第6話 はじめてのおつかい
転生2日目の朝、バーバさんから近くの孤児院の子供たちのお世話を任された。
お世話といっても何かをするわけではなく、一緒に過ごしてほしいとのことだったので、まずは市場へ買い物に行くことになった。
大人数だと俺が困るだろう、というバーバさんの計らいで、俺の隣には3人の鬼人種の子供が歩いている。
「その鎧の中ってどうなってんの? 首の炎って熱い? なんかスキル持ってんの? 」
好奇心旺盛でマシンガンのように質問をぶつけてくるこいつはルサ。
子供たちの中では最年長で、みんなのリーダー的な存在らしい。
背が高く、見た目は中学生くらいに見えるが、中身はガキだ。
「頭がないのに私たちのこと見えてるの? 」
ルサとは反対側を歩き、俺の頭について興味津々なのがヌーイ。
黒い長髪にメガネ。周りをよく見ていて、些細なことにも気が届く。しっかりした女の子といった印象だ。ルサがリーダーならヌーイはサブリーダーといったところか。
「二人とも、ヴァルさんが困っているでしょう」
俺の後ろで二人をなだめているのがジキ。ルサより少し小柄な男の子。
ルサとは同い年で、昔からの幼馴染だという。
常に一歩引いて物事を見る、そんな印象を受ける子だ。クールな俺にそっくりだね。
「ごめんなぁ、俺もこの体のことよくわからないんだ。目とか耳はスキルが再現してるんだよ」
「ヴァルさんスキル持ってるんだ! 俺もこの前やっと手に入れたよ! 」
「ルサのスキルは鬼人種の男性なら全員が身に着けるものでしょう、ヴァルさんのようなスキルを持っている方は初めて見ました」
二人の話を聞く限りスキルはみんなが持っているらしい。だが、俺のスキルはどうやら特別なようだ。五感を再現するスキルなんてゲームの中にも出てこないもんな。
「ルサは何のスキルを持ってるんだ? 」
「『剣術』だよ! この前やっと認められたんだ」
「僕も持っています。まだレベルは1のままですが」
「男子はいいよね。私もスキル欲しいなぁ」
ルサ達の話によると、鬼人種の男子は十歳になると『剣術』のスキルを習得するための試練に挑むらしい。ルサとジキはその試練に合格し、スキルを手に入れたそうだ。
俺もその試練を受けたら剣のスキルを手に入れることができるのだろうか。
せっかく異世界に来たんだし、何か武器のスキルが欲しいよな。いや、魔力関係っぽいチート能力をもらったみたいだし、魔法使いの道を行くのも悪くないか? 鎧の魔法使い……ナシではないな。
その後も子供たちに『剣術』スキルの話を聞きながら歩いていると、目的の店にたどり着いた。
バーバさんに頼まれた買い物は全部で三つ。一般治療薬と練習用の小剣、そしてワイルドボアの毛皮。
そしてその全てを買うことが出来るのが、目の前にある何でも屋【オニソー】だそうだ。
大きなガラスのドアを開け店内に入ると、武器や防具、ビンに入った液体や乱雑に積まれた葉っぱなど、見渡す限りすべての棚に商品が並べられている。まずは一般治療薬を、と子供たちに話しかけようとしたその時、店の奥から一人の鬼人種が姿を現した。
「ようガキンチョ共、今日もバーバさんのおつかいか? 」
「うん! 一般治療薬と練習用の剣を買いに来たんだ」
「ワイルドボアの毛皮も、ですね」
「剣ってことはルサもついに一人前か。ジキに負けないように頑張らないとな」
「もちろん! すぐに追い抜いてやるさ」
ふと、子供たちと話していた男が顔を上げ、こちらの存在に気付いた。
みるみるうちに表情が変わり、口をパクパクさせながらこちらを指さしている。
「ば、化け物!?! 」
初めてびっくりされた。その反応をする人もちゃんといるのか。
キビもバーバさんも冷静だったから、この世界だと首がないのはよくあることだと勘違いするところだった。
「この人はデュラハンのヴァルさんだよ! キビ兄ちゃんが連れてきたんだって」
「どうも、ヴァルだよ」
軽く右手をあげ、店員らしき鬼人種に挨拶をする。
「おぉ、そうか。あいつのツレなら悪いやつじゃねえな。化け物なんて言って悪かった」
