うのが怖いのかな。
無敵人間に見えるキビにもかわいいとこがあるじゃないか、と思ったが本人に言うのはやめておこう。
城門の前に着くと、キビが門番の兵士に話しかける。
「王への謁見を願います。魔物の暴走に関する調査についてお話があります」
「後ろのそいつはなんだ? 王の命を狙う手先じゃないだろうな? 」
「王に危害を加えることは私が許しません、ご安心ください」
冷静にキビが返答すると、門番は納得したような表情で門を開くよう指示した。
歩き出したキビを追いかけて城の中へと入る。
目の前の大きな城までは中庭が広がっていて、その真ん中を二人で歩いて進んだ。
中に入ってからというもの、キビは一言も話さなくなった。表情も険しいままだ。
中心の大きな城に近づいたその時、城から何かが飛んでくるのが見えた。
それはだんだんこちらに近づいてくる、あれは……斧? って、こっちに向かってきてないか?!
慌てふためく俺をよそ目に、キビはじっと城の入り口を見つめている。
いや、このままだと当たっちゃうよ? あんなの当たったら確実に死ぬ。
ちくしょう、こんなところで終わってたまるか、絶対に避けてやる!
右か左か……右だ! 俺は不格好な姿で横っ飛びを繰り出した。
鎧の体は思っていたよりも重く、その距離は剣を避けるにはとうてい足りていなかった。
向かってくる斧が眼前に迫ったその時、キビの手が動き、斧が真っ二つに割れていた。
助かった……のか? また助けられてしまった、ありがとうキビ。なんだか甘い感じがするな。
そんなことを考えながらキビの方を見ると、じっと一点を見つめている。
俺も同じ方へ視線を向けると、城の方から数人の鬼人種がこちらへ歩いていた。
そしてそれは少し離れたところで立ち止まり、真ん中に立つ女性がこちらへ鋭い声を放った。
「その者をこれ以上城に近づけることは、私が許しません」
「モモ様、ここで結構です。本日は大事な話があり、この者をお連れしました」
どうやらこの人が鬼人種の王様らしい。王って聞いていたからどんな怖い人かと思ったら、かわいい女の子じゃないか。
桃色の長髪にキュートなお顔、王様というにはとても幼い印象を受けた。
王様は困ったような表情で、再び話し出す。
「どうしてこのような時に見ず知らずの者を――」
そこで王様の声が止まり、鬼気迫る表情に移り変わっていく。
「答えなさいキビ、どうしてその者からあの魔物たちと同じ匂いがするのですか」