キビの名前が出ると元の表情に戻り、こちらに頭を下げてきた。
あいつ、人からの信頼が厚すぎるな。銀行の金庫の扉くらい分厚い。
男は顔を上げると、こちらに近づいてきた。
「俺はクラキ、冒険者向けの何でも屋をやってる。探し物があるなら、まずうちに来てもらえば力になるぜ」
「あぁ、よろしくな」
握手を交わし、さっそく本題に入る。
「それで買い物についてなんだが」
「ちょっと待ってな、すぐに用意してやるよ」
そう言ってクラキは店の奥に入ると、大きな毛皮を持って戻ってきた。
「剣はその辺にあるやつから好きなのを選びな。ルサ、お前が使うんだろ? 」
「うん! どれでもいいの? 」
「最初の一本だからな、大事に選べよ」
ルサはカゴに入れられた剣を取り出しては構え、握り心地や重さを確かめている。
色んな種類の剣があるんだなと見ていると、ヌーイが数本のビンを抱えてこちらに向かっていた。
「おう、ヌーイ。持ってきてくれてありがとな」
「い、いえ。これぐらい簡単ですから」
ヌーイの顔が少し赤い。へぇ、なるほどねぇ。
剣に夢中になっているルサを横目に、ジキがクラキと話している。
「毛皮は二枚お願いします。あと、切れ端を一枚ほどいただけると助かるのですが」
「切れ端? いいぜ、これくらいの大きさでいいか? 」
「大丈夫です、ありがとうございます」
「クラ兄! 俺これにする! 」
満足そうなルサが剣を抱えて戻ってきた。
装飾がついていない細身のシンプルな剣だ。
「いいのを選んだじゃねえか、立派な戦士になれよ」
「うん!!」
「そんでヴァルさん。この毛皮を任せていいか? 」
そこには畳ほどの大きさの毛皮が二枚積まれていた。
これは子供達には持てないな、それで俺が必要だったわけか。
「もちろん、俺が持つよ」
毛皮を担ぎ、子供たちと共に店を出る。
あれ、お金を払っていないような……
「そういやお金って? 」
「そんなもん必要ねぇよ。その毛皮だってキビが狩ってきたワイルドボアを貰ったやつなんだ。世話になってる人から金は取れねぇよ」
あいつ、そんなに凄い人だったのか。
そりゃ連れてきた俺がすぐに受け入れられるわけだ。
全員が店を出ると、クラキが見送りに来てくれた。
「気をつけて帰れよ! キビとバーバさんによろしくな! 」
「クラ兄ありがとう~! 」
「また来ますね」
「……♡」
店を後にし、三人の子供たちと共に宿に向かって歩き出した。
前を歩く三人を後ろから見守り、街並みを楽しみながら歩く。
子供たちは何やら話が盛り上がっているようだ。聞こえてきた単語から推測すると、今日の晩御飯について話しているらしい。
やんちゃ坊主のルサ、気配り上手のヌーイ、しっかりもののジキ。
バラバラな性格だけど、逆にこういうのが仲良しになるんだよな。
俺もこんな子供時代を過ごしてみたかった……待てよ? 俺の過去が思い出せない。
異世界に来る前の瞬間を覚えていなかったが、さらに過去の記憶がどんどん無くなっている……?
「何かお探しかい? 」
突然、何者かに話しかけられた。
振り向くと、笑顔を浮かべた鬼人種が一人立っている。
しかし、目の前にいるはずの彼、もしくは彼女の顔が認識できない。
まるでもやがかかっているかのように、表情以外のすべての要素が読み取れない。
困惑する俺を置いて、それは話を続ける。
「一つ、いいことを教えてあげよう」
人差し指を立て、顔をぐっと近づけてきた。
「君の頭は存在している」
氏名:ヴァル(以下略)
レベル:不明
種族:屍兵種-デュラハン
////恩恵:魔力 ////《隠匿済》
スキル:
・魔力視認--魔力を形あるものとして認識する
・魔力視覚--魔力がもつ光の情報を読み取り、疑似的な視覚を再現する
・魔力聴覚--魔力がもつ音の情報を読み取り、疑似的な聴覚を再現する
・魔力音響--魔力を通じて思考を音へ変換する
・魔力翻訳--言語を魔力内で認識可能な言語へ変換する
次の獲得スキル:XXX




